四話

女の子が来ると思っていた。
狙いの制服を来た女の子の携帯をスリに金を払って盗ってきてもらい、近くのコインロッカーに入れてもらい、それを回収。
掛かってきた電話に出て呼び出せばいけると踏んだのだが、取りに来たのは男だった。
電話口の女の子は友人が取りに行く、と言っていたのでてっきり女の子が来ると思ってい
た。

しかし目の前にいるのはおそらく2級クラスの呪術師。
しかもだ、呪霊を中に飼っている。
こちらが使えるのは通常のナイフのみ、呪霊でガードされるともう一つの呪具を出さねばならないため、あまりやりたくない相手だ。

ピアスを付けてボンタンを履いた、オールバック、いや後ろで結んでいる男はとてもまじめそうには見えないが、接点は持っておきたい。
もしくは色仕掛け等で人気のない場所に連れていきさっさと殺す。

「これ、落とされた携帯で合っていますか?」
ハンカチに包んだ携帯を見せ、渡す。
「これこれ、本当にありがとう。持ち主からお礼して来いってお金渡されてるからカフェでお茶をおごらせてもらえないかな。」
人の好さそうな笑顔をしている男、夏油を見て笑顔を返す。

「少しだけなら。」



少女は買ってもらったアイスティーとイチゴのショートケーキ、夏油のだろうコーヒーを机に置いた。
少女はわざわざ人が少ない場所で待ち合わせをしたのにも関わらず、夏油に連れられてカフェに来てしまっていた。

「ケーキまで買っていただいてありがとうございますう。」
「いいんだ、お金なるべく使いたかったし。」
夏油は見た目に反してとても丁寧に扱ってくれるため、このまま話を聞かせてくれるのではないかと少女は考えた。

「制服って、改造してもいいんですかあ?」
「そういうのにはゆるい学校なんだ。人数も少ないし。」
「都内の学校なのに、人が少ないんですか?」
「うん、宗教系だし、高専だからね。」
宗教系で高専、これはかなりいい情報だ。
少女はこの時間でできるだけ情報を手に入れて、高専に乗り込むのもいいかもしれないと考えた。

「君は……かなり真面目そうだね。」
少女はきっちりと着込んだブレザーにひざ下のスカート、ワイシャツも第一ボタンまでしっかり留めている。

「真面目だけが取り柄ですから。携帯の持ち主さんはここら辺に住んでいるんですかあ?届けにいかれるんですよね。」
「私たちは学校の寮暮らしだから帰ったらいるよ。」
「なるほど。」

惜しい人材を逃したくないがこのまま帰られたり合流されると面倒だと思ったが、ふと思い出した。
高専で寮付き……呪術高専か、確か近くにあった気がする。
名前まんまじゃないか。
まさかこんなそのままの名前だとは思っていなかったため、心の中でため息をついた。
京都にもあるかもしれないので、後で場所は調べようと考えアイスティーをごくりと飲んだ。

アイスティーは飲んだ瞬間とてもいい香りがした。
シロップとミルクがいい味甘さでおいしい。
どれだけいれればいいかわからなかったので、全部入れてしまったが問題なく飲めそうだ。
大事に飲もうと、ストローから口を離す。

「携帯、お礼していただけると思っていなかったから嬉しいですよう。交番に届ければよかったと思っていたのですが得しましたあ。」
「こっちも助かったよ。どこで落としたかわからなかったらしいから手間が省けた。」
「恐縮です。」

ケーキもなるべくお金を使わないようにしている少女にとって、なかなかに贅沢で美味なものだった。
ケーキなんて父がいるときに誕生日かクリスマスなど、またはたまーに特別にと和菓子を出してもらったぐらいだ。
カフェのケーキなんてそもそも食べたことがない。

未来の就職先、ここにしようかと思うほどに感動してしまった。
無言でちまちまとフォークを刺し、ゆっくりと大事そうに食べる少女に夏油が言った。

「そんなにおいしい?もう一つ食べる?」
「い、いえ。普段食べないもので。」



「ありがとうございました。」
店員の言葉を聞きながら二人は店を出た。

良い情報も手に入ったし、ケーキとアイスティーも美味しかった。
まだ人通りは少ない場所だ。
少女はこのまま通り魔的犯行に見せかけて殺してもよいかもしれないと思った。
裏道に誘えれば尚良し。

「あの……」
その瞬間、夏油の携帯が鳴り響く。
「あ、ごめん電話出るね。ちょっと待ってて。もしもし。」
そう言って、携帯を取って話し出した。

あ、これ今ならいけそうだ。
ふともものホルダーに手を伸ばそうとしたところで「……終わった?……新宿のほら、ああそうそこ、この前に行ったカフェ……」

少女は察した。
最悪だ、場所を知らされた。
心の中に撤退の文字が大きく鳴り響く。

「5分?ああ、ラストの現場が近かったのか……ん、わかった。じゃあ後で。」
少女は5分後と聞いて、逃げることはできそうだと安心した。
電話が終わったであろう夏油はこちらを見た。

「お友達が来るみたいですし、ここでお暇させていただきますねえ。」
少女はにこりと笑った。
「え、ああそう?わかった。今日はありがとう。」
「いえ、こちらこそ。」
念のために連絡先を聞こうと、少女は夏油に向かう。

「……夏油さんの連絡先聞いてもいいですかあ?」
「え?私?」
「はい、ください。」
手帳を取り出して上目づかいでお願いすると、夏油は怪訝そうな顔をしてフルネームと電話番号を書いた。
それを見て急いでしまい、少女は手を振りながら笑顔でお別れをした。

「気が向いたら電話しますう。お友達には内緒ですよ。」

少女は踵を返して颯爽と走り出した。
ふと、夏油という男が電話越しで話していたおそらく術師について少し気になった。
何か、何か胸が騒ぐような何かがこちらに向かっているような気がしたからだ。












5分後、五条が夏油の元についた。
「お〜い傑!」
「悟、終わるの早かったね。」
「速攻だったよ。五条がそこいらから金属バット拾って呪霊をばこんばこん。」
「何それ超見たかった。」
笑いながら家入は夏油に手を出した。

「あ、携帯ね。はいこれも。」
ストラップのついた携帯を家入に渡し、財布からお礼のお釣りを渡した。
五条はそれを見ながら真顔になって夏油に聞いた。

「なあ傑、ここらへんに呪霊いたりしたか?」
「祓うまでもないくらいのはまあまあいたけど、どうした?」
「ふうん。」
五条は納得はしていないような顔をしていた。

「こいつ終わった後速攻で傑に会いに行くとか言って窓に車走らせたんだよ。」
「なんだ悟さみしがり屋か?」
くつくつと笑う家入と夏油を前に五条がキレ散らかしている。

「まあ気のせいだろ。」













逃げ帰った少女はとても機嫌がよかった。
正確には逃げ帰っただけではなく、通りすがりに呪詛師を殺している。
しかも追加で収穫があった。

あるとは思っていたが、呪術を資本とする家が複数あり、それらの存在と場所を知ることができたからだ。
今回殺した相手がたまたまそれらのお家を狙った呪詛師だったため、詳しく話を聞かせてもらった。

「御三家、ねえ。」
他にも「家」はあるらしく、学校まるごとつぶすより、小さい家をつぶすほうがまとめて片付けやすいだろうとターゲットを変えることにした。
全く、こういう情報をなぜ父や集団は教えてくれなかったのだろう。
こういった情報こそほしいというのに、と少女は考える。

しかし、父は本当にこのまま普通の非術師として生きてほしかったんだろうと思う。
家には身を守るもの以外は本当に少女を育てるものしかない。
二択与えると言っておきながら、結局一択の方は与えるつもりがなかったのだろう。
愛を感じる。

閑話休題。
都内に来たのは久々な気がする。
ケーキを食べたのも久々。
今日は機嫌がいいので夏油青年含む学生術師を殺すのはまあ後にしてやろう。
むしろ内部に入り込んでじわじわ殺すほうがよさそうだ。
その代わりに新情報である都内にある「家」のいくつかを全滅をさせてみよう、と踊るような足取りで住宅街を進んだ。

短い髪と白いスカートのプリーツがたなびいた。


[ 4/35 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -