Chapter 31 : 光と炎




アンジェリカは、自分は実体でルフィが
実体ではないと気がついた。

元来の力があっても、天使とルフィには根本的な力の差があった。


「ルフィ、攻撃を続けてダメージを与えろ。
とどめは、わたしが刺す。」

「はあ・・・はあ・・・おう!」


アンジェリカのルースが光を纏い、フィアマは炎を纏った。

「わたしの声だけを聞いていろ・・・わたしだけを信じるんだ・・・ルフィ。」

「・・・。」

「エースの声がまだ聞こえるか?」

「・・・いや、いいんだ。おまえが戦うってんなら、おれはおまえを助ける!!」


ルフィはぐんと全身に力を入れると
あふれかえる生命の中に突進するように走って行った。

「ゴムゴムの・・・JETウィップ!!!」

なぎ倒される大群に向かい、
空から急降下するアンジェリカもその中心から爆発を起こすような斬撃を放つ。


二人の強大な戦士の
闘争本能の爆発とでも言うべき光景は
サタンの笑みを奪っていった。

一人、また一人と天使は崩れ落ち消えていなくなり

聖刀に奪われ行く生命たちもやがて消滅を望み始める

アンジェリカはその血を浴びながら
生命たちにとどめを刺しつづけたのだった。


「あいつだな・・・。」

「ああ?」

「あいつをぶっとばしゃいいんだろ?」

「・・・。いや、あいつだけじゃない。」

ルフィの視線の先に悠然と座るサタンを脇目に
アンジェリカは光る刀と燃える刀を力強く振り続けた。

残る天使、あと9・・・

「その羽の生えた厄介なのと、」

残り時間、あと7分・・・

「己の欲。」


残る天使、あと8・・・

刀の血を振り落とすと、アンジェリカは少し立ち止まった

「どうしてだ・・・何故そう、易々と天使たちを斬ることができる・・・。」

サタンは頬杖をつき、まるで観戦者かのように呟いた。


理性が尽きたように、狂った悲鳴をあげる天使たちを見つめ
アンジェリカはため息をついた。

何千年もの歴史の中で、自分の兄弟たちはこうして消滅していった
そう思うと、いままで自分が何も知らずに生きてきたこと
そして何も知らずに、自分がこうなってしまっていたかもしれないことへの
怒りがふつふつと煮えくり返ってきた。

一度入れば出てはこれないエデン、
だれもその中の実情を知る者、語る者はなかった。

聖書にすら、楽園であるとしか記述されない。
真実は、甘い誘惑だけで膨れ上がった、地獄よりも酷い世界、それがエデン。

ルフィの打撃の攻撃に続き、無駄なくアンジェリカは斬り掛かる。

「罪悪感もないか・・・アンジェリカよ。」

「黙ってろ、すぐそっちに行ってやる。」

残る天使、あと6・・・

だれが考えたであろうか、その刀が天使たちの血を吸うなんて
だれが予測できたであろうか、アンジェリカが天使たちを斬るなんて

たとえ強くなくとも、強いフリをしてきた

最後に立ちふさがる者が、愛するだれであろうと
斬る事ができるか?

ミホークの言葉が頭をよぎる

強き心をもつ、強くある
それはなんて難しいことなんだろうと、アンジェリカは戦いの中で痛感していた
だが、根底にある信念は変わらない

天を、エデンを守る

これは運命ではなく・・・


「わたしの信念・・・。」


残り時間、あと6分・・・

残る天使あと3・・・

「アアアアアァァァァァァ!神よ!どうか我々をぉぉぉぉ・・・。」


突然の叫び声に、アンジェリカとルフィは思わず振り返った。

少し視野を広くさえすれば、このエデンの変わりように気がついていたはずだった。


あたりに気配は感じられなくなり、二人は怒りからだろうか
既に何万もの敵を消していたのだ。

サタンを睨み上げると、そこには背筋を凍らせるような笑顔があった。

大きな噴煙の向こう側、そこに見えたサタンの手元からこちらを振り返る
二人の人影が、ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。

((アンジェリカ・・・ルフィ・・・。))

その声を、二人が忘れるわけがなかった。

「アンジー・・・あれ・・・。」
「違う!惑わされるな!」
「・・・うぐっ。」

見まがうわけがない、その姿を。

太陽の様な笑顔を。

「会いたかっただろう・・・兄に・・・なあ、ルフィよ。」

サタンは立ち上がり、そう言うとルフィに笑いかけた。

「愛し合ってよいのだぞ、アンジェリカ・・・ここは、エデンなのだから!」

はっきりと見える実像のようなエースに、思わず駆け寄りたくなる。


じりじりと近づくそれぞれのエースは、翼で二人を包み込んだ。

((愛してる・・・。))

その言葉に、アンジェリカは思わず涙がこぼれた。

「ル、、、ルフィ!!」

「エ”っ、、、エースッ・・・。」

「違う!わたしの言葉だけをっ、信じろ!」

「でっ・・・でも!」

アンジェリカは見えないルフィが泣いているのもよく分かるし
その気持ちも痛い程よく分かった。

「これは、エースじゃないっ!」
「わがっでるよぉ・・・!」


刀が動かせない・・・斬らなきゃいけないのに・・・

残りあと5分・・・

それはエースの姿をした天使

魂を抜かれた天使に反映された二人の欲

「いいぞ、面白い!」

サタンは笑い声を上げると、玉座にどっしりと腰を下ろした。


「斬れないだろう!殴れないだろう!おまえらの最も愛するそれを!」

「・・・っぐ、やめろっ・・・・。」

エースの姿をした天使はギリギリと二人の首を翼で締め上げ始めた。

((ルフィ、おれと一緒に旅をしよう!ここでだって冒険できる!))

((アンジェリカ、ここで一緒に・・・永遠に、一緒にいるんだ。))



ゆっくりと、自分が呼吸しているのを確かめるように・・・アンジェリカは
眼を開いた。
その姿と目を合わす事も無く、閉ざし続けた口を開いた。




「・・・ルフィ・・・。肉食いたくねエか?」

「あ、そうだな。腹へった。」

「・・・うまそうな肉だな。」

ルフィの眼前に、もうエースの姿はなかった。


アンジェリカもぐっと目を閉じた。

目の前には、ペローナが作ったクマシーが現れた。

「やれ!ルフィ!」

二人はそれぞれの欲に蹴りを食らわせ、後転すると体勢を立て直し
飛び出した。

ルフィはクマシーを、アンジェリカは骨付きの肉に渾身の攻撃を仕掛けた。

それに続く、二人からの交互に放たれる攻撃に、ほとんど魂の抜け殻のようになったそれらの物体は、身に余る血を流しながら
乳白色の地へと溶け込むように消えていく。

ルフィとアンジェリカは軽く拳を付き合わせると、
サタンに向かって二手に分かれ、同時に駆け出した。

残りあと4分・・・

「ぐっ、やりおったな・・・天使め・・・。」
「ずいぶんと手こずらせやがったな、おっさん!」

ルフィは力強く足を踏ん張らせ、サタンに睨みをきかせた。

「ゴムゴムのぉ・・・JETピストル!!!!!」

瞬時に避けられたその攻撃は、サタンの玉座を粉々にした。
急降下したアンジェリカは刀をサタンに向け振り下ろすも
サタンの空気を揺らすような大声にはじき返された。

「ふん、ガブリエルの力を奪っておけば、こんなことも無かったのだが
悔いてもしょうがない。このまま二人とも潰してやる!」

両サイドから飛び上がる二人を、広げた両腕で退け、サタンはまずアンジェリカに
向かった。

刀がしなるほどの拳を受け止め、アンジェリカは歯を食いしばる。
そして鋭く光る眼を静かに閉じた。

「その心の奥・・・動きを感じ・・・」

アンジェリカは有り余るかのようなサタンの重量のある拳を受け流すと、
高く飛び上がった。

「意のままに、動かす。」

振り返るサタンの腕を斬りつけ、そのまま足下めがけ、刀を突き立てた。

フィアマはサタンの靴ごと足を貫く。
サタンは声を上げると、勢い良く拳を振り上げ、アンジェリカを狙った。

だがそれはすでに、アンジェリカの意のままに動かされたものだった。

振り下ろされた拳の威力も手伝い、
サタンの手首はルースにより斬り飛ばされてた。

怒りに震えたサタンは、叫び声を上げ
そのままアンジェリカを肘で押しつぶす。

アンジェリカの素早い動きにも、サタンの力は勝った。
サタンは残った片方の手でアンジェリカの脚を掴み、そのまま身体を鞭のように振り上げ、打ちつけた。

その衝撃は天全体を揺らした。
アンジェリカも握りっぱなしだった刀を落とし、うめき声を上げた。

「うああっ!!」
「アンジー!!」

「来るな!ルフィ!」

ルフィはその言葉に、思わずアンジェリカにあの日のエースを重ねた。

「今度は負けねえ!必ず・・・」

アンジェリカもルフィの怒りや悲しみが入り交じる瞳が見えた。


「ギア!サード!!」

ルフィは右腕を膨らませると、勢い良く地を蹴り飛び上がる。

「ゴムゴムの・・・」

「はっ!人間の攻撃など・・・サタンである俺に効くはずが!」


「ルフィ!受けとれっ!!!!」



アンジェリカが蹴り上げたフィアマを受け取ったルフィは、膨らんだ大きな手で炎を握り、
この拳の行く先をサタンに定めた。


反対側からは光輝く刀がサタンに向けて飛ぶ。



「光・・・槍っ!!!」
「ギガント!火銃!!!!」

燃える巨大な拳は、真っすぐにサタンの顔面を潰すようにへこませた。
そして背中には、その心臓を貫くかのようにルースが突き刺さっていた。


サタンは表情をこわばらせたまま血を吐き、ズシンと音を立てて倒れた。



「はぁっ・・・はあっ・・・終わりか・・・アンジー。」

「・・・おまえは・・・早く行け!」




残り時間30秒・・・
エデンに残る天使は、アンジェリカのみ。

「アンジェリカ!やめろっ!」

ノクタの声がエデンに響き渡った。


「それ以上サタンを追い込むな!時間が・・・乱れる!」
「じ・・・時間が?」

熾天使ミカエルが翼を広げてアンジェリカの元に降り立った。

「ここは私にまかせろ、おまえはルフィを天の淵へ!早く!」

アンジェリカはコクリと頷き、ルフィを抱きかかえてエデンの門から飛び出し
天の淵にルフィを下ろした。。


「ルフィ・・・さあ、地上へ戻るんだ。」
「よし行こう!」

ルフィはアンジェリカの腕を握りぐっと引いたが、アンジェリカは動かなかった。

「ルフィ・・・わたしは、やっぱり残るよ。」
「なんで!?いっしょにいこう!」
「エデンがある限り・・・悪夢は終わらない!」

ドカっ!

脚を振り上げたアンジェリカが、ルフィの視界から遠ざかって行く。


「みんなによろしくなー!ルフィー!ありがとー!」

「あ・・・アンジー!!」







「よし!引きずりだせ!」

だらりと力なき亡がらとなったルフィを、ゾロとチョッパーは引きずり出した。

チョッパーは急いでルフィの身体を見回し、胸に耳を当てた。

「・・・傷もないし、肺に空気も残ってるのに・・・心臓だけ止まってる。」
「いいから早く蘇生させろ!」
「あ、ああ!」

チョッパーはルフィの心臓をめがけ真上から何度も強く押した。


「・・・ねえ、・・・アンジーは?」
「・・・え?」

顔面蒼白のナミの指差す先、その箱の中にアンジェリカはいなかった。

「ど・・・どういうことだ。」

タバコを口から落としたサンジは、恐る恐るその箱に近づいた。

「離れろ!クソコック!」

ゾロの斬撃が空となった箱をまっ二つに割った。

「アンジェリカは・・・どこだ?」



「・・・ふん。」

ゾロは小さなため息をつくと、上を見上げた。

「おれは鷹の眼に・・・なんて説明すりゃいいんだ・・・。クソっ!」


チョッパーは真っすぐにルフィの胸を見つめたまま、力を入れ続けた。

「ルフィ・・・ルフィ・・・!頼む、目を覚ましてくれぇ!息を、吹き返してくれヨォ!」







ルフィがいなくなった天の淵に、アンジェリカとノクタは並んで立ち尽くしていた。

嵐のように去った天の戦争を知ってか知らずか、翼をそよがせる爽やかな風が吹く。


「長老・・・。」
「なんだ?」
「手紙に何と書いたのですか?」
「・・・答える必要はない。」

「ふっ、もういいでしょう・・・いずれ分かることだ。
長老!わたし、決めました。・・・転生します。」
「・・・良いのか?それで、本当に。」
「ええ、それくらいしか・・・わたしが恩返しできる事は無い。」

「恩返しか・・・甘いな、まだまだ。」

「え?」



ドカっ!


つい先ほど聞こえたのと似たような音が聞こえた。
次の瞬間みえたのは、腰を曲げた老体だというのに堂々と脚を蹴り上げた長老ノクタ

遠ざかる彼の姿だった。


「あと1年残っておる、有効につかわぬか。子孫よ!」

微笑むノクタの手厚い見送りに、アンジェリカは、あの日
まだ幼かった自分が同じ様に地上に遣わされた日を思い出した。

父をめがけて真っすぐに
蹴り落とされた、あの日を。

残り時間、0秒

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