Chapter Final : ぶっ倒す




「ルフィーー!生き返れーーー!」

チョッパーは涙を流しながら、ルフィの心臓を叩き起こすように
一点を押し続けた。

デスボックスの残骸に囲まれたその空間は、異常な熱を帯び、
その場にいる全員が、船長の心停止という状況も相まってパニックに陥った。

「ルフィ!こんなところで死んでどうすんだ!
行くんだろ!新世界はもう目の前だ!」

ゾロは涙を浮かべながらも大声を出し続けた。

泣きじゃくるナミをなだめながら、サンジもギリっと唇を噛み締めた。

その時、多少の明るさがあったチョッパーの手元が
大きな黒い影に覆われた。

「えっ?・・・うっ、ウワアアアアアア!」

突如姿を現した汚らしい変色したような物体。
大きな翼を足れ下げた、アンジェリカが落下の勢いそのままにルフィに激突した。

「いっ・・・て。」
「いてーーーーーーーーーー!!」

ルフィは大声を張り上げ起き上がり、あたりをきょろきょろと見回した。

「る・・・ルフィー!!」
チョッパーはルフィに飛びつくと絞め殺さんばかりにルフィの首に
抱きついた。
「あ・・・アンジー・・・なのか?」

腰をぬかしたようにそこから動かないゾロの問いかけに、アンジェリカは
冷たい視線だけを残し、翼を奮い起こさせるかのように力を入れ
その場から飛び去った。

「あれが・・・天使・・・!?」

立ち尽くすサンジも開いた口が塞がらずにいた。

「・・・!ロビン!ロビンが危ない!」

「なにィ!?」

「さっき行っちゃった、アンジーのお兄さん・・・ロビンに用があるって・・・。」

ルフィは立ち上がると、真っすぐにアンジェリカを追い、走り出した。

「おいおい、あいつ大丈夫なのかよ!」
「・・・みたいだな、さっきまで死んでたのにな。」
「とにかく、おれたちも行くぞ!」

4人は洞窟の元いた方向へと走り出した。

残す敵がまだ地上にいた

・・・ガブリエル・・・

片翼の天使はまだロビンの命を狙っている

アンジェリカは地獄と天でうけたダメージが大きく、
バランスを崩しながらも、猛スピードで洞窟の中を滑空した。


サニー号が見えた瞬間に、アンジェリカはふとそのスピードを緩めた。

襲われたと思っていたロビンはアンジェリカの方を向いて笑顔で立っていたのだ。


「どういうことだ・・・。」
「・・・アンジー、どうしたの、そのケガ。」
「ガ、ガブリエルは・・・?」
「・・・あそこよ。」

ロビンの指差す方向には、ガブリエルの足だけがかろうじて見えた。
そのガブリエルの上には、得意げな顔でジャックが座りこんでいた。


「アンジー、すまない。君がこんなに早く地獄の門を見つけるなんて思ってなくて。」

ジャックの影から現れたのは、ロッコだった。

「ロッコ!・・・おまえ・・・」

ロッコもアンジェリカに負けず劣らずのボロボロの姿だった。

サニー号の前で仰向けに倒れるウソップも、ブルックも、フランキーも
全員でガブリエルと戦っていたのだ。

「ウ”ーっ、ウ”ア”ーっ・・・。」

ジャックの尻の下からは、ガブリエルのうめき声が聞こえてきた。

「アンジー、これを。」

ロッコは大きな天使の翼をアンジェリカの足下に放った。

「ロッコ!おまえ、どうやって・・・。」

「おまえのパパに借り手きたよ、これも聖刀なんだってな。」

ロッコの片手には、白夜が握られていた。

「さあ、どうする・・・。ガブリエルをここで殺すか?」
「・・・いや、殺さないさ。」

アンジェリカはジャックに歩みよりそっとその毛並みに手を触れた。
ジャックはキュっと鳴くと、その場から身をよじらせて水辺へと移動した。


「何も憎んではいけない、恨んでもいけない
・・・エデンは・・・安息の場所であるべきだ。」


「・・・そうだね。」



「こいつには・・・まだやらなきゃならないことがある・・・。」

アンジェリカはガブリエルの胸ぐらを掴むと、その顔を睨みつけた。

「アンジー・・・ボクを」
「黙れ。」

「・・・。」

「両翼を失ったか、転生おめでとう、哀れなり兄弟よ・・・。」

「あ・・アンジー、おまえまさか!!」

「ああ、地獄を見て来た・・・。」

「ぐっ、殺人を!?・・・なぜ!なぜそこまでして・・・。」

「弟を守るのに、理由が必要かよ・・・。」



不敵なアンジェリカの笑みに、ガブリエルは震えだした。
天使の力を失っい、人間となった今、初めてその弱さを痛感していた。


「ロッコ、この先の石碑は?」
「・・・ああ、ロビンに話は聞いた。」
「天も地獄も見て来た・・・あれが真実だ。
あれがわたしたちの真実の歴史なんだ。」

「それが、君の答えか・・・。」

「そうだ、わたしたちは敵じゃない・・・。」
「ぼくも、同じ答えに至った・・・。この一年、命をかけて旅をしたことはムダじゃなかった。」

二人の姿を見ながら微笑むロビンが、口を開いた。

「司祭さんが助けに来てくれたの、もちろん、彼らも戦った。」

ロビンの静かな声に、アンジェリカはウソップたちの方へ向き直った。

仰向けに倒れたまま、ゼエゼエと息をきらした3人はアンジェリカに向かって親指を立てた。


「ふっ、なんて強き心・・・人間ってしぶといな。」

アンジェリカは軽く笑うと、ロッコに向かってガブリエルを片手で投げた。

「ちょっと、待っててくれないか・・・ロッコ。」
「いや、ボク一人で十分だ・・・君は・・・。」
「用が済んだら、すぐ戻ってくる。それまで、そいつを頼むよ。」

アンジェリカはそう言うと、後ろ向きにバタンと倒れ、天井を見つめて笑った。






「アンジー!!」
遠くから聞こえた声は、追いかけて来たルフィたちだった。

「ロビン!・・・あ?なんともねえじゃねえかよ。」
「ど・・・どうなってんだ。」

「ともだちが、助けてくれた!アハハハ!」

アンジェリカは倒れたまま、大声を出して笑う。

チョッパーはゆっくりと歩き出すと、アンジェリカの側に座り込んだ。

「ひどい火傷と傷だ・・・アンジー手当させてくれよ、いいだろ?もう・・・」
「頼もしい船医だ・・・頼む。」

サンジもアンジェリカに駆け寄り、その手を取った。

「ひどい、箱の中はそんなに過酷だったのか・・・って!ウェ・・・アンジェリカ・・・おまえ!」

ボロボロのアンジェリカの姿を見たサンジは、急に青ざめ始めた。

サンジは後ずさりすると、座り直しタバコを深く吸い込んだ。



「いや、おれは・・・ペチャパイでも・・・」
「ああ、アンジーは男でも女でもねえぞ。」

ゾロの一言に、サンジは石化した。

「へへっ、なんだよ、悪いかよ・・・。」

アンジェリカはサンジに微笑みかけながら刀を天に向けた。

「わたしは、人間だったんだ・・・。
わたしは・・・わたしは・・・。」

一筋、涙を流し、天を仰ぎ見た。


「世界一の大剣豪の子!ジュラキュール・アンジェリカだ!」

世界中に響き渡るような声でそう言うと、アンジェリカは満足げにゆっくりと腕をおろした。

ロビンはアンジェリカに歩み寄り、その顔を覗き込むように撫でた。

「この何分かで、ずいぶん変わったみたいね。」







「よし、もういいぞ。」

チョッパーは最後の包帯を巻き付けると、ぴょこっと立ち上がりアンジェリカを見つめた。

「・・・無理するなよ。傷、けっこう深かったぞ。」
「ありがとよ、せんせ。」

アンジェリカは身を起こし、チョッパーの頭を撫でた。

「ルフィ!」
「おう!なんだ、結局おちてきたんじゃねーか。」
「ふふっ、助かったよ。」
「あたりまえだ!」

「さあ、みんなを船に乗せろ、引っ張ってやるから。」

「・・・あいつは、どうすんだ?」

ルフィはロッコとうなだれるガブリエルを指差した。
アンジェリカも二人に振り返ると、にやりと笑った。

「ガブリエルには、エデンを建て直させるつもりだ。もうあんな場所には、させない・・・
さあ、行こう。」


船に乗り込んだ一味を確認し、アンジェリカはゆっくりと宙に舞った。
船体からロープを受け取り、片方をジャックにしっかりと巻き付け、もう片方は自分の身体に巻き付け端を手に持った。

船首に降り立ち、甲板に集まる一味をじっくりと見回した。

「もっとこっちへ来い、みんな。」


「ほんとに、天使・・・なのね。」
「スーパーでけえ翼だな、こんなヤツ見た事ねえ。」
「ヨホホ、私ちょっとだけ見た事ありますけどね。」

アンジェリカは深呼吸をすると、改めてルフィを見つめた。

「麦わらの一味・・・旅を、続けるのだ。お前たちの夢の為に・・・
そして、ルフィ・・・。」


ルフィは一歩前へ出て、アンジェリカに近づいた。


「おまえに会えてよかった・・・。」
「なあ、一緒にいくんじゃねえのか?もうなかまだろ?」
「・・・おまえの味方だ、いつまでもな。」
「そっか・・。」
「モンキーDルフィ・・・これがわたしの、大天使ミカエルとしての最後の仕事だ。
おまえに、啓示を与える。」
「・・・おう、なんか知らねえが貰えるもんは貰う!」
「面白いやつだ、・・・目を閉じよ。」

ルフィは不思議そうな顔をして目を閉じた。
アンジェリカはルフィの頬を両手で優しく包み込んだ。

そして名残惜しそうに、その表情を見つめて微笑んだ。

ルフィはとっさに何かに気づいたように、目を閉じたまま唇を突き出した。

「おまえ・・・また死にてエのか・・・。」
「あ、そうか。それはゴメンだ。」
「ふふふ、では・・・。」




『なかまと共に、旅を続けよ・・・。
いずれ来るそのとき・・・勇気あるご決断を・・・。』





アンジェリカはルフィを解放すると、舞い上がり船の前方へと飛んだ。


「さあ、ジャック!全力であの出口まで船を引くぞ!」


「アンジー!おまえはどうするんだ!」

「ミカエルの役目を果たした、あとは全力でこの船を引くだけだ。」

ジャックは一旦潜ると、水壁を力強く蹴り上げ、前に飛び出すように進み出した。
アンジェリカも両手でロープを握りしめ、力強く羽ばたき出口を目指した。

次第に強烈になる水の流れに逆らい、船ガタガタと身を揺らしながら前へと進んだ。


「あっ・・・アンジー!!!!」

一味の目に映っていたのは、燃え行く天使の姿だった。

「どうなってるの!アンジーがっ・・・。」
「き・・・消えて行く!!」


勇敢で、そして優しい微笑みを残した表情も炎に包まれていた。


「アンジー・・・アンジー!!!!」
「大丈夫・・・わたしはいつまでも、おまえたちの味方だ・・・。
ありがとう・・・。」

アンジェリカの声が炎の中から聞こえた頃には
船は広い海の中へと投げ出された。

「・・・出たわ!」
「ってことは・・・。」
「またあの渦かっ!」


「ウワアアアアアアアアァァァァッァァァァァァァァッァ!!!!」


サニー号と一味は叫び声を上げ、海面を目指す渦にのまれながら
地獄の門からの脱出を果たした。

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