Chapter 19 : Spade&Heart


戻ったシャッキーのバーは静まり返っていた。

「お帰り、レイさん。あら、やっぱり・・・アンジェリカちゃんも一緒ね。」
「なんだ・・・シャッキーの知り合いか・・・。」

レイリーはカウンターに座ると、少し口を尖らせて頬杖をついた。

「何にする?アンジェリカちゃん。」

「あ、お・・・お水。」

「ふふ・・・謙虚ね。」

アンジェリカもカウンターに座ると、ポケットからばさっとお札を出した。

「ふふっ。面白い子ね・・・あなたからぼったくりはしないわ。」

レイリーは出されたグラスを大口で飲むと、声をあげて笑った。

「これはこれは、お金持ちのお嬢さんが、海賊王のことを聞きたいなんて!
時代は変わったなあ・・・。」

アンジェリカは不思議そうにレイリーを見ながら、出された水に口をつけた。

「アンジェリカちゃん・・・アンジーちゃんでいいかしら?どうして、海賊王のことが知りたいの?」

「あの、わたし・・・。」

アンジェリカはどうしてか口ごもった。何となく、この空間には邪悪じゃなくとも
危険な空気が漂っている気がした。




「どうやら、本当に知りたいのはロジャーのことではないようだな。」

沈黙を裂いたのは、レイリーだった。

「私に答えられることなら、教えてやるぞ。アンジー。」

「エースが・・・どうして死んだのか・・・。知りたいんです。」

「・・・火拳ちゃん?」

「海賊王の息子だから、処刑されることになった・・・そして戦争になって、殺された!
でもどうして、どうして海賊王の息子だから処刑されなきゃいけなかったんですか?」

「・・・海賊王か。」

レイリーは目を閉じて、少し笑みを浮かべた。

「この世界が、海賊は犯罪者であると、そう決めたから・・・それが理由だ。」



「・・・んぁ、わかってる。それは
わかってるんだけど・・・。
やっぱりわかんね。」

レイリーの返答に、アンジェリカはため息をつき
カウンターに突っ伏した。

シャッキーとレイリーの優しい微笑み
のような、温かい色の光が
店内には差し込んでいた。

「・・・あら?」

シャッキーはアンジェリカの帽子を取ると、まじまじとアンジェリカの首の後ろを眺めた。

「・・・なるほどね。」
「どうした、シャッキー。」

シャッキーはアンジェリカの頭を撫でながら、大きく煙を吐いた。

「レイさん・・・いじわるしないで、この子には全部話してあげた方がいいと思うわ。」
「どういうことだ?」
「これ・・・見て?」

シャッキーがアンジェリカの首の後ろを指差すと、レイリーはそこを覗き込んだ。

「スペードのエースは、ハートのエースに恋しちゃったみたいね。」
「うむ・・・考え過ぎでは?」
「こんな場所、自分で彫ることはできないし。こんな恥ずかしいタトゥー誰にも頼めないわよ。
これ・・・火拳ちゃんが彫ったのね?」

アンジェリカは突っ伏したまま、小さく頷いた。

「インクの色がちょっと違うわね・・・2回彫られたんだわ。
心変わりしたのね・・・。」

「おいシャッキー・・・どういうことだ?」

「先に彫られたスペードのエースは、アンジェリカはおれのもの・・・って感じかしら。
周りに彫られた大きなハートに翼にエース・・・おれはアンジェリカのもの・・・ってとこ。」

「・・・うーむ、どうだか。」

「アンジーちゃん、黙っててもレイさんには分からないわよ。」

アンジェリカは顔を上げることができなかった。
エースに出会ってから、あの日までの記憶が頭を駆け巡る。
涙はもう出ないけど・・・きっと顔を上げれば、レイリーとシャッキーは何か読んでくるんだろう。

それが少し、悔しかった。

「・・・火拳ちゃんはアンジーちゃんを愛してた。アンジーちゃんも、火拳ちゃんを愛しちゃったわけね。」

アンジェリカは、顔を上げずともシャッキーに見抜かれていることに
もうなす術もなく、また小さく頷いた。

「そうだったのか・・・ならば、さっきの私の答えでは納得いかなかっただろうな。」

レイリーはまた座り直すと、グラスの酒を飲み干した。


「私はあの場にいなかった・・・私からエース君の死について
答えられることは無い・・・すまなかったな。」

アンジェリカはゆっくりと身体を起こし、大きなため息をついた。

「パパは、エースは死ぬしかなかったって言うんだ・・・。」
「死ぬしかなかった、私には何となく理解できるが・・・アンジー、君には納得できないだろうね。」
「白ひげ・・・麦わら・・・あいつらの為か・・・?」

レイリーは息をつくと咳払いをして、アンジェリカの方に向き直った。

「自分で見つけた方が良さそうだな。・・・まあ代わりと言っちゃなんだが・・・」

レイリーは立ち上がると店の奥から何かを取り出して、アンジェリカに押し付けた。

「・・・海賊王の軌跡、読むか?」

「これ・・・航海日誌?」

「ああ、ところどころ読めない文字が書かれているかもしれないが・・・役に立つだろう。」

アンジェリカはパラパラとページをめくりながら、眼を丸くした。

「す・・・すげえ・・・。」

アンジェリカは何度も最初のページに戻りながら、手を震わせた。

「あ・・・あの、数分でいいんで、お部屋・・・貸してもらえませんか?」

アンジェリカの言葉に、レイリーとシャッキーは顔を見合わせた。

「5分でいいんで・・・た、立ち入り禁止で。」

「ん・・・いいだろう、来なさい。」

レイリーに連れられたアンジェリカは、店の2階の部屋についた。
レイリーを追い出すように部屋のドアを閉め、そそくさとリュックを降ろし
航海日誌に向かった。

約束通り、数分でアンジェリカは1階に降りてきた。

「ありがとう、レイリーさん・・・。」
「どうした、なんだか不満そうだな。」
「あの、ちょっとわたしの知りたいこととは違いました・・・もちろん、新しい情報も得られて
良かったんですが・・・とにかく、これはこの世界にとって貴重なものであることは違いない。
ホント・・・ありがとう。」

「ぜんぶ・・・読んだのか?この5分で?」
「あ、はい。」
「古代文字も?」
「ええ、読みました。」

レイリーはあんぐりと口をあけて、アンジェリカと返された航海日誌を交互に見た。




「まったく・・・ちょっとうるっと来てたのに、物騒な話になっちまって。
なあ、・・・もうひとつ聞きてェことがあるんだが・・・いいか?」
「何だ?・・・・あぁっ!?」

突然聞こえた男性の声は、レイリーではなかった。

「古代文字が読めるんだな・・・どこでその文字を学んだ?」

「ほう・・・気づかなかった。シャッキー、気づいていたか?」
「ええ、ずっとそこで寝転がってたわよ。元、海軍大将・・・青キジちゃん。」

青キジ、クザンはソファの上で起き上がると
カウンターの方に身体を向け座り直した。

「あらら、気づいてたの?」
「赤犬に負けたそうで・・・残念だったな。」
「それは嫌みか?冥王・・・それに、もう青キジなんて呼ばないでくれ
・・・おれぁ、海軍辞めたんだからよ。」

「あんた・・・あんたの声・・・聞き覚えがある。」

アンジェリカはグラスを握りしめた。

「あんた・・・あの場にいたよな。」
「・・・んなことより、あんたがその古代文字を読めるってのが問題だ。」

クザンは立ち上がると、カウンターのアンジェリカの横の席についた。

「正確に言うと、読めるのではなく解読できるんだ。」

「解読?」

「わたしが学んだのは、この文字を使った別な文法の文章なんだ。
文字を、入れ替えて文章を組み立て直せば・・・わたしの知ってる文字の文章になる。」

「で、だれから学んだ?」

「パパ。」

「パパねえ、おまえのパパは学者か?
それとも・・・オハラの関係者か?。」
「オハラ?あー、ウエストブルーにあった島か・・・じゃあ違うな。」
「あたしも気になってたのよ・・・アンジーちゃんのパパって、何者なの?
マリンフォードの戦争のことも知ってるみたいだし・・・。」
「パパは、王下七武海。」

「おいまて、もしかして・・・。」

クザンはアンジェリカの首に掛けられた十字架に触れた。

「鷹の眼の・・・ミホーク!!」
「パパを知ってるのか!」


沈黙の冷たさとは裏腹に
夕日は更に色濃く、店じゅうを赤く染めて行った。

「やべっ、これ秘密だった。あははははは。」

シャッキーのタバコの灰がポトリと床に落ちた。

「情報通だなんて、今後は二度と言わないわ・・・。」

「鷹の眼に・・・娘!?」

「手を出さなくてよかった・・・。」

「が・・・看病してもらわねぐて・・・ぃ・・・じょがったぁ。」

「えーっと、聞かなかったことにして下さい!」

レイリーはまた酒を口にすると、遠くを見つめるように笑顔を浮かべた

「・・・そういうことか。」

「じゃあ、鷹の眼もその古代文字を扱えるってことか。」

「いや、できないと思う。」

「ああ?」

「これが文章を入れ替えた暗号だってことは、つい最近分かったんだ。
ある勇気ある司祭によってな・・・。パパは、そんなことできないよ。」

「・・・とにかくだ。その文字が読めるってことは、おまえも危険だってことだ。
世間に知れたら、おまえも政府に追われるってわけだ。」


シャッキーは頬杖をついてアンジェリカを眺めながら、タバコに火をつけた。


「あたしも、レイさんも・・・アンジーちゃんを赤の他人だとは思ってないわ。
そうでしょ?」
「ああ、アンジーの命を危険に曝すような真似はしない・・・絶対にな。
デュバル?おまえも守れるな。」
「えーっハンサム?おれー?ったりめーよ。お嬢さんの命、このデュバルが命尽きるまで
守り通すぬらべっっっっっっch」
「クザン、おまえは・・・どうするつもりだ?」

「・・・おれぁ、今となってはただの放浪者よ・・・。
おれが何を言おうが、もう誰も聞きはしねえ。」

「誰にも漏らさん・・・いいな。」

「はぁ、おいアンジーよぉ。おまえ、これからどうするつもりだ。」

「新世界へ行く!」

「なんの為だ?」

「この眼で・・・全てを見る。そして、答えを出す。」

クザンはため息をつくと、アンジェリカを見つめた。

「なあ、一人で行くつもりか?」

「まあ・・・一人しかいねーからな。」


「ついて行ってやったらどうだ、クザン。どうせヒマ・・・なんだろ?」

レイリーはクザンに微笑みかけるように言った。

「・・・新世界に入るには、この先のレッドラインを越えなきゃいけねえ。
どうするつもりだ。」
「聖地を通る。」
「じゃあ、交渉決裂だ・・・おれぁ、あそこは近寄りたくねえ。」

「そっか、じゃあ。」

アンジェリカは椅子から飛び降りると、入り口に立てかけられた刀を二本
背中に通した。

「お世話になりました!レイリーさん、シャッキーさん。それにクザン。」

一礼すると、店を出て行った。



「なあ、冥王・・・。今、麦わらの一味は・・・どこにいるんだ。」
「見当はつくが・・・正確には私にもわからない。」
「じゃあ、ニコ・ロビンは?」
「ふん、まったく見当もつかんよ。」
「ああ、おれも見当がつかねえ、だからここに来た・・・。」
「・・・半年後だ。彼らがここに来るのは。」
「はっ、しょうがねえな・・・。」




クザンはジャケットを肩にかけると、店を出た。

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