Chapter 18 : 聖書





偉大なる航路、シャボンディ諸島。


「ふえーっ、なんじゃこりゃ。」


地から浮かび上がる透明なシャボンが空へ上って行く。
アンジェリカはその様子を見ながら、ジャックのお腹の上で
空を眺めた。

「ふう・・・降りるか。」

ゾロが言うには、1番グローブで麦わらの一味は集合
おそらくソコに海賊王の右腕は居る。

木には番号が振ってある。

楽勝だ・・・アンジェリカは食事タイムのジャックに手を振りながら
そう思った。

「1番・・・1番・・・。」

アンジェリカは呟きながら、向こう側に見える
一桁の木に向かって走り出した。

次第に人の姿がちらほらと見え始めた。
アンジェリカは走っていた足を止め、ゆっくりと歩き出した。

「ルイージみたい・・・いや、ルイージよりひどい・・・。
邪悪な感情ばっかり・・・この場所。」

シャボンに包まれた乗り物に乗る人間が何人もアンジェリカを追い越して行く。
だが次第に追い越して行ったはずの人々は乗り物を降りて膝をつきそこに止まっていた。

「なんだあいつら・・・。何やってんだ?」
アンジェリカは膝をつく人々の隙間をぬって、前に進んだ。
しかし、腕を強く引かれると頭を押さえつけられた。

「おい!死にてえのか!早く膝をつけ!」
「いって・・・なんでだよ!」
「黙れ!口を開くな!天竜人が来る・・・!」

遠くから、ざくざくと足音が聞こえる。
アンジェリカの周りには、恐怖に震える人々の呼吸が溢れていた。

天竜人・・・何やらヘルメットの様なマスクをかぶり、変な乗り物に乗っている。
あれは・・・乗り物ではない・・・人間?

「おい、あれ・・・。」
「しーっ!通り過ぎるまで、黙っててくれたのむ!」

更に強く押さえつけられ、アンジェリカはぐっと下を向いた。
通りすぎるその足下を見つめ、その後ろ姿をぎろりと睨んだ。

「あ・・・悪魔だ・・・。」
「天竜人とその奴隷たちだ・・・あんた、外から来たんだな・・・。」
「奴隷だと?」
「何も知らないなら、これ以上先には行くな・・・。観光なら40番グローブに行け。」

「いや、1番グローブに用事があるんだ。」
アンジェリカは立ち上がり、小さく消え行く天竜人の後ろ姿を眺めた。

「なんだよあんた・・・あんたもオークションに行くのか?」
「オークション?」
「あそこにはオークション会場と、人間屋しかねえぞ。」
「人間を・・・売り買いしてるって訳か。」
「知らないのも仕方ないが、会場が建て直されてまた再開されたんだよ。」

アンジェリカはゆっくりと、天竜人が行く先に向かい進み始めた。

「おい待て!悪いことは言わねえ!これ以上行くな!」

その瞬間、その先で銃声と小さな煙が上がった。

アンジェリカは目を見開き、ぎりりと歯を食いしばった。
「・・・なるほど。」
「40番代のグローブはあっちから島を回り込んで行くといい。」

「ありがとう。」

アンジェリカは帽子を取って軽くお辞儀をすると、少し歩いてから
また走り出した。

だんだんと人気のない場所になってきた。

走るアンジェリカの後ろから、何やら男の声が聞こえた。

「おーい!おーい!まてよー!」

シャボンに浮いたボンバイクに乗る数人の男たちはアンジェリカに並んだ。

「まてまて、止まれよ!こんなとこ一人で・・・走ってちゃあぶねーぞ。」

「何の用だ。」

「乗れよお嬢ちゃん、安全なとこまで送ってってやるから!」

「結構だ、先を急ぐ。」

「急ぐったって、走るより早いに決まってるだろ、なあ!」

男はアンジェリカの腕を掴むと、自分のバイクの後ろに乗せた。

「ひっひひひ、美人は高く売れるぞ!」
「身体は貧相だがな・・・よし・・・このままオークションに連れて・・・」

アンジェリカは飛び降りると、男は腕を持って行かれるように
バイクから落とされた。

「ぐっ、くそぉ!だったら力づくでも・・・おれたちと一緒に来てもらうぜ!」


「おあいにく、おまえの悪しき心に表も裏も無い様だな。」

飛びかかる男たちはアンジェリカの蹴りになぎ倒されて行った。

「地下室に半年も引きこもってて、ちょっと運動不足なんだ・・・
だが、おまえたちでは相手にならん。うせろ!」

と振り返るも、もう声も発することの出来ない
のびた人の山で、アンジェリカは少しがっかりした。

「ぐっ・・・なんなんだこの、女・・・。」

「お、いたいた。」

意識のある男に近寄り、首を掴んで持ち上げた。

「シルバーズ・レイリーを探している・・・。どこいるか知ってるか?」

「め・・・冥王だと!?あんた・・・何者だ!」

「旅人。」

「お・・・おれの情報料は高いぜ・・・は、早く降ろせ!」

「わたしの人命救助も高くつくぞ・・・はやく言え。救助ができるレベルの内に。」

アンジェリカは首を掴む力をぐっと強めた。

「うわ・・・わかった。13番グローブだ!」

「・・・13番?」

「シャッキーのバーで聞けばわかる・・・。」

「13・・・なるほど。」

アンジェリカは男を地面に叩き付けると、ゆっくりと歩き始めた。



「ロロロアの情報だ・・・これぐらいのシャレは覚悟しとくべきだったな。」


16・・・15・・・14・・・13・・・

13番グローブの長い階段を上って行くと、そこにはシャッキーのぼったくりバーがあった。

ドアを押し、カランというベルとともに店に入る。

「いらっしゃい・・・何にする?」

後ろを向いたまま、カウンターの中で煙をたてる女性がいた。

店内にはどうやら田舎から出てきたような人が何人かいて、がやがやと会話をしている。

アンジェリカは入り口に立ちすくんだまま、その女性の背中を見つめた。

「こっちいらっしゃい・・・。お嬢さん。」

「シルバーズ・レイリーはどこだ。」

「・・・レイさんに用事なの?」

女性は振り返り、アンジェリカの顔をまじまじと見て
少し微笑むと、指を突き立てアンジェリカを呼んだ。

アンジェリカもゆっくりと歩き、カウンターに座った。

「まあ、楽にして。お荷物降ろしたらどうなの?」
「いや、いいんだ。」
「そう、不思議な子ねえ・・・。」
「レイリーはどこだ。」
「どうしてレイさんを探すの?あなた・・・海賊?」
「ちがう。」
「そうよね、海賊なら私が知らないわけないもの・・・。」

彼女はアンジェリカの頬に触れると、右に左にと何かを探すように
目をやった。

「あたしは、シャクヤク。シャッキーって呼んで。」
「じゃあ、シャッキーさん。とっととレイリーの居場所を教えてくれ。」
「何者かもわからないお嬢さんに、ウチの人の居場所を教えることはできないわ。」

「・・・わたしは、アンジェリカ。海賊王について聞きたいことがある。」

シャッキーはタバコを灰皿に置くと、頬杖をついてアンジェリカの瞳を覗き込んだ。

「不思議ねえ・・・とっても怖い眼をしてるわ。」

シャッキーはきりりと立つと、口を緩めて笑った。

「海賊でもない・・・だけど雰囲気は・・・戦士そのもの。
なのにそんなカワイイ顔してる・・・レイさんに気に入られちゃうかもね。」

「は?」
「41番グローブにいるわ、先週帰ってきてから船のコーティングにかかってる。
でも、ヘンな気起こさないことね。彼、強いから。」
「41番ね・・・ありがとう、シャッキーさん!」

アンジェリカは振り返り、店の入り口に走った。

「お嬢サーン!ボクいま名誉の負傷を治療中なんだー、よかったら
看病してくれても・・・ぎ・・・ぎ・・・ぎ・・・いい・・ゼ!」

ベッドに居る大男に、何やら話しかけられ気持ち悪いウィンクをされた気がしたが
見なかったことにした。





41番グローブ、そこにはヒマワリのようなオブジェのついた船首の船
が浮かび、それを守り、覆い隠すかの様に大きな大きな人間がそばに座っていた。


「で・・・でけ。」

アンジェリカは、初めて見る大きなその人物に近寄り、口をあんぐり開けて見上げていた。

死んだように動かないその人物は、アンジェリカの存在に気づくかの様に
目を光らせた。

「・・・氏名、不明。世界政府、該当無し。海軍、該当無し。天竜人および貴族、該当無し。
一般人、該当無し。海賊、該当無し。」


その光る目はアンジェリカを捉えたまま、アンジェリカの正体を探っていた。


「・・・おまえがシルバーズ・レイリーか?」

「・・・シルバーズ・レイリーの知り合い・・・警戒攻撃解除。」

そう言うと、大男は目の光を消した。

「・・・なんだよ・・寝たのか?・・・へんなやつ。おっ?」

アンジェリカはその男の手に握られた本を見つけると、目を輝かせた。

「ちょい失礼・・・借りますよレイリーさん。」

男によじ上りBIBLEと書かれたその本を取ると、地面にバサッと放って
地面に飛び降り、重たい表紙を開けた。

「・・・はぁ・・・ずいぶんだなあこりゃ。誰がこんな本を書いたんだ・・・
ひっでえ内容だ・・・ねえ、レイリーさんよ。」


「呼んだかな?」


船の方から人影があらわれた。

アンジェリカは思わず飛び上がり、後ろに下がった。

「だ・・・誰だ!」

「君が呼んだんだろ・・・?」

「え?じゃ、じゃあ・・・こいつは?」

「彼は、クマだ。」

「くま?人間じゃないんだ・・・どーりででかいわけだ。」


地面に置かれた本を閉じると、白髪のその男はクマの手にそれを戻した。


「この・・・シルバーズ・レイリーにご用かな?お嬢さん。」

レイリーはアンジェリカにそう言い放つと、笑顔をみせた。


「レイリー・・・海賊王の、右腕・・・。」

空気が違う・・・父と近いような・・・でも違う。
ビリビリと伝わってくる、強さ・・・それをアンジェリカは感じた。

「私を知っているのか、光栄だな。
もう帰るところなんだ、どうかな。一杯やらないか?」


レイリーはアンジェリカのリュックをぽんっと叩くと、森の方へ歩いて行った。

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