悪行のすゝめ

「悟、いい度胸だね。喧嘩を売っているのかな?」
「ハッ、そのイイ子ちゃんな態度ホント吐き気するわ!今日こそ沈めてやるよ」


何度目かわからない傑との大喧嘩。始まりはなんてことない会話がきっかけでついつい傑を煽ってしまい、傑は傑で良い子ちゃんなフリして割とすぐに頭に血が昇るからいつも術式ありの大喧嘩に発展して高専内のどこかが大破する。今日は始めた場所が悪かった。


ビービー鳴ってる高専内の警報音を無視して『蒼』を使って傑の呪霊を祓おうとするが、何度目かわからない喧嘩のせいで自分の動きの癖なんかしっかり把握されて単純な攻撃を避けられた。チッと舌打ちするも、『蒼』は傑が避けたせいでその背後にあった高専内の設備の何かに直撃し、なかなかの大きな爆発が起きた。エ、と思う間も無くブチギレた夜蛾センにひっ捕まえられて拳骨を食らう。どうやら直撃したのは男子寮の給湯器だったらしい。今日は風呂が使えなくなったそうだ。


「はーまじだっるー、あんなとこに給湯器剥き出しに設置する方が悪いだろー」
「ステゴロでやらないのが馬鹿なんでしょなんであんな建物の近くで術式使うの?絶対馬鹿」
「はあ?ステゴロでも器物損壊しまくってる奴に言われたくねえ〜」
「私はやっちゃったらちゃんと謝れるもん〜責任転嫁しないもんね〜」
「反省してないやつは女子寮の風呂使うなよ」
「悟がいつもごめんね、なまえ、硝子」
「夏油は使って良いよ時間守ってね」
「ありがとう」


騒ぎを聞きつけてやってきたなまえと硝子は夜蛾センと話をしていた。どうやら今日は女子寮の風呂を時間交代制にして男女交互に入り夜蛾センが見張りに立つらしい。見張りってなんだ。こんな狭いコミュニティで何かやらかすやつがいると思われているのか。どんなクズだよ。
そもそも傑だって今回の一件の原因の一端なのに何故か俺にだけ責任丸投げしてね?あいつ。普通に許されてるのがムカつく。どうせ今日は今から任務だし適当にホテルにでも泊まろ。



「その時間でいいんだね」
「男は風呂に時間もかからないし大丈夫だと思うよ」
「じゃあ女子は18時から21時までに入っとくように伝えとくわ」
「ありがとう。助かるよ。悟はどうするんだい?」
「俺今から任務だしホテル泊まる」
「う〜わ、謝らないつもりだよこいつやっぱりクズ」
「悟。迷惑をかけているんだからきちんと謝るべきだ」
「なんで傑にそんなことまで指図されなきゃなんねーの」


つーん、と謝る素振りなくそっぽを向いてしまった五条に夏油は眉を釣り上げてそれを窘めれば、五条は鋭い眼光を夏油に向けて不貞腐れたように頭をかきはじめる。はあ、とため息ついた夏油になまえがぽんぽん、と肩を叩いて合図したので夏油は拗ねてしまったお子様をなまえに任せることにした。


「ご〜じょ〜」
「…なんだよ」
「今日はどこに行くの?任務」
「……横浜」
「横浜?中華街あるとこ?」
「そうだけど」
「え〜いいなあ〜私肉まん食べたいなあ小籠包も食べたいなあ〜」
「…………任務地は中華街から離れてる」
「え、そっかあ…残念……」
「そんなに食べたいなら買ってきてやらなくないけど?」
「!ほんと??」
「……お前がそんなに食いたいなら買ってくる」
「やった〜〜じゃあ寮でお風呂入るよね?」
「……おう、」
「じゃ、みんなにごめんなさいしなきゃだね」


にっこり、と微笑んだなまえから気まずそうに視線を外した五条は首を垂らしてあー、だかうーだとか意味のない言葉を発した後どこを見るでもなく口を開いた。


「……わるかった、気をつけるよ」
「偉いねえ五条謝れたねえ〜えらいえらい〜!」



垂れた頭に従ってサラサラの白髪がさらりと揺れる。なまえは背伸びをしてまるでしつけ中の犬を褒めるときのように頭をわしゃわしゃと掻き回した。


「………あいついつからなまえの犬になったわけ」
「まるで忠犬だね」


照れながらも嬉しそうにする五条となまえを見て家入と夏油は呆れながらも微笑ましいものを見るように嘆息した。







呪霊が思ったより逃げ回ってしまったせいで任務の完了が遅れてしまった。慌てて中華街まで補助監督に車を出してもらうと店の閉店間近の時間になってしまい、土産店に残っていた商品を片っ端から買い集めて再び車に乗車する。なまえは土産を楽しみに待ってくれているだろうか、と考えたところで今日男子寮の給湯器を壊してしまったことを思い出した。そういえば男子の入れる風呂の時間帯は何時だったか。大量の紙袋を後部座席の空いたスペースに並べて昼間のなまえたちの会話を思い出す。確か『女子は18時から21時までに入っとく』と硝子が言っていなかっただろうか。今の時間を確認すればもう十分ほどで22時。高専に着く頃にはもっと夜が更けているはず。21時をすぎて余りある時間だ、きっと自分が入っても問題ないなと考えて一息ついた。さすがのなまえもこんな時間からヘビーな肉まんや餃子なんかは食べないだろう。せっかく買った土産だったが、渡すのは明日になりそうだ。共用の冷蔵庫に入れておいて明日なまえに渡せばいいかと帰ってからの段取りを組んだ。




想像通りの時間に高専へ到着し、まずは土産を冷蔵庫に突っ込んでいく。なまえには着く直前に冷蔵庫に土産を入れておく旨をメールしたが返事がない。少し早いが寝てしまったのかもしれないな、と五条は考え自分も早く風呂に入ってしまおうといつもはなまえの部屋に行く途中に通り過ぎるだけの風呂場に着替えを持って直行した。女子寮の風呂場には監視で立っておくと言っていたはずの夜蛾の姿はなく、もう残った男連中は入浴を済ませたのだろうかと考え、初めて入る女子寮の風呂場に若干どぎまぎしながらも男子寮と作りは同じの押し戸を開けた。



「わ、びっくりした。って、五条?」


戸を開けた瞬間現れたのは平然とキャミソールとショートパンツの姿で立っているなまえで、目の前の状況をすぐに理解できなかった五条はしばし時が止まった。


「おーい五条?大丈夫??」


動かない五条を訝しんだなまえがあろうことかそのまま五条に近づきフリフリ、と五条の顔に手をかざすも反応がない。状況を少しづつ理解したのか五条の視線はなまえの姿に釘付けになった。
形の良い胸の膨らみはは身体のラインにピッタリ添う黒のカップ入りのキャミソールに押し付けられ谷間ができているし、何より肌の白さとのコントラストがもはや眩しすぎて目がチカチカした。
普段の制服でもスリットからチラ見している真っ白な太ももは普段履いているブーツがないせいでその白さを全面に押し出している。なにより風呂上がりのせいか若干上気していてところどころピンクに染まっているのがよりエロさを演出していた。そしてまだ乾ききっていないなまえの髪がぺたりと首や肩に張り付いているのがたまらなくエロい。
全身くまなく上から下まで鮮明に記憶に刻みつけるために何度も何度も往復した。そんな五条の疾しい視線を受けさすがに五条がよからぬことをしていることに気づいたのかなまえは「いつまで見てんの」と呆れたように笑った。


「エロい」
「何その感想」
「てか今男子の時間じゃねーの?」
「ランニングしたあと汗かいたから。夜蛾先生に聞いたらみんな終わったから入って大丈夫って聞いてたし」
「まじか……タイミング神か……」
「馬鹿でしょ」


なおもジロジロと見つめる視線は堂々としすぎていてもはや注意する気も起きなかったなまえは五条などお構いなしにドライヤーで髪を乾かし始める。その姿さえも扇情的で今晩のオカズはコレに決定だな、と五条は動くことなくなまえの一挙一動を全て観察していた。そんな視線を受けているなまえはさすがに羞恥心を覚え始めてキャミソールの上からパジャマを着用しようと荷物をガサゴソと漁り始める。


「流石にお金取るよ」
「いくら払えば良い?」
「……ねえ、堂々としすぎじゃない?どう反応すれば良いわけ?」
「恥ずかしがってくれたらさらにイイ」
「キモイ」


お目当ての服を見つけていつもより少し慌てながら頭の上から被ればパジャマのボタンが開ききっていなかったため首のところで頭がつっかえて着ることができず一度脱ぐことにした。スポっ、と服が抜けた瞬間におっぱいが体の動きに従って揺れている。エロい。そんな行動も全て五条に見られていたことに気づきなまえはかああとようやく頬を染めた。


「見ないでよ、恥ずかしいじゃんっ」


そこか。お前の羞恥心はそこなのか。と五条は思わないでもなかったが恥ずかしがりながらパジャマのボタンを外す薄着ななまえがエロすぎてこれだけで何通りの妄想ができるだろうか、なんて考えていれば着替え終わったなまえはもう!と怒りながら足早に脱衣所から出て行った。




「………定期的に給湯器破壊してもいいかな…」


たまたま風呂場から出てきた五条とすれ違った家入がぼーっとする五条から漏れた言葉を聞いてドン引きするのはすぐ後のお話。







美影様、今回は企画へのご参加ありがとうございました。前サイトでのサーバーダウンからの新サイトへの移転など、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。無事こちらにたどり着いてくださっているのを祈るばかりです…
長編番外編とのことで、更新を楽しみにしてくださっているとメッセージがいただけてとても嬉しかったです。ラッキースケベについて考えすぎてラッキースケベにきちんとできていたのか不安で仕方がありません(笑)楽しんでいただける作品に仕上がっていればいいのですが…今回は素敵なリクエストありがとうございました!



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