二度と設定なんて言わない

※ご都合呪霊です


暑い暑いと言いながら項垂れるなまえに余計暑くなるから暑いって言うなとキレて殴りかかられて喧嘩に発展したのが数分前。夜蛾センに何故か俺だけ拳骨をお見舞いされて先程から異議申し立てをしているのに一向に異議を認めてもらえない。

「今日の任務は四人で行ってもらう」

平然と次の議題へ移ってしまった。夜蛾センってば絶対なまえに甘いよな!エコ贔屓だろ!差別ハンターイ!!

「最近四人で任務ってなかったね」
「どこいくのー?」
「……海だ」
「え?」
「海?」
「せんせーついに暑さで頭やられた?」

なまえの言葉でピクリと夜蛾センの眉が跳ね上がったが特に何言うことなく任務の概要を説明し始めた。
どうやら海水浴場で遊ぶ若い男女を襲う呪霊がでたらしくてその条件に合うのが俺らだから丁度いいってんで行かそうってことらしい。

「……………水着でないと現れないらしいから水着を着ていけ」
「ーは?そんな馬鹿な呪霊いる?」
「面白いね。デートに来てるカップルたちを羨む気持ちが呪いになったのかな」
「馬鹿かよ!信じらんねえ!」
「え、待って直射日光の中水着って私戦闘不能なんですけど」

ぴし、と手を挙げるなまえの様子に、「まだその設定律儀に守ってんの」と茶化せばぎろりと睨まれた。こっわ。ウケる。

「帳を下ろしてしまえば問題ないだろう」
「あぁ、なるほど〜!」

ポン、と手を打つなまえと同様こちらも得心がいく。ん?まてよ?じゃあ帳さえ下りてりゃあ、なまえも傘ささずに夏満喫できるんじゃね?あれ?俺天才???知ってた!


「じゃあ任務終わった後帳下ろしたまま海で遊ぼうぜ!」
「…五条天才…?!」
「そうと決まれば準備して集合なー!!」
「ヤッター!!初海だー!硝子水着貸してー!」
「おい待てお前たち!任務は遊びじゃないぞ!!!勝手に私用で帳を下ろすな!!!」


教室を飛び出した俺たちに夜蛾センが叫んでいるが誰も聞く耳を持たず浮き足立って寮に駆け込んだ。



△▼


およそ任務に向かうとは思えない軽装に苦笑している補助監督と合流し、車に揺られやってきた件の海水浴場。車から降りるなり浴びる直射日光に一瞬目が眩む。なまえじゃねーけどこの日差しはきっつい。傘の中で項垂れるなまえを一瞥してすぐに問題の海を眺める。確かに微力ながら呪力の残滓が確認できた。


「では、帳下ろしますね」


補助監督のその声とともにあたり一帯が暗いベールに包まれる。
日差しがなくなったことで海水浴感が減少したことは言うまでもないが、ひとまずは任務を遂行すべく呪霊を誘き出すことにした。


「…海入らなきゃいけないんだっけ」
「とりあえず水際越えればいい?」
「おー、いくぞー」

波打つ海水に全員がばしゃん、と海に入り込むも、特に呪力の揺らぎは感じられない。


「ダメだな」
「みんな上着着てるから?」
「まじ?判定厳しくね?」
「とりあえず脱ぐよ」

一度海から出てTシャツを脱ぎ、再び入水する。少し呪力が揺らいだのが目に入り、当たりかと目を細めた。

「呪霊でそう?」
「おう、お前らもこっち来ー」

なまえの声に振り返って海に入るよう促せばそこにいたのが珍しく傘を持っていない、真っ白な肌に同化するほど白い水着を着たなまえで、一瞬時間が止まった。
なに、それ。いや、水着だけど。なに一人で脳内で突っ込んでんの俺。
尻を隠すボトムの水着のサイドの紐がなまえが歩くたびに揺れる。こちらに近づいてくるなまえの尻から流れるような引き締まった脚がバシャバシャと水を跳ね上げていくのをスローモーションのように見ていた。女の下着姿どころか裸だって見慣れてたし、水着なんかで動揺するつもりも、するとも思ってなかったのに二の句が告げなくなってなまえのその姿から目が離せない。不自然に固まった俺の横に並んだなまえを上からまじまじ見下ろせば、肩紐のない二の腕と胸を隠すオフショルダーの水着から胸の谷間や脇が見えるし、まるで脱がす途中の服に見えて正直めちゃくちゃエロい。なんだこれ、硝子の水着だっけ?天才かよアイツ。硝子を振り返ればアイツもなかなかな水着を着ていてやはり天才だと思った。黒でも良かったなーーー。いやでもやっぱり白か。ジロジロと見ていたのがバレたのか鋭い視線で首切りのジェスチャーをこちらによこす硝子に思わず苦笑する。


「あっ呪霊出てきた!正解だったみたいだね。」


そう言って現れたタコのような呪霊に向かって大袈裟な水飛沫を上げながら跳ねていったなまえ、伸びてくる呪霊の足だか手だかわからないものを水着を着ていることなどお構いなしにいつものようにアクロバットな攻撃を仕掛けているせいで視界から入ってくる情報の刺激が強い。正直下半身が反応しそうだった。…オイ待て。いつものチャイナの下はあれなのか?あんなの隠しながら呪霊祓ってんのかあいつは。なんだそれ?エロいにも程がある。ろくでもない妄想が止まらない。


「悟、悟。間抜けな顔をしてるよ」


呆れた様子の傑が「なまえが呪霊と遊び始めたね」と言う通り呪霊の長い触手のようなそれを引っ掴んでブンブンと回して声を上げながら笑っていた。なにがそんなに面白いんだ。

「ねぇー見て!!この前やったスーパーマ○オのクッパ戦みたいでしょ?!」
「アイツ馬鹿か?」
「初めての海つってたからはしゃいでるんだろ」
「楽しそうで何よりじゃないか」

あまりの回転に海水まで巻き上げながら呪霊を回し続けるなまえにとどめを刺す気がないことを悟り、傑が呪霊を放とうとした瞬間だった。

「あっやば」

スポーンとなまえの手から抜けていった呪霊が遠心力のあまり凄まじいスピードで帳に叩きつけられる。そんな呪霊の衝撃に耐えられなかったのか補助監督の下ろした帳にびしぴしとヒビが入り、そのまま帳が上がっていった。周囲が昼間のような明るさを取り戻し、なまえが飛ばした呪霊が海に沈んで馬鹿でかい水飛沫を上げて太陽の光がキラキラと反射している。波打ち際まで少し揺らいだ波が届いた。
また面倒ごと起こしやがって、とひとまずなまえが飛ばした呪霊を祓うべく術式を発動させる。一瞬で片がついたことに拍子抜けしつつ呪霊で遊んでいたなまえに一言物申してやろうと振り向いた瞬間になまえの体がぐらりと揺れて海に倒れ込んだのが見えて血の気が引いた。ーあまりに自然に遊んでいたせいで全員が失念していたのだ。あいつの体質を。


「なまえ!」
「闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え!」

傑がなまえの倒れた場所まで呪霊に乗って飛んでいくのが見えて今更意味があるのかわからないが急いで帳を下ろす。傑に救出されたなまえの身体がぐったりしていて気が気じゃない。一年ほど前、実際に肌が爛れたところを見たというのにまじで日差しに耐性がないのかと思い知る。設定だとか言って馬鹿にした自分をぶん殴りたくなった。一緒に様子を見ていた硝子がばしゃぱしゃと海から出て砂浜にレジャーシートを敷き始め、慌ててそれを手伝った。


「夏油!すぐ看るからここに!」
「うう、みんな、ごめん…」
「目眩や頭痛はある?」
「ある…目が回ってまともにうごけない…」


レジャーシートの上に横たえられたなまえは、意識はあるようで安心する。いつもぱっちりと開いている目は開けるのがやっとの様子でかなり辛そうだった。硝子はテキパキと荷物から経口補水液を取り出し飲めるかを確認している。

「だれかからだおこして」

手を上げるのもだるいのか指だけぴくりと動かしたなまえに跨って両腕を掬い上げて首に回させて上体を起き上がらせる。
その間も体温を測ったり身体の様子を確認している硝子の代わりにペットボトルの蓋を開けてなまえの口に運べばゆっくりと飲み始めた。

「熱がかなり高いけど、ほとんど熱射病の症状だね。ハァ、念のためにいろいろ持って来といてよかった。涼しいところに運ぼう」
「車で高専に帰るかい?」
「しばらくは横にさせておいたほうがいい」
「じゃあ宿でも探そうか」
「大丈夫なのか?」
「安静にしてたら大丈夫だよ、肌の異常も見られない」

硝子の一言にほっと一息をついて場所を移動すべく上着を着せたなまえを抱き上げた。




△▼


閉鎖された海水浴場とあって近くの宿は閑散としていた。体調の悪そうななまえを見るなりすぐに案内された和洋室の部屋のベッドで暫く休んだなまえは随分体調がよくなったようだったが、熱は依然高いままだった。早く熱が下がるのを確認したくてこまめになまえの脇に体温計を差して熱を確認していれば呆れた様子の硝子にそんなに確認しなくていいよ阿呆と言われて体温計を取り上げられてしまった。
甲斐甲斐しくなまえを起こして水分補給をさせたり浴衣に着替えたなまえの汗を拭き取ったり、温くなった冷却シートを貼り直したりしていればあっという間に日が沈んで夜を迎えていた。


「なまえ、しんどいか?」
「ん、だいぶましになったよ」
「どっか辛いとこないか?頭痛は?目眩は?」
「大丈夫だよ。みんなごめんねえ、遊んでたせいで迷惑かけちゃった…」
「こちらも体質をすっかり失念してしまってすまない。思ったより元気そうで安心したよ」
「うん、この調子だと明日には帰れそうだね。ホテルの人が晩御飯持ってきてくれたみたいだけどなまえ食べれそう?」
「んー、たべる」

気を利かせて部屋に運んでくれていたらしい夕食を食べようと体を起こしたなまえをベッドに乗り上げながら支える。特別仕様のおかゆを食べようとレンゲを掴もうとしたなまえが「あ、」と呟いたので見てみればぽろり、と取り損ねたそれが床に落ちていくのが見えたので慌てて床に落ちる前に拾う。

「ごめ、」
「持てない?食わしてやるよ」
「五条が今世紀最大に優しい…」

あー、と素直に口を開けたなまえの口に少量ずつ粥を運べばもっともっとと口を開くのでゆっくり食えよと言いながらそういや人の看病するのなんて生まれて初めてだななんて思った。おいしい、ありがとうね、と普段より弱々しいなまえに言われれば看病すんのも悪くはないなという気になってくるので自分でも笑えてしまう。すぐに空になったお椀を見ておかわりほしいな、とうるうるする瞳で見つめられ、ちょっと待ってろ、と起き上がるなまえの背中にクッションを挟んでフロントに連絡をすることにした。




△▼△▼

ホテルの従業員が持参してくれたおかゆのおかわりを受け取った五条が再び甲斐甲斐しくなまえに餌付けするのを見て隣にいた夏油と呆れを含んだため息を同時に漏らした。腹が膨れたらしいなまえは再び布団に潜ってすうすうと規則的な寝息を立てながら気持ちよさそうに寝入っている。飯もしっかり食ってたし、もう熱も下がり始めているからこの分だと問題ないだろう。ずっと心配そうになまえの傍から離れない五条を見て思わず眉を顰めた。


「…あいつなまえに甘すぎない?」
「私たちがいることを忘れているだろうね」
「お前ら自分の部屋戻る気ある?」
「なまえも平気そうだし私はそのつもりだったけど悟はどうだろう?」
「……まさか一晩中様子見するつもりか?」
「言い出しかねないね。悟ー、なまえももう大丈夫そうだし私たちの部屋に戻ろう」
「いや、俺今晩はなまえの横で様子見するからいい。硝子と傑は寝てろよ」
「…五条大丈夫だって、熱はもう下がり始めてるしなまえもあとは寝てるだけだ」
「さっきレンゲ落としてたの見ただろ?夜中に水分補給できねーかもしんないじゃん」
「……私がやるよ」
「いい。硝子は寝とけよ万が一の時にお前がいなかったらこいつ病院も行けないだろうし詰むじゃん」

何を言ってもテコでも動こうとしない五条にもういいと男部屋に当てられていたカードキーを拾って荷物を引っ掴んだ。どんだけ心配なんだよこいつ。五条に見つめられているなまえのこの先が若干心配になる。

「……ないとは思うけど夏油は五条の監視な。私がお前らの部屋で寝る。何かあったら携帯に連絡して」
「…………仕方ないね」
「文句なら五条に言えよ」

なまえに配慮して極力音を立てないように部屋から出て寝る準備をしてリゾートホテルらしくそこそこ質の良いベッドに入り込めば眠りがやってくるのはすぐだった。念のため枕元に携帯をおいておいたが勿論、夜中に電話がかかってくることはなく、目が覚めてすぐ隣室をノックすれば背後からやけにテンションの高いなまえの声とやつれた表情の夏油に迎え入れられて思わず失笑を漏らした。


「硝子〜〜!昨日はありがとー!!もうすっかり元気!!」
「おい、今日一日は安静にしてろよお前熱あったんだから…」
「も〜五条どんだけ心配症なの??ね、このホテルプールあるんだってー!せっかく水着持ってきたんだし硝子後で行こうよー!!」


能天気にきゃあきゃあとはしゃぐなまえと大人しくしてろよと心配そうにする五条、虚無顔をしている夏油を見てなんとなく夜を越える間の状況を想像して心の中で夏油に合掌しておいた。体調崩してこんだけ心配してもらえる男がいてよかったななまえ。何でもかんでもめちゃくちゃ干渉してきそうな男クソ面倒くさそうだから私は絶対いらねーけど。





もこ様この度はリク企画にご参加くださりありがとうございました!
長編番外編ということで星漿体任務で救済成功した後の夏頃のIFイメージで書かせていただきました!心配しすぎる五条と呆れる硝子夏油、すぐ想像できてしまってサラサラと書き上げられました!笑
メッセージありがとうございます!これからも楽しんでいただけるお話を書いていければと思っていますのでどうぞよろしくお願いいたします。
今回は素敵なリクエストをありがとうございました!


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