しあわせと眠る夜のこと

*名前変換 みょうじ欄に男の子のお名前を入力すると、子供の名前を変更できます。




カチカチ、時計の針が動く音がやけに響いている夜半。物音をなるべく立てないように、ふんわりした羽毛布団の中でうつらうつら眠りに落ちそうになっているなまえにそろりそろりと指を近づける。睡眠時間が短すぎるのか、眠たそうにするなまえを覚醒させるのは忍びないが、僕もそろそろ限界。なんてたってなまえと触れ合う時間が短すぎる。えっちしたいっていうもうむくむくと膨れ上がる風船みたいな気持ちをなんとか穴開けて空気を霧散させる。できればしたいけど…えっちできなくてもいいからぎゅっとして眠りたい。なまえの髪を梳かしたい。キスしたい。甘えて欲しい。なんて思いながら指先を透けてしまいそうなくらい真っ白な肌に沿わせた。


「ん、さとる?」
「なまえ、」


眠そうな目が僕を見た。出会った頃から全然変わらない、昔から晴れた空みたいな青色。僕より明度が低いそれ。ほとんど吐息のような声で僕の名前を呼ぶなまえに倣って僕もできるだけ空気を震わせない音を漏らす。困ったように笑いながら僕の指先を優しく握ったなまえの手から体温を感じられて、それだけのことで心がほんのり穏やかになれた。


「眠いよね、ごめん」
「ん、いいよ。おいで」


そう言って布団の入り口を開けて僕を招き入れようとするなまえに誘われるまま音を立てないように気をつけながら体を匍匐前進させるみたいにスライドさせた。よしよし、と頭を撫でられて頭を抱え込まれて、まるで僕を幼い子供のように扱うなまえに僕子供じゃないんだけど、と思うと同時にいつもこのポジションを奪われているなまえの向こう側で大の字で寝ている男にしめしめと意地悪い視線を送ってやった。我ながらこんな小さい子にまで嫉妬しているとはなんて狭量な男だと思う。出会った頃はあんなにバカで自分の食欲と戦闘欲にしか興味なさそうだったなまえがこんなに慈愛に満ちた眼をするようになった。時が流れるってすごいな。…それはなまえに限った話じゃないか。
パジャマ越しでもわかるほわほわなおっぱいに包まれて、いつも嬉しそうにこれに顔を埋めている自分によく似た顔を思い出すとまた少し腹が立ってくる。何年も前からなまえは僕のものと決まっているのに我が物顔でなまえを独占する小さな存在に嫉妬している僕はさぞ滑稽だろう。


「すきだよ」
「ふふ、どうしたの」
「ん、ずっとみょうじにばっか構うからたまにはいーじゃん」
「ええ、そんなことないでしょ」
「そんなことあるよ。なまえは僕のなのに。あいつには今だけレンタルしてやってるだけだから」
「大人気ないなあ」


笑いを堪えきれないみたいに体を震わせるなまえが腕にグッと力を入れたせいで体と体がより密着する。
なまえの体の感触とか、体温とかが伝わって体が熱りだす。僕のつむじの上に乗った顎、素手で何でも破壊できるのに僕にそうっと優しく触れる手、全部があったかい。ほわほわしたあたたかい気持ちに包まれて、気持ちがいい。甘えて欲しいって思ってたけど、甘えるのも悪くない。子供が産まれるまでは、ずっと僕がなまえを抱きしめて眠っていた。なまえは抱っこすることが癖になってしまったのか、僕のことまで甘やかそうとするんだから、母性ってすごいななんて思ったり。

「きもひいい…」
「ん、今日もお疲れ様、悟。…だいすき」
「…っ、なに、めずらしいじゃん…」
「言っちゃダメだった?」
「んなわけない。いつでも大歓迎」

そろそろとなまえの背に回した手を、背骨を一つ一つ伝うようにおっぱいをしまう下着に近づけていく、拒否されるかと思いきやふふ、と笑ったなまえの様子に調子に乗ってぱちん、と外そうとしたところでなまえの向こうでぐうぐう寝ている小さなモンスターが大きく動いた。やばい!起きたか?!二人で体を強張らせてなんとなく息を詰めてやりすごす。


「かか〜、とと〜……すぅ……」
「…………おきた?」
「……いや、寝てる」


なまえの向こうでこちらに向かって横向きになったモンスターがすうすうと規則的に息を吸い込むときに体を膨らませる動きをしていることを確認して、再びなまえの腕の中に舞い戻れば、なんだか可笑しくなってきた。なんでちゃんとした夫婦で、愛し合ってるのにこんなにコソコソしながらイチャイチャしてるんだろう。昔は別に誰に見られてても外で平気で手を繋いだり抱き合ったり、キスしたりできたのに。中途半端な場所で行方を彷徨わせていた手で、なまえの背をなぞればびくびくと体が跳ねた。声を押し殺すようななまえの息が頭上で漏れて、また体温が急上昇する。


「さとるっ、みょうじ起きるよ…?」
「そのときはそのとき」


かわいい。僕の目の前に突然現れて、好きになって、元の世界に帰したくなくてやっと付き合えて、結婚まで持ち込んで、ここまできた。もう何年一緒に過ごしてきただろうか。数えきれない時間をなまえと重ねてきたのにもっと触りたい。もっと愛し合いたい。
そんな想いを顕現化したみたいな息子はもちろん可愛いし愛おしい。だけど僕と同様なまえにべったりしている姿は正直むっとする。
この子が小さい間は仕方ないかなって思ってたけど、我慢できない。だってこいつは、あの日僕の目の前に現れた日から僕のものだったから。たとえ僕の息子だったとしてもこいつの独占権を明け渡すことはできない。日中なまえを独り占めする権利をレンタルさせてやってるんだから夜ぐらい返してよね。
白すぎる首筋にキスを落として、服越しにやわらかいおっぱいを揉む。控えめにちょっと、だとかまって、だとか声が聞こえるが、赤く染まったなまえの顔も若干興奮しているみたいで嬉しくなった。あーやばい。…二人目、作る?と耳元で囁けばなまえが顔を真っ赤にさせながらこくん、と頷いた。本格的に止まらなくなる前にリビングのソファに移動した方がいいな、そう思ってベッドに横たわらせていた体を起こした瞬間だった。


「とと、なにしてんの」


やけにハッキリした声が寝室に響き渡り、僕となまえの動きがピタと止まる。視線だけ声の発生源に移せば、ギンと開いたなまえにそっくりなはずの勝気な目元がまるでブチギレてるときの僕みたいな顔をしてこちらを睨みつけていた。ハッ、オイオイ息子よ。僕に喧嘩売ってんの?百万年早いね。オマエがなまえのことだあいすきなのは知ってるけどそもそもオマエのじゃないから。いくらなまえの腹の中から産まれてきたからってなまえはオマエのじゃないよ?わかったらおこちゃまはさっさと寝てな!─一息でこちらを睨みつける息子に脳内で吐きかけるが、もちろん口にはしない。こんなことを言えばなまえにぶん殴られるに決まっているからだ。だが勘の鋭い出来の良いマイサンは僕が考えていることはお見通しだったのかさらに視線が鋭くなり、拙い呪力がメラメラと漲っていくのがわかった。


「ふふん、こんなことで呪力乱すなんてまだまだだねべーべちゃん」
「とと、かかのうえからのけ」
「はー?誰に命令してんの?やーだねー!べー!!」
「ぶっころす」
「口悪すぎでしょ。やれるもんならやってみな」


僕と同じ、無下限呪術が刻み込まれた体。六眼はないから、僕とは違ってそのコントロールに苦労するだろう。だけど、なまえの夜兎の血を濃く継いだ体はまだこんなに小さいのに既に僕より単純な力は強いし喧嘩になったらいつもどこかが大破する。さあ今日はどこが壊れるかな、なんて思いながら体を完全に起こした時だった。ガツン!と脳天を鋭い痛みが貫いた。


「…ってェ〜〜ッッ!」
「もう!悟!大人気ない!みょうじもぶっ殺すはないでしょ?」
「オマエが言っても説得力ないよ?」
「うるさいなあ」
「……かかだっこ」
「おいで、みょうじ」
「んな!だめ!夜は僕の!オマエは日中イチャイチャできるんだからいいでしょ?」
「かかすき〜〜」
「ふふ、私もみょうじだあいすき」


ぎゅう、と抱きしめ合う二人は力の加減なんてしないでぎゅうぎゅうとひっつきあっている。…僕はそれがひどく羨ましい。なまえは僕を抱きしめる時、いつもどこか遠慮しつつ優しすぎるくらいソフトに触るからだ。…確かに、余裕がなくなった時に入れられる力が痛くなかったとは言えないことが何回かあったけれど、なまえが全力で誰かを抱きしめられるのが僕じゃないというのが悔しい。…それと同時に、この世界でもなまえが何の遠慮もなく抱きしめられる存在ができたことが幸せでもあるんだけど。あれだけ子供を作ることを渋っていたなまえだが、できてみればあれだけ殺気だった高専時代のなまえはどこへやら、いつも穏やかにみょうじに接している。みょうじを抱きしめるその表情も仕草も雰囲気も、どこからどうみたって慈愛に満ちた母親の姿だ。恵と津美紀に引き合わせたのはやはり正解だったのかもしれない。


「二人していっつも僕のことはぶって酷い!僕もぎゅーってして!」
「みょうじ、どうする?」
「えーっ、ととぎゅーするのおもいきりできないからやー!」
「オマエのぎゅーくらいで死ぬ僕じゃないよ!ほら二人ともぎゅー!」


手を広げて抱きしめ合う二人を包むように抱擁して、ベッドに飛び込めば重さに耐えきれずベッドが凄まじいスプリングと共に大きな音を立てた。それに三人して大笑いして、ぎゅうぎゅうと抱きしめ合っていれば、心の中があったかくなって日中ささくれ立つようなことがあってもどんどん穏やかに心が凪いでいく。あたたかい気持ちに満たされて、更ける夜と一緒にいつのまにか眠りに落ちていた。幸せってきっと、こういうことを言うんだろう。






ぽむ様、今回はリク企画にご参加くださりありがとうございました!
リクエストをいただいてから約五ヶ月もお時間をいただくことになり、申し訳ありませんでした…!
闇い夜に煌めくはを楽しみにしてくださって、ありがとうございます!!なかなか最近は更新が滞っており、申し訳ありません。リクを全て書き終わりましたら、がっつり書いていこうと思ってますので、またよろしくお願いします!!

子供と夜兎主を取り合うお話、かつ子煩悩なところも見たい!ということだったので、こんなお話にしてみました!子煩悩な部分がだしきれなかったかも…!楽しんでもらえるといいのですが…!IFストーリーではありますが、図らずもいい夫婦の日にあげることができてぴったりの内容かな?なんて思ったり…!
素敵なリクエストありがとうございました!


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