思いがけない落とし穴

例にも漏れぬ嫌でも毎年やってくる繁忙期ー、祓っても祓っても湧く呪霊。祓うことが労力たりえなくても、日本全国津々浦々東へよっこら西へよっこら文字通り東奔西走して呪霊を祓いまくるというマラソンイベントは移動だけで体力が消耗する。そんな繁忙期についに終わりが見え、やっと戻ってきた東京で自分を差し置いて開かれていた旧知の同僚たちが集まる飲み会に据わった目で参加してやったら誤ってアルコールのドリンクを飲んでしまったらしい。ただでさえ下戸でアルコールの分解がうまくできない自己の体が疲労も相まって一飲みでキャパシティを超えた。ばたんきゅー。
楽しそうに飲んでいたみんなに向かってなんで僕のこと呼んでくれないの?誰よりも頑張ってる僕のこと労ってくれたっていいじゃんなんで仲間外れすんのと喚きながら机に突っ伏した。もしかしたら誰かの策略だったのかもしれない。だって僕の飲んだドリンクにはストローが刺さっていたし、見た目完全にオレンジジュースだった。絶妙に利き手が自然と伸びる場所にグラスがあって、やけに味の濃い焼き鳥が目の前のお皿に盛り付けられててそのドリンクを手に取るのは必然だった。閉じる瞼が最後に捉えたのがやれやれといった硝子の表情で、主犯はこいつかと悟った。ぐるんぐるん回る視界。沸騰するようにどくどくと全身を回るアルコール。体に蓄積された疲労もあって、眠りに落ちるのは一瞬だった。クソ、世界が僕に優しくない。こんなに世界のために毎日働いてるのに。理不尽だ。僕がつぶれたのをみてゲラゲラ笑ってる呪術師はクソ。まるで学生の時間割のように分単位で詰め込まれている労働もクソ。全部クソ。これ、次目が覚めた時にこのまま一人でここに放置されてるとかないよね?誰かちゃんと面倒みてよね。潰した責任とってくれるよね?起きたときに誰もいなかったらストライキ起こしてやる。僕がストライキ起こして世界の均衡が崩れてももう知らない。僕に優しくない世界が悪い。そんなことを思いながら迫り来る睡魔に抗えず眠りに落ちた。


ハッと目が覚めた瞬間に広がる景色に安堵した。自室だ。誰か連れて帰ってきてくれたのか、それとも自力で帰ってきたのか。そうだ、たしか一回目が覚めてまだみんながどんちゃん騒ぎしてて、誰かの優しさか目の前に置かれてた水を一気飲みしたら吐きそうになって離脱してトイレに向かって……だんだんとクリアになると同時に坩堝にハマっていくような思考を一旦ストップさせる。寝室からほど近い風呂場から聞こえる水音、服はおろか下着さえ身につけていない自分自身。…あれ?僕昨日誰か持ち帰った??誰だ?昨日参加してた女性陣を思い返していやあのメンバーは無いと判断してそこらへんの女の子を引っ掛けたかと思い至る。任務が忙しすぎて抜くこともしてなかったからたしかに欲求不満ではあったが、そのあたりがすっきりしている。うん、ヤッたな。いやー、それにしても家かあ。家に連れてくるかあ。判断力が鈍る酒はやはり飲むもんじゃない。えーっと、どんな子だったっけ。一時停止させていた記憶をリプレイさせようとした瞬間目に飛び込んできたブツに、否が応でも記憶のリプレイは再び一時停止せざるを得なかった。

床に乱雑に放置されていたのが、細かいプリーツの入ったチェック柄のスカートだった。あんなの履いてるの一定の層しか見たことがないぐちゃぐちゃに丸まったハイソックスも適当に放り投げられたのか似たような方向に一足ずつ寂しそうに転がっている。寝室の入り口付近には口が空いた学生鞄。そこから導かれる今シャワーを勝手に浴びている女の子の像が一つに絞られた。まさかの女子高生……?いや、まさか。いくら酔っていたとはいえ、…嘘でしょ?
慌ててベッドの上を確認すれば、小さなボタンがいくつか転がっており今にもマットレスの上から落ちそうになっているワイシャツはその大きさからいって完全に自分のサイズ感ではない。よくよくみやればほとんどのボタンが弾け飛んでおそらくボタンを止めていたのであろう糸がぷちぷちと浮いているのが見えた。流石にそれをみて血の気が引いた。まさか、昨日僕は嫌がる女子高生(仮)を無理矢理…?
いや、待て待て待て。女子高生も、嫌がる女の子を無理矢理も僕の性癖ではない。というか僕を目の前にして嫌がった女の子なんて今まで一人としていたことがない。なんなら女子高生なんて生徒たちみたいなもんでしょ?ちんちくりんじゃん。絶対勃たない自信ある。こ、これはあれでしょ?酔っ払ったノリでほらなんでも揃うディスカウントショップで買ったコスチューム的なあれでそういうプレイを楽しんだんでしょ?一時停止した記憶を今度こそリプレイさせた。







「あの、大丈夫ですか?」
「んあ…??」

ぐわんぐわんと未だ回る視界の中でかけられた声に頭をあげれば心配そうにこちらを見つめるおそらく女、がいた。トイレの照明が暗いのと、視界が定まらないのとでよくわからない。僕今攻撃されたらやばいかも。あ、無限はオートで働いてるやすごいね僕の脳って、なんて考えながら頭を突っ込みかけてた便器から顔を上げた。


「あ、私ここでバイトしてる従業員です。上がって帰ろうとしてたんですけどお兄さんヤバそうだったんで声かけさせてもらいました。お店来てからほとんどずっと机に突っ伏してましたよね?あったかいおしぼりとお水持ってきましたけどお顔拭きます?」


かけられた優しげな声に涙がでかけた。同僚にははぶられ、苦楽を共にしたはずの同級生には苦手なアルコールを飲まされ潰されて、誰も介抱してくれることなくこうして便器に顔を突っ込みかけている自分が情けなくなった。優しい店員だ……。こくんと頷き差し伸ばした手に乗せられたほんのりあったかいおしぼりが身に染みた。視界を覆っていた目隠しを外して汚れた顔に押し付ければぐるんぐるんに回っていた頭が少し落ち着く。


「わぁ、お兄さんイケメン。でもその顔便器に突っ込もうとしてたからプラマイゼロだね」
「えー…?ぼくかっこいくない…?」
「うーん、酔っ払ってトイレで潰れてる大人はかっこよくないと思うよ」


ショックだ。言われた言葉が正論すぎてドスドスと鋭利な刃物のように酔いのせいか露出していたらしい心の柔い部分に刺さった。いつもなら正論キラーイなんて言って跳ね除けるのに。しかもそれが旧知の知人たちに放置されている中唯一優しく接してくれた女の子だったから尚更刺さってしまった。人生で女の子からかっこよくないなんて言われたの初めてな気がする。

「お水飲む?」
「…のむ……」

おしぼりに押し付けていた顔をあげてみれば、先ほどまでよりは世界が回転していない。眼前に突きつけられたグラスを手に取って口に運ぼうとしたが、うまくいかずそのほとんどをこぼしてしまった。

「あちゃー濡れちゃった。仕方ないなあ。ほらお口こっち」

まるでキスをする前の予備動作のように顎を女の子に掬われた。冷たいグラスが唇に当たり、氷を押しのけるように冷えた水がゆっくりゆっくり口内に入り込んでくる。酔っ払いの介抱が慣れているようで、口から溢れることなく少量ずつ押し込まれる水が熱くなった気道や血管を冷やして体内に循環していくみたいで心地が良い。

「まだ飲む?」

冷たいグラスが唇から離れていってようやく介抱してくれた女の子の顔面が視界に入る。あー、可愛い。目が回ってるけどなんとなくわかる、タイプだ。しかも優しい。僕に優しくない世界のなかで唯一優しくしてくれた女の子。可愛い。しゅき。


「すき……」
「ええ〜?お兄さん何言ってんのだいじょーぶ?」
「心配してくれてる…やさしい…すき…」
「お兄さんチョロすぎるよ残念なイケメンだねえ」
「ちがうの、ぼくほんとはかっこいい人間なの、さとるってよんで」
「あはは、おもしろーい。お水もういい?」
「もういい。きみとキスしたい」
「ウケるんだけど。そういうことは彼女としてね」
「かのじょいない…なまえおしえてよ……」
「酔っ払いに教えてあげられる名前はないなあ」


さ、早く帰りなね。タクシー呼ぼうか?と立ち上がろうとする女の子の華奢な腕をがしりとつかんだ。普段なら女の子一人にこんなに必死になることないのに、珍しく相手にされていないことに火がついたのか、それとも任務が入りすぎていたせいで女の子との触れ合いがご無沙汰だったからか、目の前の可愛くて優しくてちょっと小悪魔な女の子とキスしたくてたまらなかった。なんならえっちまでもつれこみたい。今にも帰ってしまいそうな女の子を捨てられた子犬の要領で全力で引き止めることにした。


「やだ。いっちゃやだ。」
「え、ええ〜…。お兄さんすごい。自分の武器わかってやってるでしょ」
「ぼくのかおすき?」
「うーん、便器に突っ込んでなかったら好きだったなあ」
「おふろはいるし、きれいにするからぼくのおうちいこ。きもちよくしたげる」
「あはは。私いくつか分かってんの?」

そう言われて焦点の合わない目で女の子を見つめた。困り顔をしている女の子は暗い照明のせいかそれとも焦点の合わない自分の視界のせいかいまいち年齢を推し測ることができない。年齢?意外と年増なのか?こんなに迫っても袖にされるし結構慣れてる感じするし年上なのかも。うーんでもこんなに可愛いしなあ、明るいところで見たら小皺とかあんのかな。いや、小皺あってもイケるイケる。それにさっきから心臓のあたりがキュンキュンして仕方がない。

「すきだからそんなのかんけいない」
「…、さ、さすがにそんなこと言われると、照れる」
「かわいい………」
「でもやっぱりおうちにはいけないよ。キスしてあげるからそれで我慢して帰って」


ごしごしとおしぼりで拭かれたことにまるで汚物かのような扱いは不服だったが今にも吐きそうになっていた口だ、確かにおしぼりで拭くかもしれない。おしぼりが離れていったと思えばふに、と柔らかい唇がふれた。それだけの接触だったのに信じられないくらい気持ちよくて少し照れた風に離れていった顔をもっと近くで見たくて腕を引いて抱き寄せた。あ、びっくりしてる。かわいい。キスしたい。もっとふかいやつ。


「すき。かわいい。こんなんでがまんできないもっとぐちやぐちゃなのしたい。なまえおしえて」
「もう、仕方ないなあ。…店長には内緒だよ?」


なまえだよ。と耳元で寄せられた口から出てきた名前を忘れないように回る頭に刻みつけた。







ガチャ、と寝室のドアが開く音で昨夜の記憶のリプレイに沈んでいた思考から、現実に意識が引き戻された。ひょこ、と顔だけ覗かせたのは先ほどまで脳内で己がかわいいすきだの言い放っていた女の子だった。シャワーを浴びていたのだから当然だとは思うが化粧が落ちてあどけなさの残る表情とみずみずしい肌は明らかに同世代のものでも年上のものでもないことにあちゃー、と内心頭を抱える。恥ずかしがる様子なく下着姿で戻ってきた彼女は「酔い覚めたー?」と笑いながら寝室に入ってきた。あ、やっぱり可愛い。


「やっぱり私が女子高生ってわかってなかった?」
「…エッ?」
「あ、さとるくん私のシャツのボタン弾き飛ばしちゃったからワイシャツ一枚ちょうだい」
「ま、待って待って…!」
「…べつに淫行だなんだって騒がないよ?昨日はいっぱいかわいいって言ってくれたし、気持ちよかったし、もうすぐ18だし。私も拒まなかったしね。でもお酒は飲める量しか飲んじゃダメだし、わけわかんなくなって未成年に手出すなんて最低だよ?」


またまた飛び出すど正論に今度は頭ぶん殴られたような衝撃を受ける。言い返せるポイントがひとっつもない。僕今十代に叱られている。
それにしても、気持ちよかった、と素直な感想を口にするなまえがかわいい。焦りと可愛いで心の中が渋滞していた。
勝手にシャワー借りたよー、着る物ないから適当にシャツもらっていっていい?なんてクローゼットを開け出した彼女の手を慌てて引いて抱きしめた。


「……なに。もう一回は無理だよ?学校行かなきゃ」
「ホントに女子高生?コスプレじゃなくて?」
「そんなに信じらんない?学生証でも見る?」


もう、と呆れたような声と一緒に腕をつねられた。全然痛くない。……かわいい。昨夜この女の子を家へ誘導したところまでは思い出せたが、そこからの記憶がまったくない。なんで。肝心なとこここからなんだけど。僕勃ったの?女子高生に。まじまじと下着姿の彼女を見やれば首筋にいくつか自分がつけたのか定かではない鬱血痕を見つける。そこにまだ少し濡れた髪が張り付いているのがセクシーだった。…誰だ女子高生には勃たないなんて言ったの。勃つわ。いくら柄じゃないと思っているとはいえ、目の前の手を出してしまった女の子と同世代を指導する教職に身を置いている立場である以上自分でも知りたくない性癖だった。



「学生証は、いいよ。ごめん。僕無理矢理とかじゃなかった?」
「んーん、優しくしてくれたよ。ね、このシャツもらっていい?」
「おっきいけどいいの?ごめんねシャツも…僕女子高生に乱暴したのかと思って血の気引いた」
「ほんとだーぶっかぶか。昨日はね、さとるくんシャワー浴びてから酔い回ったみたいで私がシャツ脱いでたら待てないって言われて凄い勢いで破られたの。まあまあびっくりしたけどちょっと興奮した」


あ、やばいそのセリフにこっちが興奮した。ちょっと待って。僕なんで女子高生に良いようにされてんの??ていうかこんなイケメンに抱きしめられてんのに平然と散らばる制服を足で手繰り寄せてんの何事なの。僕に全然興味ないじゃん。


「ね、ちゅーしたい」
「ええ〜?さとるくんまだ酔ってる?それとも歳下趣味?」
「ぜんっぜん。今まで女子高生に勃ったことない。君のせいで新しい道が開かれちゃった」
「あはは。私罪深い女だね」
「ていうか昨日えっちした記憶ないのほんと勿体無くて死にそうなんだけどリベンジさせて」
「ちょう必死じゃん。んー、まあさとるくんうまかったからもう一回しても良いけどー…あんまり気乗りしないなあ」
「なんでなまえは僕に興味ないの?酔っ払ってた昨日より絶対気持ちよくさせる自信あるよ」
「あ、名前は覚えてたんだ。えー、興味ないっていうかさとるくんイケメンすぎて深入りしたくない。闇深そうだし。私の好きなタイプってほどほどにかっこよくてほどほどに背が高くてほどほどに頭がいい人なんだよね。さとるくんはなんか全部規格外だし遊ぶなら良いけど彼氏にしたくないタイプ。ていうかもはや遊ぶのもちょっと躊躇う」


ズガーンと雷にでも打たれたような衝撃だった。まさか自分が遊ぶなら良いけど彼氏にしたくないなど言われる日が来るとは。今までそのセリフを吐いていたのは自分の方だったのに。しかもその相手が自分よりはるかに年下の女子高生。確固たる自信を持っていた自分のルックスがこき下ろされると思わなかった。ていうかなんなのその男のタイプ。そんなのより全部完璧な僕のほうがよくない??ていうかほどほどって何?なまえの男のタイプ抽象的すぎない?ショックで緩んだ拘束からなまえがするりと抜け出していく。テキパキと制服を身につけた彼女はぶかぶかのシャツの袖を何度か捲ってよし、と呟いた。何がよし、なの?全然よしじゃない。僕は何一つだって現状に納得できていない。


「じゃーねさとるくん、お酒は飲んでも飲まれるな!だよ〜!ばいばーい」


呆然としている間になまえは僕の連絡先一つ聞くことなくパッパラパーと効果音が聞こえてきそうな軽快さで部屋から出ていった。嘘でしょ?僕もしかして今ヤリ捨てされた?女子高生に?………マジ?






「だからね、全部硝子のせいだから。僕があの日硝子に潰されたせいでなまえにヤリ捨てされた。この僕がヤリ捨てされるなんてあの日絶対本領発揮できなかったに違いない。酔っ払ってない万全な状態だったら絶対メロメロにできたと思うし絶対リベンジしたいの。それにあの子なんか慣れてたし放っといたらすぐ他の男とヤってそうなんだよね…だから硝子この前のお店一緒に飲みに行こ」


先日五条が突撃してきた飲み会で、あまりに喧しいこいつに、オレンジジュースに擬態させて忍ばせたスクリュードライバーを飲ませて潰したことについてぷんすこ怒りながらくどくどとと毎日毎日同じ話をしにやってくる。かなり青い顔をして戦線離脱していった五条を知っていたのでまあ、やり過ぎたかなと思わないでもない心くらいはあったので悪かったなと飲み会の次の日までは思っていたが、毎日毎日同じことを言われれば鬱陶しいし図体がでかいせいで視界に入ってくるだけでかなり邪魔。うざい。だが珍しく五条が女に振られたという話はかなり面白いしザマアミロと思っている。どこぞの女かは知らないが思い通りに行かず渋い顔をしている五条なんて滅多に見れるものじゃないのでよくやったと言ってやりたい。


「一人で行け」
「一人では行ってるよ?でも全然振り向いてもらえないから硝子と一緒に行ったらやきもち焼いてくれるかな?って」
「クズめ。一生振られてろ。だいたいなんであの店なんだ」
「ああ、あそこで働いてる子なんだよね。僕がトイレで潰れてるとこ面倒見てくれてー、お前らみたいに心ないことしない優しい子なの。ちょっと小悪魔なところも可愛い
「はあ?潰れてる客介抱するなんて仕事で仕方なくじゃないのか?…だいたい店員に手出すなんてお前そんなに節操なしになったのか」
「ちがいますー。もうバイト上がりだって言ってたのに面倒見てくれたもーん。おーねーがーいー。何飲んでもいいし何食ってもいいから。全部お金出すからー!」
「ハァ…一回だけだぞ」
「さっすが硝子ー!じゃ、迎えに来るからー!」


意気揚々とスキップしながら大股で駆けていく大男の様は奇妙以外の何者でもなかった。
 






「お疲れ様でーす失礼しまーす!…って、さとるくん、またきたの?」
「あれ、なまえ、もうあがり?」


五条に連れられるがままやってきた店は確かに先日私が五条を潰した店に違いなかった。今まさに店内に入ろうとしたタイミングで開いた扉から出てきた女性…、いや、女子、は五条の顔を見るなり親しげに名前を呼びだしたのでまさかと顔を顰める。
肝心の五条はといえば数日間散々呼んでいた女の名前を目の前の女子に向かって平然と言い放った。その瞬間に頭の中に110番の文字が浮かぶ。目の前にいたのが明らかに制服を着た女子高生だったからである。五条を見て苦笑いを浮かべている彼女の笑顔を見てデジャブを感じるー、あ、そうだ、店にいる間ずっと机に突っ伏してた五条に誰も注文なんてしてないのに水やらおしぼり持ってくる気の利いた店員だった。あの子、女子高生だったのか。



「……オイ。お前はいつからロリコンになったんだ。この淫交教師め」
「ちょっと硝子?!?何言ってんの?!淫行じゃないから!純愛だから!!!!」
「…美人な彼女さんだねー!私もう上がりだから帰るね〜ごゆっくりー!」
「?!待って待って!なまえに会いにきたの!こいつは彼女でもなんでもないから!」
「女の子口説くなら女性連れなんてダメに決まってるじゃん。そんなことも知らないの?普通にさいってー」
「え!!もしかしてなまえ、ヤキモチ?!やっぱり硝子連れてきてよかった!!ヤキモチ焼くなまえかわいー!サイコー!」
「おねーさん、もしかしてさとるくんってヤバい人ですか?」

肝が据わっているのか未だニコニコと微笑みを湛えながらこちらに尋ねてきた女子高生に哀れみを込めてこくりと頷けば、「そっかー…ヤバい人かー…」と虚無顔で呟いたのを見て若いのにこんなのに目をつけられて御愁傷様と心の中で手を合わせておいた。






とぅた。様今回はリク企画へご参加くださりありがとうございました!
リクいただいた時に『高専生に手を出した先生』だと思い込んでいたのですが『高校生』だということに気づきました…一覧に載せていた間ずっと間違えたままですみませんでした…
楽しんでもらえるお話になっていれば幸いです。リクエストありがとうございました!


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