十年前も十年後も、

「ふぅ、おしまい」

連続で投入された任務がようやく終わったことに安堵する。今日のはちょっと強かった、領域展開されたときちょっと危なかったな、なんて思いながらサラサラと霧散していく呪霊から目を離して帳を上げて帰るかと踵を返した瞬間、祓ったはずの呪霊がまるで死にかけの蝉のように暴れ出し、なけなしの呪力をこちらにぶつけてきた。やばい、と傘でなんとか呪力を吸収させようとするも、呪力放出からは逃れられなくてまともにくらってしまう。呪力を放出したことで全ての力を使い果たしてしまったのか呪霊は今度こそ跡形もなく消え去ってしまった。自爆かよ。
体に問題はないかと一応確認するが、特に変化はない。何だったんだろうと疑問は残るけれどこのままぼうっとしていても仕方ないし呪霊の気配はすっかり消えてしまっていたし、連続で入っていた任務の疲れからか倦怠感のある体を休ませたくて今度こそ帰路につくことにした。
上がった帳を抜けて待機していた補助監督の元へいけば、ギョッとした顔でわたしを見る補助監督がこちらへ送迎してくれた人間とは異なっていた。いつも担当してくれる何人かのうちの一人ではない補助監督の姿にどこかで見たことあるような気がするけど任務一緒になったことあったっけ?交代したのかな?なんて思いながら「よろしく」と車に乗り込む。あわあわしながら運転席に座る補助監督に「なまえさん、ですよね?」と聞いてくるのでやっぱり初対面か、とあたりをつけて「そうだよ〜ごめんなさい、ちょっと疲れたから寝るね」とまだ何か言いたそうな補助監督を置いて仮眠を取ることにした。


「……なまえ、さん、つきました」


その声と共にまだ眠くてぼんやりする頭を無理矢理覚醒させる。夜桜が舞い散っている明かりが少なく薄暗い高専内に降り立った。ーなんだろう、異様に眠い。


「ありがとう、任務ってとりあえずこれでひと段落かな?タブレット、もらえる?」
「…えっ、と、タブ、レット?ですか?すみません眠気覚ましになるものは持ってなくて」
「?うん??報告書書かないと」
「!報告書ですね!こちらに!」

手渡された懐かしい手書きの書式にん?と思うも、恐らく自分より年若そうな補助監督の姿に慣れてない新人さんか、と苦笑を漏らして書類を一応受け取っておく。

「学生たち、今日どうしてた?明日の予定は?」
「…はい???」
「?明日の授業の予定だけど」
「す、すみません。なまえさんの授業の予定までは把握していません」

任務の案内だけで…と申し訳なさそうにする補助監督の姿に凄まじい眠気に考えるのも面倒でそっか!とこちらも諦めてとりあえず明日起きてから考えよう、と職員寮を目指した。




何かとてつもない違和感を覚えながらも高専内を歩いている。なんだろう…?若干、若干いつもと雰囲気というか何かが違う。違和感があるのに何がおかしいのかがわからない。わたしの部屋のドアノブに手を伸ばしたところで見知った気配に思わず振り返った。


「おい、なまえなんだその格好は。それにこっちは職員寮だぞ寝ぼけているのか?」
「?が、くちょう??」
「?何を言ってる?」

サングラスもかけていない年若い学長の姿に懐かしささえ覚える。まるで学生の頃じゃないかーあ、そうか。違和感の原因がわかった。高専内の空気感が全然違うんだ。そういえばわたしと悟が喧嘩して破壊した校舎がまだ修理されてない。あれ?夢?あ、そっかわたし寝てるんだ。学生の頃の夢かな?そっか、じゃあ学生寮の方に戻らなきゃな。どうせなら悟の部屋にでも行こうかな。最近会えてなかったし夢の中だけでも会いたい。学生の頃の悟の夢が見たい。

「すみません、間違えちゃった」
「おい、なまえ様子がおかしいぞ…?」
「んー?なにが?おやすみ、せんせ」

怪訝そうにする夜蛾先生に少し楽しくなって学生の頃になりきってみれば先生は何かいいたそうだったけれど踵を返して男子寮を目指して歩いた。


「わー、男子寮くるなんて久しぶりだあ」


先生になってからというもの、悟に注意されたのもあって一切近寄らなくなった男子寮に久しぶりに足を踏み入れてものすごく懐かしくてなんだかノスタルジックな気持ちだ。それにしてもこの夢リアルだなあ。そして寝ているはずなのに無性に眠い。どういうこと?

悟の部屋の前に立ち、隣の夏油の部屋にも人の気配があることを察して、胸がキュウと切なくなった。
コンコン、と控えめに悟の部屋の扉をノックするけど、寝ているのか返事がない。勝手に入っていっか、とドアノブを捻ればギィ、と音を立てて扉が開く。その音が聞こえたのかベッドで眠っていた大きな体が起き上がって暗闇の中光るきれいな瞳がこちらに向けられる。


「…なまえ………?」


体つきは今と大して変わらないのに、纏う雰囲気、わたしを見つめる瞳、表情、全部違っている気がして胸にぶわっとなにかが広がる。私が恋をした学生の頃の悟をもっとよく見たくて、堪能したくて思わずベッドに腰掛けている悟に飛びついた。


「さとるっ…」
「…は……?さとる…?」


そういえば夏油が隣の部屋にいるということはまだ私が悟を五条と呼んでいたときか、と思うけれどもどうせ夢なのでなんでもいいや、と悟の上に馬乗りになって首元にしがみついた。


「えっなまえ…?!なに、なに?!は?!おまえ、なんだその呪力…?!呪霊の攻撃か?!いや、アラート鳴ってないし…は?なにこれ、は?夢?」
「めっちゃ慌ててるじゃん、可愛い。そう、夢だよ」


あたふたしながら真っ赤な顔で私を見つめる悟が今の手慣れた悟とは全然違っててめちゃくちゃ可愛い。あれ?悟ってこんなに可愛かったっけ?やばい、ちゅーしたい。学生の頃の悟にちゅーってやばいのかな?いいや、どうせ夢だし。


「ね、悟…ちゅーしよ?」
「は、はあ?!はああ?!え?なに?なんでお前そんな年上のおねーさんみたいになってんの?!」


そう言われてから自分の姿を確認すれば確かにきている服は先生になってから着るようになったパンツスタイルだったし、鏡を見たわけではないのでわからないが髪が最近かけたパーマでゆるふわと巻かれていたので自分が現実の年齢のままであることを悟った。悟が何年生の頃の夢か知らないが十年ぐらいは離れていそうで手慣れていない悟のウブな様子ににんまり笑ってしまう。かわいい。


「……え?あれ?私はそのままなんだあ。今先生と生徒ってこと?やば。めっちゃ背徳感
「え…えろ………」


顔を真っ赤にさせて固まる悟の頬に両手を添えて迫れば躊躇いつつも目を閉じた悟にきゅんとしてしまう。やば、ほんとに可愛い。襲っちゃいたい。さすがにそれはやばい?っていうか学生の頃の悟に発情する夢見るなんて私欲求不満?こんな夢見てたってバレたら悟に怒られるかも、……いや、たぶんめちゃくちゃ興奮するだろうな。言わんとこ。


「ん、」


薄い唇にちゅ、と軽く口付けて離れれば物欲しそうな悟が薄目を開けてこちらを見つめてくる。お腹のあたりが熱くなったような、きゅうううと心臓が握りつぶされたような感覚を覚えてもう一度口付ける。何度かちゅ、ちゅ、と小鳥が啄むようなキスをしていればどんどん舌を絡め合う深いキスに変化していく。学生の頃でもキスがうまいことに少しむっとしてしまうが、悟の大きな手が私の腰に回って躊躇いがちにトップスの中に手を差し込んでさわさわと腰をさすってきた。かわいい。


「悟のえっち」
「は、やばい、勃った……」


相変わらず顔を真っ赤にさせている悟が新鮮であまりにも可愛くて耳元で「つづき、する?」と聞けばカッと目を見開いた悟に腕を引っ張られてベッドに押し付けられた。いつもの余裕綽々な悟じゃなくて、初めて悟と肌を重ねた日のような緊張感のある夜でもなくて、私のリードに興奮している悟の姿にこちらまで熱が伝播しそうだった。はー、はー、と荒い息を吐いて息継ぎできないほど舌を絡めながら私の服を脱がそうとしてくる手に仕方ないな〜と口では言いつつノリノリで腰を浮かそうとお尻に力を入れたー、瞬間淫靡な雰囲気をぶち壊す勢いでドンドンドン!と鳴り響いた激しいドアノックの音に二人してピタリと固まる。


「悟!悟!変な呪力感じたけれど無事かい?!」
「悟!開けるぞ!」


ドアの向こうから聞こえる夏油と夜蛾先生の焦った声にえ、と思う間も無くバーンと開かれたドアによってこの場が大惨事を迎えることが何となく予想できた。夢なのにこんなリアルな空気のぶち壊され方ある?


「お、お前ら寮で何をやっている…!!!」
「なまえ!!無事かい…?!」
「い、いや…襲ってきたのはなまえの方で…」
「馬乗りになってるのは悟の方だろ!」


バッと悟の首根っこを掴んでいった夏油に苦笑を漏らし私も体を起こす。悟にガミガミと文句を言っている夏油の様子が懐かしすぎて夢の中とはいえ胸にくるものがある。


「なまえ、君も君だよ、こんな時間に男の部屋に一人で入るなと、何度、も……??」


悟にヘッドロックをかましながら私にも鋭い視線を送ってきた夏油の言葉に籠る勢いがどんどん尻すぼみになっていくのがおかしくてくすくすと笑う。大人になった私、そんなに変かな?いつも余裕そうに、大人ぶって私や悟を諭していた夏油が口をぽかんと開けながらこちらをただ見つめている姿が新鮮で、私もずいぶん大人になったものだなと自嘲した。


「なまえ……?」
「うん、なまえだよ」
「な、なんだいその姿、まるで大人みたいな…、」
「ね、変な夢だね」
「夢……?何を言って…」


ベッドに腰掛けて足を組む私の頭の天辺から爪先まで何往復も視線を彷徨わせる夏油に思わず笑ってしまう。あの頃は大人っぽくてお兄さんみたいに思ってた夏油だけど、今教えている子供達と同じ歳なのかと思うと、悟と同じで可愛い。

「二人とも、可愛いね」
「かわっ!?」
「男が可愛いって言われてもちっとも嬉しくないよ、なまえ」
「え?そう?俺は手のひらで転がされてるみたいで嬉しいけど」
「悟はなまえならなんでもいいんだろ」
「それはそうだな」
「そんなことよりなまえ、その姿はなんだ」


ため息を漏らした夜蛾先生。夢の中でまで生真面目だなあ、と笑ってしまう。


「なんだろうねえ、ごめんね、みんな、なんかすごい眠くてよくわかんないんだよね、」
「なまえ」
「、なあに?悟」
「さ、悟、って呼んでんの…?いや、今はそれどころじゃなくて、お前任務でなんかあった?なんかの術式食らってるぞ。あとこれ、多分夢じゃねえ」
「………え???」


夢じゃない?どういうこと?じゃあなんで夏油が目の前にいて、悟が高専生で夜蛾先生がグラサンかけてないの…?ど、どういうこと?


「任務で確かに呪霊に呪力浴びさせられたけど、そのまま消えて任務終わって補助監督の車に乗って帰ってきたらここだったよ…?
車の中で寝ちゃって、そのまま、夢見続けてるのかなって、あれ、でも、確かに起こされて、…あれ?…え?もしかして私さっきの呪霊の術式かなんかでタイムスリップでもしてる?」
「!なまえは今何歳なんだ?」
「悟たちは一応26だったと思うけど」
「丁度十年後だ」
「じゃあ十年後のなまえってこと?!十年後なまえそんなエロくなんの?!未来やべー!!!」


ちょっとまて。もしかして私夢じゃない現実の十年前の悟に手出した?え?ヤバ。丁度十年前ってことは16の春。星漿体の任務さえまだ行ってない頃か?やばい、まだ悟とは気持ちも何も重ね合わせてないただの同級生だった頃だ。一気に顔が青ざめていくのがわかった。


「さと、…五条、…くん、ごめん、わすれて」
「は?何?五条くんって。忘れろって何を?」
「私のこと、さっきのこと。全部忘れて」
「……ヘェ。いたいけな16歳の悟くんの寝てる部屋に侵入してきてイケナイコトしてきたのそっちなのにそんなこと言うんだ。ヘェ」


悟の言葉にギョッとする。そして何も言い返せないことに項垂れる。夜蛾先生の方を見れない。学長の夜蛾先生にこんなことバレたらゲンコツでは済まない気がする。え?青少年淫交教師?いやいやでもでも本当は同級生だし!今は恋人だし!!いや、でも夢だと思って戸惑ってる悟に無理やりちゅーしたかも。ていうか背徳感あるなあとか思ってたかも。だって可愛かったんだもん!!!今の悟にはない可愛げだったんだもん…!!!……完全にアウトだな。有罪。恐る恐る夏油と悟を見ればめちゃくちゃキレてる悟を宥めながらも私の存在に戸惑ってる夏油。……私のこと好きな悟にキスしたこと忘れてって確かにひどい言葉だったかも。…最低だな私。


「おまっふざけんな!俺の気持ち弄ぶようなことしやがって」
「……ごめんね。十代の君にしちゃダメなことだった。」
「大人ぶりやがって!なまえはなまえだろーが!未来の俺とそういう関係なんじゃねえの?!お前誰とでもそういうことする女になってるってことかよ?」
「違う!……『君』は私とそういう関係じゃないでしょ?ごめん。夢だと思ったの。本当に」
「〜〜〜っ!俺はなまえのこと好きなんだよ!」


悟が一年の頃から私のこと好きでいてくれたこと、今の私は知っている。でもこの時の私は馬鹿で鈍感で阿呆だったから気づいてなかったんだよ。私が何かやらかしたことで未来が変わりやしないだろうかというのが少し怖い。夏油がずっと私たちの隣にいてくれるように何かできないだろうかと考えている自分も怖い。未来をねじ曲げて、それで迎える未来が今と全く違っていたら?悟が私のことを好きでなくなる未来があるのかと思うとすごく怖い。


「……私のこと好きだってことは、私じゃなくて『ここの私』に言ってあげて。馬鹿で鈍感で阿呆な『私』だけど見捨てないで」
「、くそ、お前ほんとずりぃ…」
「ごめんね、でも悟だったからしたんだよ」



いつのまにか騒ぎを聞きつけてやってきたのか難しい顔をしてこちらを見ている夜蛾先生の後ろに硝子が控えているのがわかって、懐かしい顔が揃い踏みだなと笑った。


「あは、五条手玉に取るなんていい女になったじゃん、なまえ」
「……あはは、硝子にそう言われると照れちゃうなあ」
「身体見てやろうか?」
「……反転術式でなんとかなるかな?呪霊は消えてたから、勝手に元に戻るかなと思うんだけど」


私に手を当てようとする硝子に苦笑を漏らしていればそうか、と眉間に皺を寄せた硝子。
方や私の呪力の流れを見ているのか悟が何か言いたげにしながらも、じい、とわたしを六眼で見つめていた。


「なまえの言う通り多分勝手に戻る」
「…そっか、お騒がせしちゃったね。こっちの私は十年後にいるのかな?」
「なまえも今夜は任務だって言ってたよね」
「巻き込んじゃったかなあ…」


過去、未来に飛んだ記憶なんてないけれど、今の私はいったいどこへいってしまったのか。難しいことはわからないけれど、眩しいかけがえのない青春時代の一幕を垣間見て楽しかったことと辛かったことを一気に思い出す。この時代の彼らにもあの未来が待ってるのだと思うと、なんとも言えない気持ちになる。少しでも楽しい毎日を過ごしてほしい。そんなことを考えていればさっきからずっと感じていた睡魔がいよいよ我慢できないほど襲いかかってくる。

「だめだ…眠い、ごめん悟、ベッド借りていい?」
「なまえ!」

心配そうに私に駆け寄る悟の姿にふっと笑みが漏れた。許してくれるのかな?やっぱり悟は私に甘いね。
悟が手を握ってくれたみたいだったけど目を開けてられなくてそのまま瞼を閉じた。








なまえの任務に同伴していた補助監督から着信が入っていたことに気づいたのは、着信があってから三十分ほどが経過した頃だった。なまえに何かあったのかと慌てて着信を取れば呪霊の討伐の終わったなまえの様子がおかしく、自分が高専二年だと言い張っているため硝子に診せるべく高専へ戻っている途中とのことだった。記憶喪失にでもなっているのかと慌ててこちらも高専へ戻るべく伊地知を脅して車を走らせた。高専に到着して一直線に硝子の医務室を目指す。ノックすることなく思い切り扉を開けた先にいたなまえに刻みつけられた術式に顔を顰めつつ、ちゃんと帰ってきていることに安堵して思わず抱き寄せたー、が、返ってきたのはいつものふわりと笑う可愛い笑顔ではなくて鋭い視線と共に繰り出される容赦ない蹴りだった。


「何、こいつ。包帯みたいな目隠しして急に触ろうとしてくるし…変態?」
「え…」

生意気そうな、勝ち気そうな、だけど僕が大好きな蒼い瞳はその瞳に嫌悪感を滾らせて僕を見つめていた。目の前の女の醸し出す雰囲気、着ている服、全てが見覚えのあるものだった。どっからどう見ても高専時代のなまえだ。


「か…」
「か??」
「かんわんい〜〜〜!!!!何これ何これご褒美?!コスプレ?!今日は制服コスしてくれんの?!何?!めっちゃなりきってんじゃん!えー!僕制服捨てちゃったよー!なまえどこにその制服残してたの??あ!じゃあじゃあ僕先生役するね!やば!何で今まで思いつかなかったんだろ!なまえに悟先生って言わせたい!嫌がる生意気生徒ななまえ屈服させたい
「………は????何こいつ殺していい?」
「……許可する」


まるで初対面の時のような殺気の籠る視線を送られてゾクゾクする。再現度高すぎるよなまえ!お前女優の才能もあったの?!いつもツンツンしながらもデロデロになる甘えたななまえはもちろん可愛いけれど歳のせいか最近は落ち着いていたし、穏やかになったおかげで殺気ビンビンの姿は滅多にお目にかからない。
高専時代の尖った感じの雰囲気、久しぶりに見ると最高に可愛い。
本気で殴りかかってきている打撃に初対面再現プレイかな?なんてこちらも無下限を切って受けてやれば思ったより打撃が軽かった。力加減まで高専時代模倣するなんてめちゃくちゃ演技派じゃん。…っていうかお前何ちゃっかり術式食らってんの?なんかこれ見たことある気がするけど何だっけ…??なまえの周りだけ時間の流れが異なっているような感覚。……あれ?あー、あー!はいはいはい!思い出した!そういや高専二年になりたてのころ十年後のなまえが一度寝ているところに襲撃してきたことを今更思い出した。いやーあんときのなまえエロかったなー。ってあれ僕が育てたなまえかよ!もしかして今なまえ十年前の僕たぶらかしてる?!あー、いくら自分とはいえなんか腹立つ。帰ってきたらお仕置きだな。
ていうかなんで今まで忘れてたんだろう?忘れてたの勿体ねー!じゃあこれマジモンの十年前のなまえ?!エーーー!何して遊ぼう?!?!


「ねえ、ほんとにこいつ誰?」
「……五条だ………」
「…………は?????」
「ハーイGLG五条悟だよー
「…………は………?」


ぽかーんと口を開けたなまえが可愛くてちゅ、とキスすれば凄まじいスピードで飛んできた平手打ちをまともに食らってしまった。すぐ反転術式で治るから大丈夫だけど容赦なくてウケる。バチくそ痛いんだけど。なんて思っていれば、目隠しにしていた白帯を先程の平手打ちのついでに爪先で切ってしまったのかハラハラと落ちていったことに少し驚く。


「すご。お前そんなこともできたんだ」
「………は……?…え?…それって六眼?…マジで五条なわけ?私寝ぼけてる?さっきからなんか眠くてさ…、」
「寝ぼけてないよ!正真正銘僕が君の五条悟さ!」
「まって、待って!なんで…?十年後の五条キモすぎない…??何があったらこんなことになるの?」
「傷つくなーなまえは僕のこと毎日スキスキーって言ってくれてるよ」
「オイ。妄言だろそれは流石に」
「良かった、硝子は硝子だ…クマすごいけど大丈夫?寝れてないの?」
「…大人は忙しいんだ」


そうなんだ、と僕と硝子を交互に見やるなまえはまだ僕が五条悟だということを受け入れられないのか不審な目を向けてくる。
眠いのか必死に目を開けて起きてようとするなまえの姿に時間が有限であることを思い出してさっさとなまえを連れて帰ってしまおうとなまえの手を取ればぱしんとはたかれた。痛い。


「……オイ、なまえに何をするつもりだ」
「何もしないよ?あ、でもなまえが十年前に僕にしでかしてくれたことぐらいはしてもいいんじゃないかなと思ってる」
「十年前…?」
「あれ?硝子は思い出してないの?」


怪訝にしている硝子は本当に何も思い出していなさそうだ。なぜ今の今まで忘れていたのかもわからないし、謎の多い術式だな。


「ねえ、夏油は?夏油が五条のこと五条だって言うならあんたが五条なこと素直に認める」

なまえの悪気ないその言葉に僕と硝子が一瞬固まったのをなまえは見逃さなかった。


「…なに、その反応」
「…大人になるってさ、いろんなことがあるんだよ」
「どう、いう意味…、」
「君にもいろんな経験が待ってるってことさ」


眉間に皺を寄せたなまえがタイムリミットが近いのか立ちながらぼう、っとし始めるのを見かねて医務室のベッドに横たわらせた。家に帰ってる暇はないらしい。


「なまえ」
「…ん、?」
「早く僕のこと、好きになってね」


瞼を閉じてしまったなまえの額に唇を落とせばなまえを取り巻いていた呪力が収束していくのが視えた。気づけば大人のなまえの姿に戻っていて硝子が横で息を飲んだのがわかった。


「おかえり、なまえ」


無事に僕のものになったなまえが帰ってきたことに安心して、眠るなまえの手を握って今度は唇にキスを落とせば目を覚ましたのかいつもみたいにふわりと笑うなまえの穏やかな瞳と目があった。


「ただいま」


学生時代の頃の生意気そうななまえはもちろん可愛かったし初恋の相手なので久しぶりに会えてきゅんきゅん胸が跳ねたことは否めないが、やはり僕のこと大好き好き好き〜って態度から伝えてくれるなまえには敵わない。十年前の僕、早くなまえに告白してもらえるといいね。十年経っても変わらずなまえのこと大好きだよこの僕が純愛なんて笑えるね。お前にはこれからいろんなことが待ち受けてるけど、僕なら大丈夫だね。…大人になるのも悪くはないよ。




ゆっけ様今回はリク企画へご参加くださりありがとうございました。
十年後の夜兎主と入れ替わるお話ということで高専時代と十年後の両方のやりとりのリクエストをありがとうございました!
十年前の五条を振り回す夜兎も十年後の五条についていけない夜兎も書いててとても楽しかったです〜!リクエストありがとうございました!



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