恋愛相談はパパにはできない

「ねえねえ!四人で任務っていつぶりかなあ?!歌姫先輩迎えにいった時ぶり?!やばくない?!」
「終わったらなんかメシ食いいこー」
「怪我人何人いるかわからないからアンタらが呪霊祓い終わるより私の方が時間かかるだろうし先帰ってていいよ」
「何言ってんの?!硝子一人にしたらいつ殺されちゃうかわかんないじゃんチョー弱いんだから!そんなことするわけないでしょ?!私が硝子の護衛するね!」
「チョー弱いのは余計なんだけど」


珍しく四人同時にアサインされた任務の概要説明書を補助監督の運転する車の助手席で読みながら後部座席で浮き足立っている同級生に苦笑を漏らした。
大量発生している呪霊の討伐に向かった先行隊が多すぎる呪霊にヘルプ要請を申請し、巻き添えを食った民間人、術師の治療に硝子、硝子の護衛含め私たちが全員でアサインされたらしい。根っからの戦闘狂気質のなまえは少し前なら呪霊だ〜!なんて言って嬉しそうに飛び込んでいったはずのに、珍しく硝子と一緒の任務が嬉しいのか硝子の横で護衛役に立候補している。硝子は硝子で満更でもなさそうな様子にクスリと笑みを漏らす。
ヘルプが来るくらいの任務だ、何体か取り込んでおきたい呪霊もあるだろうか。


「こらこら、三人とも、あまりはしゃぐもんじゃないよ。運転の邪魔だろう?」
「大丈夫ですよ、同級生仲良くていいですね」


そう言いながら穏やかに笑う補助監督にすみませんと表面上だけでも謝っておく。任務の後に何を食べるかで盛り上がり出した悟となまえと、なまえと一緒に外食したくないと言い張る硝子に確かにこうして馬鹿みたいに騒ぐのはいつぶりだろうかと考えた。


「怪我人は?」
「こちらです!」
「?誰かやりあってんな」
「とりあえず帳の中に入ろう」
「一度解除します」

帳が上がると、戦闘をしていると思われていたぶつかる呪力の動きに違和感を覚える。呪霊たちが一人相撲しているようなそれに思わずなまえが飛び出していったのかと思ったが、硝子の隣でなまえが呆然と傘をさしたまま立ち竦んでいた。悟も同様に違和感を覚えているようで顔を顰めている。


「…阿伏兎?」
「なまえ?」


突然何かを呟いたなまえが地面を蹴って猛スピードで渦中へ向かって飛び跳ねていく。慌てて手持ちの浮遊する呪霊に乗ってなまえを追いかけた。
その先で広がる光景に思わず息を呑んだ。







なまえが殺られた団体の生き残りがなまえが死んで大体一年程度経ってから見つかった。他の団員に知られれば大した戦力も残って無ェ相手に弔い合戦だなんだと第七師団総出で叩き潰しに行くといいかねんので、知らせると面倒そうな団長が妹のケツ追っかけて修行しにいっちまっている間に経費削減かねて俺だけで潰しに行くことにした。
どうやらなまえが掃討しに行ったのは本拠地ではなかったらしく、今日訪れたここが本拠地だったようだ。怪しげな装置やら武器やらをたらふく溜め込んでいる施設に生き残りは潜伏していた。奴らを狩るのは思ったより呆気なく一瞬で終わってしまい、こんな奴らになまえが殺られたのか?と些か解せねェ気持ちにやるせなさが募る。ふと奴らが必死に守ろうとしていた装置が目に入った。淡く発光しており、装置の周辺には見たこともない文字ともとれる幾何学模様や蚯蚓の這ったような印が描かれていて何と書いてあるのか解読不能。一応壊しておくかと拳を叩き込めば、淡く発光していたその装置が激しい閃光を伴って思わず目を瞑ったー。


一瞬の閃光の後、嫌な気配にすぐに目を開ければ発展した街のような見覚えのない場所に立ち竦んでいた。なんだ?あの装置ワープ装置かなんかか?壊したのは勿体なかったかもしれねェな、なんて考えながら周囲を警戒する。上空の空は青くて日が差しているはずなのに、いつもの突き刺さるような刺激を感じない。何か幕のようなものが隔てられている。なんだここは?そして先ほどから感じる妙な気配。うっすら気配を感じ取れる天人とも思えない化け物共と、それと対峙する地球人のような見た目をした奴ら。なんだ?俺ァ地球にワープしちまったのか?
俺の存在に呆然としている地球人が「まだ非術師が…!危ないので下がってください!!」と叫びながら化け物にやられそうになっていたので一応助けることにする。

「なんだァありゃあ」
「貴方非術師じゃないんですか…?!」

ひじゅつしってなんだ。地球にあんな訳のわかんねェ生き物住み着いてたか?アルタナ関連の突然変異かなんかか?今にもこちらに襲い掛からんとする化け物と対峙してハァ、と深く息をつく。どうせやらにゃあいかんのならさっさとやっちまうか、と地を蹴った。

結論を言う。このバケモン、ノーダメージだ。蹴っても殴っても投げ飛ばしても意味が無ェ。チ、と舌打ちをついて先ほどの地球人の元へ戻れば独特のオーラのある武器で戦っていた。攻撃が効いているー成程。この地球人がその武器を振り回すより俺がやったほうが早ェな。

「お前さん、その得物よこせ」
「?!いけません!非術師に扱える代物ではない!」
「…あー、面倒くせェ」

押し問答が面倒で地球人に手刀を落としてその辺に転がしておく。片手剣を手に馴染ませ舌なめずりをしながら化け物に突っ込んだ。
薙ぎ払っても薙ぎ払ってもウヨウヨ湧いている化け物を粗方掃討し、ふう、と一息ついたところで上空の幕が上がったことに気づき、近くにいた残りの化け物も一つ残らず消した。面倒なことに巻き込まれちまった、ようやくこれで帰れるかと肩を鳴らす。はー、地球からどうやって帰るかねェ…ターミナルで適当な船掻っ払うしかねーかな、と帰る算段をつけている時だった、


「あーーーぶーーーーとーーーーー!!!!」


聞き覚えのある声に思わず振り返った瞬間に鳩尾に見覚えのある薄桃色が飛び込んできた。


「は…!!?!!」
「阿伏兎だ阿伏兎だ阿伏兎だあ!!!」


うわあーーん会いたかったよお〜!!と大泣きするなまえに一瞬ここがあの世かと思ったが、鳩尾の痛みと腰にまわる腕の温かみをしっかり感じられて思わず目頭が熱くなった。生きてたのか…!心配かけやがって…!!


「お前さん、生きてたのか…」
「ぐす、うん、呪霊に喰われて、こっちきて、帰れなくなって、ここで生きてた…」

ぎゅうううと腰にまわされた腕は少し力が強くなったらしいことがすぐにわかった。ギリギリギリギリと内臓が悲鳴を上げかけていたが、なまえが生きていたという感動でそんなことはどうでもよかった。思ったよりこのガキを喪ったことにショックを受けていたらしい。大粒の涙と鼻水を垂らすきったねぇなまえの姿にコイツも随分俺に懐いちまったもんだな、そんなに会いたかったなら適当に船奪って帰ってこればよかっただろ、と思いながらなまえの背中に腕を回した。
おい、抱きつくのはいいが服に鼻水擦り付けんな。鼻かむな。
「阿伏兎の匂いだあ」なんて言いながらふにゃりと能天気に笑ったなまえの様子が相変わらずでこちらまでつられて笑ってしまう。


「なまえ」


暫く泣くなまえをあやしていれば、轟々と燃えたぎる炎のようなオーラを放つ白髪の男と、驚いた表情でこちらを見る黒髪の男が側にやってきた。どちらもこちらを警戒しているのか末恐ろしい気配を纏っている。この二人、ただモンじゃねえな…。本当に地球人か?思わず冷や汗が背中を伝う。なまえが二人を見て小さく「五条、夏油、」と呟くのが聞こえたー、なんだ、知り合いか。未だ俺の腕の中から出ようとしないなまえにまさか団長に拾われる前のようにまた傭兵業でもやってたんじゃねえだろうな、と目の前の男二人に鋭い視線を送りつつなまえを男たちから隠した。

「知り合いか?なまえ」
「、うん、こっちきてたすけてくれたの、」
「そうか、……こいつが世話になったみてェだな」
「…あ?オッサンなまえのなんなわけ?勝手に汚い手で触んな」

………ん???
今なんて?汚い手で触んな???
思ってたアレじゃねェんだけど。春雨来る前みたいに働き蟻よろしくいいように使われたんじゃねェかと心配したんですけど。
その口ぶりまるでなまえのこと好きな男のセリフじゃねェか。

「阿伏兎の手別に汚くないし。加齢臭はするけど」
「加齢臭なんてオッサンじゃん。お前俺の前で何違う男に抱きついてんの?」
「私が誰に抱き着こうが勝手でしょ?」
「は?お前この前俺のこと好きつってただろッ!俺には他の女とセックスすんなって言っといてそれはねェんじゃね?!」
「みんなの前でセックスとか言わないでよ五条のバカッ!!!!」

エ?俺加齢臭すんの?オイオイオイなまえふざけんじゃねえよ。冗談言うなよ。…冗談だよな?
顔を真っ赤に染めたなまえがまた俺の外套に顔を埋めるもんでゴジョウと呼ばれた白髪の男は怒髪天とばかりに怒りのオーラを撒き散らしている。俺に向かって。なんだこの状況。好きだのセックスだの発情期ですかァ?コノヤロー。あれ、これ俺のセリフじゃねェな。


「なまえ、お前さんあいつのことー」
「っ!ちがっ!ちがうの!変なことは何もしてないよ!」

ワタワタと慌てながら弁明するなまえの表情は見たことがないほど赤く、羞恥に染まっていて、あの白髪男が言う通りアレに気があることは明白だった。ガキだとしか思っていなかったなまえの女を感じる表情にこちらも表情には出さねえがかなり戸惑っている。ーあの無表情だったなまえがねェ。

「ちょっと、結局アンタら全員で突入してどうすんの?一応護衛一人くらい置いといてよ…こっちに怪我人いる?ーってなまえ、どうしたの?」

眉を釣り上げた垂れ目の女が更にやってきた。どうやらこれもなまえの知り合いらしい。目を白黒とさせて俺となまえを交互に見やっている。


「私の、ママ……」
「ブーーーーーーッッ!だぁれがママだァこのすっとこどっこい!!!!」
「今日は阿伏兎にシャンプーしてもらう…」
「シャ、シャンプー…?!お、おま、このおっさんと一緒に風呂入るつもりかよ…ッ!」
「五条は黙ってて!今日は絶対阿伏兎と一緒に寝る!」
「ククッ…面白いことになってるじゃん」
「…硝子、すぐに揶揄うんじゃない」


オイ、オッサン言うな。そしてなまえ、お前もうガキじゃねェんだ、一人で寝ろ。…シャンプーなんて俺がやるまでもなくサラサラじゃねえか。
俺の背中に隠れつつ白髪の男に向かってギャンギャン喚いているなまえの表情はガキみたいに能天気に笑ってた時の表情でも、出会った時の無感情な表情でもなかった。今まで飯と戦うこと以外何の興味も無ェみたいな顔してたガキがすっかり一人前の女の顔してやがる。ケェッ!知らねェところですっかり大人になりましたってかァ?妬けちまうねェ、この男でいいのか?この男で大丈夫なのか?なんて思っちまってる俺、マジですっかり親じゃねェか。どんだけ絆されてんだ。ちっせえガキの頃から見てきたこいつがたかだか一年ちょっと離れていただけで見たことない表情を浮かべるようになったことに成長を感じると同時に少しだけ寂しさのようなものまで感じてしまって自嘲する。
…こいつは春雨に戻る気はあるんだろうか。


「なまえ、春雨はどうするんだ?」
「そっ、か。私、戻れるのかな?」
「?ターミナルで船掻っ払ったら戻れるだろ」
「…!あ、阿伏兎…ここ、その、地球は地球なんだけど『江戸』じゃないの」
「は?」

言いにくそうに口を開こうとするなまえに黒髪の男がちょっと待ってと横槍を入れてきた。


「なまえ、任務が先だ。呪霊は、いないようだけれど…貴方が?」
「…ジュレイが何か知れねェけどそこで転がってる男から拝借したこれでその辺にいるバケモンは掃討しといてやったよ」
「ー、さすがなまえのママですね」
「オイオイオイ。ママじゃねェつってんだろ」

薄く笑った黒髪の男は、なまえ、ひとまず怪我人がいないか探そう。となまえに小さく声をかける。

「阿伏兎、勝手に帰らないで」
「ハァ、大丈夫だ。仕事か?さっさと行ってこい」

知らない間にエイリアンバスターにでも転職したのかあいつは?不安そうにうん、と呟いてなまえは男二人と共に飛び出していった。








帰ってきたなまえたちに連れられるがままやってきたのはなまえが今身を寄せている団体の施設らしい。そこでなまえから告げられた言葉に脳が理解を拒否した。なるほど、違う星にワープしたんじゃなくて、違う世界にワープさせられたってことか、へえ…ってなるかァァァァア!おまっ、おま!なんてことに巻き込まれてやがんだァ!

「それで、元に戻れなかったの」
「………ハァ…エライ目に遭ってたんだな」
「なまえ、で、このオッサン誰」
「オッサンって言わないで!…春雨で私の面倒見てくれてた人で、阿伏兎。
阿伏兎、こっちが硝子と、五条と、夏油。私の、友達。」
「友達、ねェ」

なまえの口から「友達」なんて言葉が飛び出してくる日が来るとはなァ。


「なまえ、アブトさんと会えてよかったね」
「ホント。アンタあんまり寂しいとか言わないしアブトさんに泣きついてたとこみてちょっと安心した」
「夏油、硝子…」
「悟、ヤキモチ妬いてないでちゃんと説明しといたら?なまえのママらしいし」
「るっせーよ傑!」


ゲトウと呼ばれた黒髪の男に発破をかけられた白髪男は盛大に眉間に皺を寄せながらチラチラとこちらに視線を向ける。先程のような敵意はなくなったが、なまえが俺にくっついていることは不満らしい。独占欲の強い男だなと思わなくは無い。


「お前さん、なまえのこと好きなのか」
「!」
「あっあぶ、あぶと、何なになにいって…!」

顔を真っ赤にさせたなまえの頭を撫でる。照れながらも嬉しそうに目を細める仕草も髪の感触も、何も変わっていない。あぁ、いつぶりだろうか。死体もなく消えて、いなくなった実感すら持てなかったなまえの頭をもう一度撫でられる日が来るとは思わなかった。同胞が死ぬことなんて第七師団では日常茶飯事だ。なまえがいなくなった時もそう思って割り切ろうとしていた。俺だっていつおっ死ぬかわかったもんじゃねぇし、それは神威にだって言えることだ。だが、なまえが生きてるって知って、心底安心している。宇宙海賊春雨が聞いて呆れるなァー。なまえに向けていた視線を俺よりデカい男に戻せば、やけに真剣な顔をしていて俺も緩んだ顔を引き締めた。


「好き。だからオッサンの元にこいつ返せない。なまえのことは諦めてくれ」
「カァーッ!聞いてるこっちが恥ずかしいわ。……若いっていいねェ」
「それに…、なまえ。このオッサンにかかってる術式、何かを媒介に呪力が供給されてここにいるみたいだけど、もう供給が切れててどんどん呪力がなくなってる。そんなに長い間ここにはいられないぞ」
「そんな…!もう帰っちゃうってこと?」

ヤダ!とひしっとへばりつくなまえの様子に苦笑を漏らす。まるで帰るなとばかりに握られている服は引きちぎられそうな勢いでなまえの手にぐしゃぐしゃに握り込まれている。

「なまえ、お前はどうしてェんだ?お前が帰りたいって言うなら、あっちに戻ってからお前を連れ戻しに必ず戻ってくる」
「…あぶ、と…」
「お前が選べ。俺はお前の意見を尊重してやる」

俺を見る涙目の蒼い瞳は今にも涙を落としそうな程に潤んでいるが、悩んでいる素振りはない。答えは決まっているのだろう、その答えは聞かなくてもわかるが、決別の言葉をちゃんと聞いておきたくてなまえを促す。

「私、初めて友達ができたの。みんなと一緒にいたい、こっちで生きていきたい…ごめんね、阿伏兎、いっぱい面倒かけたのに、ごめん、」
「……ハッ!そんなこと気にすんじゃねェ」
「……阿伏兎、耳貸して」

爪先で立って俺にしがみつくなまえの口元に耳を寄せれば少し恥ずかしそうに小声で呟いた言葉にぶは!と思わず笑いが漏れる。

「仕方ねぇから団長には黙っといてやる」
「ん、さすがママだね」
「黙ってたことバレて俺が殺されたらお前のせいだぞ?なまえ」
「神威も私なんかのこと、心配してた?」
「いんや?死んだら会えるだろつってた」
「あは、違いないね」


ぎゅ、と服を握りしめていた手の力がだんだん抜けて、離れていくのと同時に、意識がどこかに引っ張られる感覚を覚えてああ、元の世界に戻るんだなというのがわかった。なまえをもう一度見てみれば今度は泣いていないことに安堵する。

「ー幸せになれよ」

『死ぬまで隣にいたいくらい好きな人ができたの。でも神威には恥ずかしいから言わないで』なんて言って笑うなまえのことを、初めて綺麗だと思った。女の成長っつーのは早ェもんだな。結婚前夜の娘を持つ親の気持ちが今日初めてわかった気がする。子供なんて作ったことねーのに。
もう一度頭を撫でようと薄桃色に触れようと思ったが、もう手の感覚がこちらに残っていなかった。わかった上で、頭の上に手を乗せれば何度も頭を撫でてやった感覚を手が覚えているのか細くて柔らかい毛の感触も頭から放熱される皮膚の温度も、なまえの丸い頭の形も全て感じた。なまえだって乗せられた感覚はないだろうに嬉そうに笑っていて、ありがとう、と呟いた顔に後悔は見えなくて戻ったらあの機械は木っ端微塵に破壊しておくかと目を閉じた。








いきなり現れて消えていってしまったなまえの保護者だったらしいアブトと呼ばれた男がいた場所でなまえはただただ佇んでいた。相当仲が良かったことは数時間二人が隣り合っていたところを見ても明らかだったし、この空間にいる誰よりもなまえはあの男の隣にいて安心したように笑っていた。あんな表情初めて見たなと驚いたくらいだ。
いつも明るいあの能天気さがどこへいってしまったのかといいたくなる感情のわからない無表情で立っているなまえにかけてあげられる言葉が見つからなくて、硝子と顔を見合わせた。硝子も同じようなことを考えていたらしい。いつもクールな硝子には珍しく眉を下げてタバコを蒸している。いつもペラペラとなまえに話しかけている悟も珍しく何も言わずに隣でじっとなまえに寄り添っていた。先程までヤキモチやいたりこっちが恥ずかしくなるような告白を保護者にかましていた男と同一人物とは思えない。


「なまえ」

ついに口を動かしたのはやはり悟だった。慰めるような優しい声色で、私から見える悟の横顔は見たことがないほど穏やかなものだった。悟の声になまえは緩慢に反応しただけで、無表情は特に変わらない。
来いよ、となまえに向かって長すぎる腕を広げて待つ悟におずおずとなまえは動き始めた。きゅ、と悟の背中に躊躇いがちに腕を回したなまえとは対照的にぎゅうと強くなまえを抱きしめた悟は己の体の中にすっぽりとなまえを隠してしまう。


「寂しいか?」
「……んーん、寂しくないよ。色々思い出してただけ」
「ふーん。お前にも家族っていたんだな」


家族、なまえがホームシックになって熱を出したあの日を思い出した。私のことを家族のように思っていると言ってくれた言葉を。家族なんていたことなかったと寂しそうに言った過去のなまえに、なんだちゃんといるじゃないかと言ってやりたい。


「家族……うん、そうだね」

嬉しそうにアブトさんを家族と認めたなまえはきっと笑顔なんだろうなと思ったけれど、悟の大きな体に隠されて見えないことが残念に思える。


「さっきあのオッサンになんて言ってたんだ?」
「よかった、聞こえてなかったんだ。ふふ、」


笑うなまえの声色がいつものなまえに戻っていたので安心する。硝子も口の中に滞留させていた煙を大きく吐き出していた。なんとかしてなまえからさっきの内緒話を聞き出そうとする悟と絶対言わないよと笑うなまえはいつものように楽しそうに笑い合っている。
なまえはどうしても言うつもりがないのか悟は追求を諦めて拗ねた様子で顎でぐりぐりと脳天を貫き始めていた。

「お前シャンプーしてもらってたの?風呂一緒に入ってたってこと?夜も一緒に寝てたの?あのオッサンと?なあマジなの?無理無理無理俺だって一緒に風呂入りたい」
「あーもーうるさーい夏油五条回収してよ」
「悟は寂しんぼムーブの最中なんだ。最後まで付き合ってあげてよなまえ」
「喧嘩売ってんのか傑」


あはは!大口開けて笑うなまえの楽しそうな声につられてなぜか私も悟も硝子もいつの間にか声を出して笑っていた。久しぶりの四人での任務は予想外のことばかり起きた不思議な任務になったが、最近感じる無性な行き場のないやるせなさが少しだけ解消された気がした。







夏様、今回はリク企画にご参加くださりありがとうございました。
闇い夜に煌めくはへの感想も添えてくださりありがとうございます!大好きと言っていただけて恐縮です…!
授業中とのことだったんですが高専内の結界あるところに果たしてトリップできるのか??というところで任務中にさせていただきました!ご返信いただきありがとうございました…!
ママなので存分に夜兎主甘えさせてやりました!五条のヤキモチもうまく表現できてたでしょうか…!楽しんでいただければ幸いです。素敵なリクエストありがとうございました!


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