碌でもない大人の暇潰し

ドゴォ……


「あー、まぁたやってるの?あいつら」
敷地内のどこかから聞こえる地形が変わるような轟音、五条と夏油の喧嘩によって時たま聞こえていたそれはなまえがこの世界にやってきてから何度高専内の一部が破壊されてきたか列挙していけば論文くらいになるのでは、というほどお馴染みの光景となりつつあった。しかし、そのなまえはといえば最近はどちらかといえば傍観者というか、当事者になる回数は格段にへり、仲裁役を買って出ている節があった。なぜならあいつら・・・・を止められるのは現時点でなまえと夏油のみ、夏油が任務でいなければなまえのみだからである。さらにいえば、この騒動の原因が他ならないなまえのせいといっても差し支えないから。音の出所に思いを馳せて、窓に視線を移せばどこからともなく現れたのはなまえを横抱きにした五条で、何故か五条がなまえの傘をさしているしなまえの片脚は素足が晒されている。何があったのか定かではないが、ま、自分には関係ないからどうでもいいかと家入はテキストを捲る手を再開させた。










「伏黒せんせ〜」
「あん?先生はヤメロつってんだろ」
「じゃあ何て呼べばいいの?」
「甚爾でいいだろうが」
「甚爾せんせ」
「チッ」


なぜ舌打ちをされねばならない。解せぬ。と言いたげな表情で番傘の下で口を尖らせたなまえの唇を見て、甚爾はニヤリと笑った。カサついた指で寄せられてぷっくり膨らんだ唇をフニフニとなぞる。思いもしないスキンシップに驚いたなまえではあったが特にそれ以上の実害はなさそうなのでされるがまま遊ばせていると不意にがしりと顎を掴まれて思わず硬直した。


「なにすんの」
「見てわかんだろ?キスだよ」
「セクハラにも程があるよ先生」


同じ傘の下に潜り込んで今にも唇と唇が触れそうな距離でぱっちりと輝く蒼を見下す男の表情は愉悦に染まっていて、本当に碌でもない男を引き込んでしまったなとなまえはげんなりした。ついでに空いてる手で尻を触るな尻を。


「お前ほんとに17か?」
「どういう意味」
「いやに発育がいいなと」
「…淫交教師じゃん」
「臨時講師であって教師じゃねーし」
「屁理屈にも程がある」


ぺし、と尻をわさわさと触ってくる甚爾の右手を振り払い顎を掴んでいた左手を捻り上げて距離を取ったなまえに眉根を寄せる。そこそこの力で掴んでいたつもりだったが。そして跳ね除けた手の力の強いこと。そこらの女ではあり得ない。見るからにほっそい腕のどこにそんな力があるというのか。


「それより、早く行こ。五条と夏油もまってるよ」
「あ?なんかあったか?今日」
「…ねえそれガチで言ってんの?体術訓練だよ!」
「あー、なんかオッサンが言ってたっけか」
「そんな適当こいてたら給料もらえないよ万年ヒモ男!」


尚も動こうとしない甚爾の手を引いてなまえは訓練場まで無理矢理歩かせることにした。



「だーかーらー、お前は何回言ったらわかんの?こいつはケダモノだから不用意に近づくなつってんだろ?!」



訓練場につくなり甚爾の手を引くなまえを目撃した五条が繋がる手をチョップで引き裂いた。
キッと鋭い目で甚爾を睨みつける五条を苦笑いしながらまあまあ、と諫める夏油。最早お馴染みの光景となりつつある。


「ホラめんどくせーからさっさと始めんぞ」



甚爾の呼びかけによーし、となまえが腕まくりする前に五条と夏油が飛び出していく。「え、」なまえは目の前で繰り広げられ始めた術式抜きの完全体術オンリーの猛攻に思わず口を尖らせる。「私抜きで始めないでよッ!」と割り込もうとするも決着はすぐについた。



「よわっ」



へっ、と乾いた笑いを漏らす甚爾が見下ろすのは地に伏す自称最強二人組。「金欠ゴリラのくせに…」「猿め……」起き上がることなく呪詛を吐く五条と夏油をいい気味だと見下す甚爾になまえは襲いかかった。



「なまえに変なことすんじゃねーぞオッサン」
「偉そうな口は俺を倒せるようになってから言ったらどうだ?」


なまえから繰り出された重い傘の一打を軽くいなしながら五条に悪態つく余裕がある甚爾になまえはムッとした表情で一度飛び退いた。



「ルールは?」
「なんでもあり!」
「いいね」



ニヤリと笑う目の前の男の色気に一瞬当てられたなまえは、うっ、と怪訝そうに一歩後ろへ下がる。なんでもありは間違えたかもしれない、と思わないでもなかったがこの男の強さに興味があった。以前は中途半端なところで止められるわ、普段の訓練は五条がすぐに甚爾と喧嘩をおっ始めるせいでまともにできないわでなまえはフラストレーションが溜まっていた。適当に柔軟をした後余裕そうな表情を浮かべる甚爾に「余裕こいてられるのも今のうちだよ」なまえは初手からトップスピードで襲いかかる。



「おまえ、マジで、なんつー体してんだ」
「ふふ、人間じゃ、ないからさッ!」


高速で振り回す大きな傘と蹴りをいなしながら甚爾は冷や汗をかいた。
幼少期より呪術師どころか人としてさえ認めてもらえなかった自分を『強者』として扱い、笑顔で話しかけてくるなまえ。自身と同じ呪力のない、さらに言えば女。この世界では生きにくかろうになぜそんな茨の道を歩むのか、ただの馬鹿かと思っていれば自分を宇宙人と宣う頭のネジの飛んだ馬鹿だった。
まだまだ若いこの女は、単純な力は恐ろしく強いが単調な攻撃をしがちである。フェイントなどはもちろん使えてはいるがもっと狡猾にならなければこの世界では生きていけない。隙も油断も全くないが、攻撃のリズムを少しずつズラす。必中のつもりで決めているはずのそれが空振りストレスを溜め焦りがで始めたところをついて寝技にもちかけば脚を掬われたなまえは仰向けで地に伏した。掴んでいた傘を吹っ飛ばし上からマウントを取ってやれば普段勝ち気そうにしている顔が悔しそうに歪ませていて唆られる。


「ちょっと退いてよ」
「未だ終わってねぇだろ?」
「は?」
「『なんでもあり』つったのはお前だからな」
「え、ちょ、なにす…ひゃあん?!」


チャイナ服モチーフのスカートのスリットから手を差し込みブーツとホットパンツの間の太ももに手を這わせば真っ白のそれは思ったより柔らかく手に吸い付くような感覚で思わず舌なめずりをする。
離せといわんばかりに暴れて殴りかかってくる腕をひとまとめに頭上で固めてやれば完全に身動きが取れなくなったのか顔を真っ赤にさせながらもがこうと必死になっているなまえに思わず笑いが漏れた。


「男にねじ伏せられるのは初めてか?」


耳元で囁いてやれば目をこれでもかと開眼させはくはくと呼吸するなまえの初心な反応に口角が上がってしまう。
ついでに膝上のブーツをずり下ろして引き抜けば太腿と同じ白い脚が晒される。つつつ、と太腿から脹脛まで手を這わせると真下で顔を真っ赤に染め上げながら「ちょ、ほんとにやめて…」としおらしく抵抗するなまえにこれ以上するつもりはなかったが据え膳か?と思い至る。顔を真っ赤に染め上げながらいやいや、と首を振るなまえに顔を近づけたーー、


瞬間背後から感じた恐ろしいほどの殺気にやれやれとなまえの上から仕方なしに退いた。と同時に体が何かに飲み込まれる感覚に呪霊操術か、と適当な呪具を引っ張り出して祓う。
嫌な体液を体に浴びながら消えゆく呪霊から出てこればなまえを抱き寄せながら目を血走らせこちらに今にも術式をぶっ放そうとしている五条の姿が見えてせせら笑ってしまう。必死かよ。呪術界の頂点とも言える男がこんな呪力のない猿の女に。



「お前だけは絶対に殺す」
「ちょ、五条いいって、油断した私が悪いんだし」
「は?お前あいつに何されたかわかってんの?」
「…そりゃあムカつくけど私が弱いのがいけないんだし…」
「強けりゃ何してもいいのかよ!」
「……、別にヤられたわけじゃないし。ていうか五条がそれ言う?マジブーメランだからね」
「ヤられそうだっただろうが!!!!」
「なまえ、流石に今回は悟の言う通りだよ。この男は少し痛い目合わせないとわからないようだ」
「二人とも体術で先生に勝てたことないじゃん」
「「あ゛????」」
「あーもう!!ごめんって!!わかった!!先生には1メートル以内に近づかない!どう?!」
「5メートル」
「…3メートル!!!」


ギリギリと歯を食いしばらせながらこちらを睨みつける五条はなまえの提案に納得したのか睨みつける視線はそのままに組んでいた掌印を下ろした。
体に巻きつく呪霊から天逆鉾を取り出そうと準備していた甚爾は拍子抜けして体を脱力させる。



「マジでなまえに何かしたら殺すからな」



瞳孔ガン開きで警告してくる五条に両手を上げながら挑発するような表情で肩をすくめさせれば怒りのあまりか明後日の方向に術式を展開させた五条。伝え聞く無下限術式の『蒼』でも『赫』でもない、今まで見たことのないその術式に思わず背中にヒヤリと冷たいものが走る。



「これ食らいたくなけりゃ大人しくしてろ」



そう言って生意気にもなまえを横抱きにして一瞬にしてどこかへ消えていった五条に呆れると同時にあんなに重い感情をぶつけられているなまえに心底同情した。



「あー、めんどくせ。やっぱ呪術界なんて帰ってくるんじゃなかった」



そう呟いた言葉はこちらを睨みつけていた夏油の眉間の皺をさらに深くさせるだけだった。
どいつもこいつもなぜたかが猿の女をそう大層に扱ってやがんだ。ワッケわかんねー。呆れにも似たため息をつけばそれはマイナスイオン溢れる山の空気に溶け込んで消えていった。






サラダ様、今回は企画へのご参加ありがとうございました!前サイトでのサーバーダウンからの新サイトへの移転など、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。無事こちらにたどり着いてくださっているのを祈るばかりです…
長編甚爾生存ifのリクエストを頂き、ありがとうございます。同じようなリクエストをくださった方がいらっしゃいましたので、続きのような形で順番前後してupさせていただきました。申し訳ありません。他の方のリクとも併せて楽しんでいただけると幸いです。少し五条要素が強くなってしまった感が否めませんが大丈夫でしたでしょうか…ハラハラ
前サイトでは拍手にてコメントもくださり、長編感想とお気遣いをいただいてとても嬉しかったです。感想くださるとやる気が出ます。本当に嬉しいです。夜兎主はサイト立ち上げる前から現在upしているところまでほとんど流れが書き上がっていたものを更新していたのであまり労力かけることなくupできていました。今後は本当に白紙なので更新が遅くなる可能性があります。ゆっくりお待ちいただけると幸いです。長くなりましたが今後とも驟雨をよろしくお願いいたします。




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