あいすみるくを一杯。


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終焉のキス

異変が起きたのは、つい先日のことである。
練習中、近付いてくると思ったらいきなり剣城は倒れた。
いつも顔は白いが、そんなのと比べ物にならないくらい白かった。
何も変わらないと知りながら、必至に叫んだ。
心の何処かで起きると信じて。

そうして病院に運ばれた剣城は、急性の難病にかかっていると診断された。
先生は病名を全部きちんと言ってくれたのだが、長くて思い出せない。
ただ覚えているのは、今の医療では決して治せないということ。

そして、
寿命が一日だということ。

「剣城…」
病室で一人運命を嘆く。
こうしてる間にも、死期が迫っているというのに。

昨日は一睡もできなかった。
滅多に泣かないけれど、声をあげて泣いた。
なのに、幾ら泣いても哭いても足りなくて。
涙は溢れ、吐き気すら感じ、しまいには過呼吸になりかけた。
おかげで今日はすごい顔だった。

剣城、剣城と何度呼んでも返事は返ってこない。
ただいつまでも、鼓動が脈を打っているだけである。
もうこれでは、死んでいるのと同じだ。
そう思った瞬間ー
「て、んま」
はっ、と我に返ると、そこには目を開けて微笑む剣城がいた。
相も変わらず白い肌。
そこに映える紺の髪。
人間、驚きが大きすぎると、何もできなくなってしまうことを痛感した。
しばらくしてやっと声が出せたが、実に間抜けな声だったため、くすりと笑われた。
「意識、戻って、本当によかった」
「あぁ…」
きっと今日が命日だと悟っているのだろう、薄く笑っただけであった。
「なんか、食べたい物とかある?」
「特に、無いかな」
そう言うと剣城はおもむろに起き上がろうとする。
しかし力無く倒れてしまう。
「今、ベッド起こすから」
「ごめん、ありがとな」
ぎし、と運動音が一人寂しく部屋に響く。
椅子に戻ると、いきなり抱き締めてきた。
「今まで、ほんとありがとう…」
「なんでそんな急にっ」
いつもなら笑い飛ばす。
しかし今日は、抱き締めあえるのも最後かもしれない。
そう思うとまた涙が出てきた。
「天馬には、色々迷惑かけてきた。部活でも、プライベートでも、俺には天馬が必要なんだ」
「俺もだよ…剣城がいたから、今までやって来れた」
お互い、正直な言葉に嬉しくて、自然と笑顔になる。
「いつも正直になれなくて、ごめん」
そう照れくさそうに言う剣城が、これまで以上に可愛くて悶え死んだ。
「こんな時にアレだけど、キスしてい?」
剣城は一瞬驚いたが、笑ってこう言った。
「俺でよければ」

この笑顔で何!?あざといにも程があるよね!!?なんでその言葉をチョイスした?可愛すぎるから!!破壊力パナいっす!!!!!
とか、言いたいことはたくさんあって。
でも俺の語彙力では、これが限界で。
伝えきれない感動と萌えが、全身を駆け巡って頭に着く頃にはパンクしていました。

そしてー
互い違いに重なった指から、熱情が零れ出し、徐々に近付く唇からは、甘く荒い吐息が溢れる。
痺れるような感覚と、アイスのように溶けてしまいそうな感覚とが、頭を支配し、麻痺させる。
そっと目を開くと、長い睫毛から覗く憂いを帯びた琥珀の瞳が、一層興奮させた。
このまま、時が止まってしまえばいいのに。
剣城はまたそっと瞳を閉じる。
そしてそのまま、息を引き取った。

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