ちっちゃいアイツ。
「帰ろー」「おうー」
部活が終わって、みんな帰っていく。
俺もそろそろ帰ろうかな、なんて思っていると、珍しくアイツから声をかけてきた。
「一緒に、帰りませんか?」
「別にいいけど。ちょっと待っててくれるなら」
「!…待ってます」
そのちっちゃい生物は、俺の隣にちょこんと座り、しばらく足をぶらぶらさせていた。
ずっと見ていたい気もするが、あまり待たせると可哀想なので帰ることにした。
いつもの帰路だと家まで10分で着いてしまうため、少しでも長く一緒に居たくて、遠回りする。
それにしても、寒いなぁ。
俺は冷え症だから、マフラーと手袋は常備している。
だけど倉間は何も持ってない。
大丈夫だろうか。
「あの、南沢さん…?」
あんまりガン見していたので、如何わしい目で倉間が見てきた。
「あ、いや、寒くないのかなって思ったから…」
「寒いッスよ。でも何もないから」
そう言って物欲しそうな顔をこちらに向けるから、
俺は仕方なくマフラーを半分貸してあげることにした。
「これじゃあ俺達、恋人同士みたいだな」
一瞬、全身から火が出るんじゃないかってくらい、倉間が赤くなったようだった。
「ばばばっかじゃないですかっ!?男同士ですよ?」
何故か、返す言葉に困った。
だけどとりあえず、普通に返そう。
「そーだよな、ごめん」
「……そうですよ」
あれ。何でだろう。
今までの雰囲気が、全部何処かに行ってしまった気がした。
それに…
なんか、モヤモヤする。
「ごめんなんて、言わないでください。謝んないでくださいよっ…!」
あーあ。やっちゃった。
倉間に言われて気付いた。
俺はずっと、このちっちゃくて、目付きの悪い愛嬌無しのコイツが好きだってこと。
そして、コイツも俺を−
「わかってました。どんなに願っても叶わないって。だって、俺達、男同士だから。…こんなの、辛いだけなのにね…」
倉間の切なくて苦しそうな表情が、胸にチクリと刺さる。
「今まで、ごめんな」
「だから謝んないでくださ…」
「俺はお前が好きなんだ」
「えっ…?」
喜びと困惑で顔がぐちゃぐちゃだった。
頭が上手く働かせられなくて。
だけど、俺は続ける。
「今までずっと好きだったんだよ。だけど俺、馬鹿だから分かんなくてさ」
「でもさっき、男同士だからって…」
「誰が駄目なんて言った?俺は、愛情に性別は関係ないと思うケド」
何言ってるんだろう。
改めて俺は垂らしだと思った。
それでもいい。
倉間を好きになったことに、変わりはないのだから。
「いいん…ですか?」
「いいも何も…泣くなよ倉間ぁ」
倉間は安心して泣いている。
俺は自然と笑みが溢れ、倉間を抱きしめていた。
「甘いニオイ…」
「これからは毎日近くで嗅げるぞ?あっ、お前だけじゃなくて俺も」
知らない内にニヤついていたようで、「…気持ち悪いですよ?」と言われてしまった。
だけど、顔は笑っていて。
ずっと抱きしめていたくなっちゃうじゃん。
こんなちっちゃくて、目付きが悪くて、愛嬌も無くて、無愛想なアイツだけど、
世界でたった一人、大事な人なんだ。
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