あいすみるくを一杯。


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食べたいくらいに君が好き

俺には、世界で1番大切な人がいる。
俺が先輩を好きな気持ちは、誰にも負けない。
好きな物や、嫌いな物、最近ハマッていることもわかる。
だからこそ、俺は知っていた。

今日のお弁当には、先輩が好きなタコさんウインナーを詰めてきた。
朝も先輩の喜ぶ顔が浮かび、ニヤけてしまいそうだった。
よし、と気合いを入れなおし、向かう2年生フロア。
「せんぱ〜ぁい、どこですかぁ?」
探しながら歩いて行くと、先輩は突然現れた。
「ここにいるよ」
呆れたように、でも笑顔で答える。
「またお弁当余っちゃったんです。今日こそ一緒に食べません?」
「いつもありがとう」
そう言ってお弁当を大事そうに抱える。
そこまでは良いのだが−

「おーい、しんどー」
大きな声で呼ぶその人は、はっきり言って邪魔者だった。
しばらくすると、ちょこちょこと走って来た。
「ごめん、課題が終わらなくて」
「大丈夫だよ。神童が大変なのはよく知ってるから」
神童先輩は、何でもできる優等生だ。
噂では、今までの生徒たちより、ずば抜けて優秀らしい。
そのため先生方に、課題を押しつけられることが多いのだ。
「終わったら、お昼にしようか」
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。キリのいい所だったから」
「そっか。じゃあ食べようか」
霧野先輩は俺を完璧に忘れ、教室に向かい歩き出す。
途中で思い出したらしく、
「あっ、狩屋も一緒に食べようか?」
と言われたけれど、いつものように「俺は大丈夫です」と下手くそな笑顔で答える。
そんな作り笑いすら見抜いてくれない。
そのぐらい、霧野先輩は俺に興味が無いらしい。

午後の授業が終わり、楽しみな部活の時間になる。
もちろんサッカーが好きってのもあるけれど、
霧野先輩と少しでも喋れるから。
まだ誰もいない部室で着替える。
ユニフォームのTシャツをきちんと中に入れる。
その時、誰かが部室に入ってきた。
「えっ…、し、んどぅ?」
霧野先輩の弱々しい悲鳴のような声に、思わず振り返る。
するとそこには、神童先輩が倒れていた。
「しんどぅ…神童っ!」
神童先輩の体は、複数の切り傷があった。
あまり深くないことが不幸中の幸いだった。
「き、りの…」
俺も神童先輩に駆け寄ろうとするが、霧野先輩の酷く怯えた目に気付く。
「狩屋…」
霧野先輩の目線の先に目を移すと、俺の右手だった。
そして、その手には、血の付いた小型のナイフがしっかりと握られていた。
自分でも凄くびっくりして、ナイフを落とそうとした。
だけど何故か、離れてはくれない。
その時、ハッと気付いてしまったのだ。

俺が、昨日、何を買いに行ったか。
俺が、何を思って買ったのか。
そして、ある日、いきなりこの衝動が抑えられなくなったことも。
この衝動が一体何者なのかも。
全て、思い出した。

『ホントウノジブンガ、ドレダケミニクク、ドレダケクルッテイルノカモ』

「や、やめろ…っ!」
頬肉を削ぎ落とし、骨が少し見えていた。
しかし、何故か血は一滴も流れない。
そっか、やっぱり俺は人間じゃナカッタンダネ…
「先輩、美味しく食べて。俺のお肉なんだから」
そう言って、2人の近くに塊を投げる。
「ひぃっ…いらないッ!」
「えー美味しいのにぃ…じゃ、俺が先輩のお肉、食べてあげますねっ!」
逃げようとするけれど、足が動かない。
生まれたての子鹿のごとく、震えて上手く立てない。
「く、来るな…!」
汗も涙も鼻水も、どれがどれだかわからない。
そんな霧野先輩も、可愛い。

やっぱり、俺は霧野先輩が好きだ。

そう、食ベチャイタイクライ。

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