in ニューヨークD


「ん、…っ!」
久遠が資料室に入った途端、常磐は自分も入り込み、久遠を壁に押しつけキスをした。
久遠は常磐の急な行動に焦ったが、さらに驚いたのは常磐の口から何かが移されたことだった。
舌の上に甘いものが転がる。
チョコレートだった。
いつの間にこんなものを仕込んだのか、そんなことを考える暇はなく、常磐の舌が絡む。
「っ、…、ん、ふ…っ、ん……っ!」
あたたかい舌が絡む中で、チョコレートが溶けて小さくなっていく。
甘い甘いものが、口内を満たした。
「ん、はぁ……っ、」
常磐のキスは腰にきた。
久遠はそっと離れた常磐を見上げた。
「お、まえ……、っ」
「今日何の日か知ってるか?」
「……知らね、」
「そ、」
常磐はそう言って、久遠を抱き寄せると、小さい尻をスラックス越しに撫でた。
「おい…っ、どういうつもりだよ!」
「慣らすんだろ?手伝ってやるよ」
常磐の指がスラックスの上からぐりぐりと尻の穴を弄る。
「いっ、や、やめろ、糞!汚れるだろっ、直接…っ」
「…直接ならいいんだ?」
「っ…、っ、糞、…好きにしろ…、」
ほぼ誘導した了承を久遠から得ると、常磐は久遠のベルトを外して、スラックスと下着を降ろした。
「壁に手ついて、」
「ん…」
久遠は後ろを向いて、常磐の方へ尻を突き出した。
常磐は久遠の尻を手で撫でる。
「おい、てめぇ、楽しんでんだろ…っ」
「雰囲気大事だろ」
「尻撫でて出来る雰囲気なんてねぇよ、とっとと慣らせ」
さっきまでキスで蕩けた表情をしていたくせに、今はこんな姿を晒しながらも色気のない言葉を吐く久遠に、常磐は苦笑いした。
「はいはい…」
常磐はそう言ってその場にしゃがみ込むと、久遠のアナルへ舌を這わした。
「んぁっ!?」
まさか舐められると思っていなかった久遠は体をびくつかせた。
「お、おい…っ、舐めるな…っ、んっ」
常磐が舌を動かす度にぴちゃぴちゃと水音が鳴る。
つんつんと濡れた舌で突かれると、アナルがヒクヒクと動いてしまうのが自分でもわかり、久遠は恥ずかしくなった。
「っ、ん、」
舌の先が中に入り込む。
自分の舌と絡み合っていたあのあたたかい舌が今はアナルを刺激しているのだと思うと久遠はゾクゾクした。
「あ、あ、常磐…っ、んっ、舌、いや…っんんっ」
舐める音がリアルで、久遠は耳まで犯されているような気分になった。
「ぁ、ん、音…っ、たてるな…っ、ん、んぁ、指、指で…っ、やってくれ…っ」
なんだかおねだりされている気分で、常磐はムラムラした。
余裕があればまだ虐めてやりたいくらいだったが、自分自身も耐えられなくなった。
立ち上がり、久遠の口元に自分の指を持っていく。
「濡らして、」
久遠は珍しく文句を言わずに、常磐の指を咥えた。
ペニスに比べれば指は舐めやすく、久遠は舌を動かして常磐の指を濡らした。
「普段からこんだけおとなしかったら可愛いのにな、」
「うるへ…っ」
口から抜かれた常磐の指はヌラヌラ濡れて光っていた。
そしてその指が自分のアナルへと当てられる。
「んっ……」
常磐の指がぬっとアナルの中へ挿入された。
昨夜のことが久遠の頭を過ぎる。
またしつこく指で弄くり回されるのだろうか?
そう思うとなぜがペニスの先が濡れた。
「昨日したから、まだ柔らかいな」
ゆっくりだが常磐の指はすぐ入っていった。
中でくにくに動かされて、久遠は荒くなりかける息を整えようとした。
「っ、っ、」
二本目も余裕だと感じた常磐は、指を増やしていく。
ぐちゅぐちゅ掻き回しながら、脚の間から見えている久遠のペニスに目を向けた。
気持ちよさそうに透明な液体を垂らしている。
舐めたいな、と思いながらも、さすがにそこまでしたら怒られることは目に見えているので、アナルを慣らすことに専念した。
「んっ、は、…あっ…」
指で思い切り中をほじくる。
久遠の脚が少し震えていた。
常磐は昨夜の久遠の反応を思い出した。
前立腺を指でこりっと触る。
「っ!!」
久遠がびくっと反応する。
可愛い、そう思って二本の指で挟むようにぐりぐりと虐めた。
「あ、っ、あ゙っ、やっ、そこ、ああっ」
久遠が焦ったように喘ぎ出す。
昨日はこれでイッたな、そう思いながら常磐はごりごり指で弄る。
「あっ、んぅ、あ、いや、だ…、あッ、と、きわ…っ、そこ、だめ、だ、ん…ッ、常磐…っ」
久遠の腰が逃げる。
常磐は離れる気はなく、そのままイッてしまえと思いながらしつこく指で刺激する。
「や、ぁ、も、いぃっ、から…っ!と、きわぁ…っあっ、あッ…!イク…っ、それ、以上したら…っ!、イク…、からぁ…ッ」
「…イけよ、」
久遠は首を横に振った。
「っ、や、ん…、社、長に…っ、気付かれる…ッ、」
「……………、」
小さく震えながら快感に耐えている久遠を見て、常磐はそっと指を抜いた。
久遠は耐えず続いた快感がやっと治まったことにほっとして、そのままその場に膝を突いて座り込んだ。
「は、ぁ……っ、」
「…そのまま放っておくのか?」
「……、そのうち、落ち着くだろ……っ、」
常磐はハンカチを取り出して指を拭いた。
どうして、大事にしてくれない男の前で、大事にしてくれる男の存在を隠したがるのだろう。
常磐はその理由を知っているのに、疑問を抱かずにはいられなかった。
息を落ち着かせようとしている久遠に声を掛けようとすると、それを邪魔するように常磐の携帯が鳴った。
英語で話していて、久遠には内容が全くわからなかった。
「俺、今日は取引先と約束があるんだ。お前が帰る時間には間に合わない」
通話を終え、ポケットに携帯をしまいながら常磐は久遠に言った。
「もう一人で帰れるよな?」
「………。ああ、」
久遠は常磐に背を向けたまま返事をした。
「気を付けて帰れよ」
「……、ん」
常磐はしゃがんで久遠の手を掴み、ポケットにあった赤い包み紙の小さなチョコレートを一粒握らせて、資料室から出て行った。
本当は、このまま久遠のことを抱きたかったし、空港まで見送りたかったけれど、久遠がそんなことを望んでいないのなら、もう自分は何も出来ないと、今更だが常磐は思った。
「……、」
常磐の足音が遠くなった頃に、今度は久遠の携帯が鳴った。
久遠は誰からかも確認せずに電話に出た。
『秘書の如月です。おはようございます』
「…ああ、」
久遠は胸の奥がぎゅっと狭くなった。嫌な予感がした。
『社長の会議の時間が早まりまして、久遠課長とは会えないので断るよう伝言を預かりました』
如月の綺麗な声が、久遠が予感したとおりのことを事務的に告げた。
「…ああ、わかった」
『ではご帰国、お気を付けください』
「ん。ありがとな」
機械のような如月の挨拶で電話は終わった。
久遠はそのまま携帯を床に置く。
「っ…、は、ぁ…、」
ずっと放置されていた自分のペニスに、久遠は触れた。
「ぅ、…っ、…ん、」
何のために慣らして貰ったかわからないアナルが疼く。
久遠はそれに気付かないふりをしてペニスを擦った。
ずっと快感に耐えていたペニスは、すぐに精を吐き出した。
壁にとろりとかかる。
「……なんでこんなとこまで来て…一人でシなきゃいけねぇーんだ……」
常磐を突き放して逃げた先に、受け止めてくれる者はいないということに、久遠は胸を締め付けられた。
「…………」
左手を開いて、握っていたチョコレートを見つめる。
「…バレンタインか……、」
嫌っていた処理課のバレンタインの行事を、今少し、羨ましく思うのだった。

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