気になるあの子@


同じ専門学校に気になる奴がいる。
先に俺の説明をしておくと、自分で言うのもなんだが容姿も良くスポーツ万能。おまけに身長が188センチときたもんだから、俺は常に女にモテた。
中学も高校も人気者だった。正直に言うが当然だと思う。
だけどこの専門学校に来てから違った。
俺が人気であることには変わりないが、もう一人人気の男がいた。
それが俺の気になる奴。名前は明野。
こいつはかなり容姿が良い。身長は俺の方が勝ってるけどこいつもなかなかでかい。ほぼ一緒。
そして何が恐ろしいかと言うとクールなのだ。
女が寄って来ても興味ないって顔をして、一人で本とか読んでる奴だ。
そんな絵に描いたようなクール男子を女が放っておくわけがない。
おかげで俺と明野と人気が二分した。

明野はホモなのではないか?
俺は観察して一週間でその考えに至った。
そして確信を得たのは、明野の携帯の待受だ。
明野はたまにぼーっと携帯を眺めている時があった。何を見ているのか覗いた時、それは明野と他に知らない男が二人映っている写真だった。
一人の顔は普通すぎて覚えてないが、もう一人の方は覚えている。
かなりの男前だ。目を見張るほど、笑顔がきらきらした、眩しい男だった。
それを明野は切なげな目をしてじっと見ているのだ。
明野はあのイケメンが好きなんだ…。そう思った時俺は心臓がチクチクした。
そしてその痛みで俺は気付いたのだ。
俺はいつのまにか、明野のことを好きになっていた。


前置きが長くなったがそんな感じで俺は明野が好きだ。ホモじゃない。女が好きだ。しかし女よりも明野が好きなんだ。
明野のことが気になって気になってしょうがない。

だがしかし。どうしたらいいかわからない。
自慢じゃないが俺は今まで好きになった女を自分から口説いたことはない。
あっちから俺にアプローチをかけてきて付き合うんだから。
いつもなら自然に付き合えるんだ。
なのに明野ときたら、俺のことなんて気にも止めてない。困った。
困ったがこのままではいけない。
なんとかして近付かなければ…!

「明野、ごはん一緒に行こ」
デートはまだ緊張するから昼休みに学食に誘ってみた。
明野が、なぜ親しくもないのに俺を誘うのか、といった顔をもろにするので心が挫けそうだったけど俺は頑張って笑顔を向け続けた。
「…俺今日弁当だから」
そう言って明野は去っていった。

だけど俺は挫けない!!次だ!!

「明野、帰りに向かいのカフェ行こ」
思いきってお茶に誘ってみた。
またもや明野が、またお前かよなんなんだよ、みたいな顔をして俺を見る。
その冷たい顔!心臓が破裂しそう!
「…他当たってくれる?」
そう言って明野は読書を始めた。

だけども俺は挫けない!!次だ!!

「明野、ごはん一緒に食べよ」
「食欲ない」
「明野、帰り皆でカラオケ行かない?」
「行かない」
「明野、図書館行こ」
「今日バイト」
「明野、横山仁の映画観に行こ」
「先週観た」
「明野、土曜暇?」
「忙しい」
「明野、」
「ごめん」

撃沈である。
もう一週間以上経ったというのに、これといった進展がまったくない。
進展どころか、どんどん明野の眉間に皺が寄っていき俺たちの距離が離れていく。
俺の心もそろそろ挫けそうだ。
しかし諦めてはいけない。モテる俺のプライドってやつもある。
おそらく最初からデートしようとしていたのがいけなかったのだ。まずは雑談から始めよう。
俺は日を改めて、明野がまた一人で携帯を眺めているところに話しかけにいった。
「明野、それ誰?」
近付いていくとまたあの写メを見ていたから、尋ねてみた。
顔を上げた明野は思いきり眉間に皺を寄せて俺を睨んだ。
「あ、」
あまりの怖い表情に、俺は思わず一歩退がった。だめだ、今日も失敗だ!
「あ、えと、」
「あんたさ」
明野が携帯をポケットにしまって、椅子から立ち上がる。
ずいっと顔が寄せられた。すごくきれいな顔だが、怖い。
「この間から何?」
「や、」
「ほっといてよ」
明野は冷たい目をして、教室から出ていってしまった。
「…………」

完敗、である。
明野はまったく俺に興味がないようだった。そして、俺が明野に興味を持つことすら、許されないようだった。
モテる俺、コミュ力もなかなかのもんだった俺。
そんな俺が手も足もでない。
いや、コミュ力なんてなかったのかもしれない。
皆最初から俺のスペックに惹かれて寄ってきていて、それに俺がただ愛想よくしていただけなのかもしれない。
俺は努力をしたことがないから、自惚れていたから、今こんなに苦労しているに違いない。
今までの俺は間違っていたんだ。
もっと他愛のない話をして、信頼を持つべきだったのだ。
俺は間違っていた。
しかし気付いた時はもうすっかり、明野に嫌われたあとだった。


「よっちゃんの結婚祝いに飲み会しようってなったんだけど」
ぼけっとしていると友達の田中が話しかけてきた。よっちゃんってのは先生だ。男みたいな性格の女で、生徒に人気がある。
「飲み会なぁ…」
よっちゃんのことは俺も好きだ。だけど飲み会とかいう気分ではない。
しぶっていると田中が驚く。
「どうしたんだよ、飲み会とかお前大好きだろ」
「うーん、そうだけど」
「変なの。めずらしくあいつも来るって言ったのによ」
そう言った田中の視線の先に目を向ける。明野だった。
「よっちゃんともともと知り合いだったんだってよ。だから来るって」
「ふーん」
なぜこんな時に限って、明野と関わり合えるのだろうか。もっと早くこういうことがあれば、ちょっとはマシだったんじゃないだろうか。
「な、行こうぜ。ちゃんとよっちゃんのこと、祝ってやろ」
「……うん」
田中の誘いに、俺は結局のところオッケーを出して三日後よっちゃんを祝う為に居酒屋に皆で集まった。
俺と明野は席が遠くて全然話せなかった。むしろ明野はよっちゃんとしか話さなかった。俺に見せる嫌な顔なんか一切しないで、たまに微笑したりして、俺の知らない明野を知った。
もう手遅れだけど、俺も明野に笑顔を向けてもらいたかった。
でもそれはもう叶いそうもないので、俺はやけになって酒をガブガブ飲んだ。


「おーい恭二、大丈夫か?」
俺を呼ぶ声がして、俺はうっすらと目を開けた。よっちゃんと田中が俺の顔を覗き込んでいる。
「恭二がこんだけ飲むなんて珍しい」
「しょうがねぇなぁ」
田中とよっちゃんが俺の上で会話している。
俺はどうやら飲みすぎて今寝転んでいるらしい。自分の状況すらよくわかっていないほど飲んだようだ。
「恭二ん家って宮駅の近くだよな。その辺の奴他にいたっけ?」
「宮駅だったら、明野、お前近いだろ」
よっちゃんがいきなり明野の名前を呼ぶ。
俺は焦って身を起こした。だけどふらついてしまう。
「だ、大丈夫だから……っ」
「どこが大丈夫なんだよ、いいから明野、お前送ってってやれ」
「………」
明野の返事はない。
だけどよっちゃんの頼みだから、明野は断らないだろうな、と俺は天井を見ながら思った。

皆と別れたあと、俺は明野に支えてもらいながらふらふらと家に向かった。
明野はほとんど無言で、喋っても俺の家への道を尋ねるくらいだった。
肩に腕を回しているから距離が近い。明野はいい匂いがした。
「明野、…ごめんな」
「………」
「…俺、」
明野の足が止まった。
顔を上げると、俺が住んでるマンションが目の前にあった。
「……ありがとう、ここで大丈夫」
「………」
俺は明野から離れて、玄関に向かった。
明野は俺のことをただでさえ嫌ってるのに、家まで送らされて、俺はこんな感じでダメダメだし、きっともっと俺のこと嫌いになっただろうな。
「…なにやってんだろ……」
俺はエレベーターの前でうずくまった。
片想いって、ツラい。
今まで自分が一方的に好きだったことなんてないもんな。皆こんな切なくて痛い気持ちを抱いてたんだ。
俺はなんにも知らないから、こんなにもクソ男なんだ。
「明野…、」
「なに?」
呟いた言葉に返事があって、俺は驚いて顔を上げた。
さっきそこで別れたばかりの明野が立っていた。
俺は無言で、尻餅をついた。なんでまだ。
「…部屋まで送るよ」
「え、え、いい、いいって…」
断りまくると明野は眉間に思いきり皺を寄せた。イラッとしたのが伝わったから、俺は慌てて言い直し、部屋までお願いすることにした。
学食ですらきちんと誘えなかったのに、変な成り行きで明野が俺の家に来るということが、不思議でならなかった。
俺の隣に明野がいるのが、信じられない。

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