川北前難駘高校の番長@


川北前難駘高校は偏差値の高い学校だが、通う生徒は真面目な優等生ではなくヤンキーばかり。
つまり日々勉学に励まなくても授業を受けなくても素行が悪くても、試験をさせれば皆が高得点を叩き出してしまう、本物の天才たちが集まっている。
そんなギャップのある学校だが、ヤンキー校なのだからもちろん番長なるものがいる。
全校生徒四百人の頂点に立つ、川北前難駘高校の顔。
その名も、滝鷹虎。

「おはようございます鷹虎さん!!」
「おはようございます!!!」
「てめぇらもっと声出しやがれぇ!」
「おはようございますっっっ!!!!」
身長190センチを越える大柄でスキンヘッドの男がその他大勢の下っぱたちを引き連れて、黒いソファに腰かける男に挨拶をする。
「おー、はよ」
口の端を上げて笑う鷹虎を見て、スキンヘッドをはじめとした男たちは鼻を抑えた。
「あぁ!今日も見目麗しい!!このタラコ、鷹虎さんの右腕としてお側にいられること、光栄に思っております!!

スキンヘッド、もといタラコは手で抑えきれなかった鼻血をだらだら流しながら言った。
後ろのヤンキーたちも鼻血を流したり息を荒くしたりしている。
「ところでタラコ、例のモンは」
鷹虎は自分の前で感情を昂らせているヤンキーたちを無視して話を変える。
タラコは「仕入れてあります!」と一言、鷹虎にその例のモノを差し出した。
「川北前駄菓子屋のいちご牛乳です!」
「タラコ!よくやった!」
鷹虎は嬉々として早速タラコから受け取ったいちご牛乳を飲んだ。
「あぁ…!いちご牛乳を飲む鷹虎さん…!なんて可愛らしいんだ!」
ヤンキーたちは暖かな目で鷹虎のいちご牛乳を飲む姿を見守った。

川北前難駘高校のヤンキーたちは、昔から喧嘩が強く、他の高校と乱闘をしても負け無しだということは巷では誰もが知っている。
そんな高校の番長を、鷹虎の前に張っていたのは設楽興毅。
大柄な体は筋肉隆々で、喧嘩傷も多い。こめかみには皆が恐れる、大きな十字の傷がある。
誰もが恐れる番長設楽に楯突いたのが新入生として入ってきた鷹虎だった。
ヤンキーの頂点に立つことを夢見た鷹虎は早々に設楽に果たし状を送った。
新入生などめちゃくちゃに叩き潰してやろうと舐めてかかった設楽は、鷹虎を見た瞬間に、戦意を喪失した。
鷹虎は、一言で表すと可憐であった。
色が白く睫毛が長く、目は大きく、なのに顔は設楽の掌で包めてしまうのではないかと思うくらいに小さい。
身長は設楽と鷹虎の間に30センチ定規があっても足りないほど差がある小柄。
髪の色は粋がって金髪で、学ランも腕を通さず肩に掛け、形はヤンキーになっているが、設楽の目に映ったのはただの美少年だった。
設楽は今まで戦意を喪失したことなどなかった。
獣のようなあきらかに危ない見た目をした他校のヤンキーが相手でも、危なっかしい武器を持っている相手でも、どんな奴にも戦意を失うなんてことはなかった。
なのに設楽は鷹虎を殴る気にはならなかった。
鷹虎を見た瞬間の、全身殴られたかのような稲妻が走った感覚が身体中を巡っていた。
設楽は鷹虎に一目惚れをしたのだ、それも初恋である。
そんな一風変わったタイマンで、鷹虎は番長の座を手にした。
設楽はそれから鷹虎の右腕として鷹虎の下についた。今まで最強だと思われていた設楽に新入生が勝った。
設楽より強いであろう鷹虎を番長にしない理由はなかった。
そして何より鷹虎の可憐さに皆設楽のように惚れたのだ。
それが先程の番長ラブなヤンキーたちの姿に繋がるのだ。
ちなみに設楽は鷹虎からタラコと呼ばれている。彼が実際に唇が厚いことと、名前にもタラコという文字が入っていることが由来している。
様々な異名を持っていた設楽だが、何よりも愛する鷹虎がつけたこの悪口に近いあだ名の方が気に入っている。
他のヤンキーたちも大体鷹虎にあだ名をつけられていて、決して喜ばしいあだ名ではないのだが、皆その名を大事にしている。
それほど皆鷹虎を愛しく思っていた。


「た、大変です!鷹虎さん!」
ある日鷹虎とタラコ、その他ヤンキーたちがトランプのババ抜きをしていると息を切らした下っぱが走ってきた。
「また俺の負けかよ!おめーらイカサマしてんじゃねーだろーな!」
「顔に出ちゃってるのに気付かない鷹虎さん…!なんて愛らしいんだ!」
「聞いてくださいよ!!!」
きゃっきゃっとヤンキーらしかぬ雰囲気に突っ込む下っぱ。
どうした?と眉間に皺を寄せるも可憐な鷹虎に胸打たれつつ、下っぱは口を開く。
「池狭間東堂高の奴らがそこまで来てるんッスよ!」
「あぁ?」
鷹虎たちは廊下に出て窓の外を見る。
確かに池狭間東堂高校の制服を着たヤンキー達が校舎に向かって来ている。
池狭間東堂高校も、ヤンキー校である。川北前難駘高校とは違い、入試試験は名前さえ書いてあれば入学出来るような高校で、荒れに荒れまくっている。
タラコが番長を張っていた時はおとなしくしていたのだが、おそらく番長が鷹虎に変わったところを見て勝負を挑みに来たらしい。
「あいつら校舎に入ってくる気だ」
「夏休み中なのになんで学校にいること知ってんだ…」
パリーーーンッ
下の階から窓ガラスが割れる音がする。
「ちっ!正面玄関が開いてるのにわざわざ窓を割りやがって!」
「鷹虎さん、俺たちに行かせてください!」
下っぱ達が鷹虎に言う。
鷹虎は首を振った。
「いやいい。手ェ出すな。それよりUNOしよーぜ」
「ええーーーーーーっ」
鷹虎は溜まり場として使っている空き教室へ入っていった。
下の階から「出て来い鷹虎ー!」と叫ぶ声が何度もしたが鷹虎たちは出ていかなかった。


UNOでひとしきり楽しんだ鷹虎たち、もう一回しようとカードを集めているところで教室のドアが勢いよく開いた。
皆が視線を向けると、池狭間東堂高校のヤンキーたちがそこに立っていた。
「てめぇら無視してんじゃねぇぞコラ」
「鷹虎出せや!」
校内を探し回り若干疲れかけているヤンキー達が鷹虎達にガンを飛ばす。
「呼び捨てしてんじゃねぇクソが!」
タラコが睨み返す後ろで、鷹虎は冷静にヤンキーたちを見据えた。
「喧嘩吹っ掛けられる覚えはねぇが」
「うるせぇ!うちの番長、牛島さんがおめーに用があんだよ!」
「牛島…?」
鷹虎の細い眉が少し上がる。なんともピンと来ないまま、ヤンキーたちが牛島の名前を呼ぶ。
ヤンキーたちの後ろから現れたのはタラコと同じくらい体格のいい、リーゼントの男だった。
「牛島ぁ、おめーは俺に負けただろーが。今更何のようだ」
タラコが牛島を睨み付ける。
前にタラコが牛島たちと乱闘をし、タラコたちが勝ってからは牛島は一切川北前難駘高校には関わらなかったのだ。
「設楽、おめーに用はねぇ」
牛島はずいっと前に出て、鷹虎を見据えた。鷹虎も牛島を見る。張り詰めた空気を破ったのは、牛島だった。
「好きです!!!俺と付き合ってください!!!」
「えええええええええ!!!」
頭を下げながらのまさかの牛島の告白に、居合わせた一同が驚愕の声を上げた。池狭間東堂高のヤンキーたちも。
「許さぁぁぁぁぁあんんん!!」
タラコがわなわなと体を震わし唾を撒き散らしながら叫んだ。
「てめー牛島!!!俺たちの大事な鷹虎さんに愛の告白たぁいい度胸じゃねぇか!!この身のほど知らず!!今ここでミンチにしてやらぁ!!」
近くにあった金属バットを手に取って床をガンガン叩き付けた。力が強すぎてバットが折れる。
「落ち着け、タラコ」
タラコに賛同して皆がやぁやぁ騒いでいる中、当の鷹虎は冷静だった。
頬杖ついてソファに深く腰掛け脚を組んでいる可憐な鷹虎を見て、牛島は我慢できずとうとう鼻血を出した。
「で、でも鷹虎さん!あいつ鷹虎さんを見ただけで鼻血出してんッスよ?!」
自分もそうであるのに牛島を変態扱いするタラコ。鷹虎は口の端を上げて笑う。
「付き合うねぇ。面白そーだな」
「鷹虎さん!?」
「そうだな…、俺に勝ったら、付き合ってやる」

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