×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


彼女の知らぬ個性


「個性がないって言うのは違うな」

名前を床に寝かせ、義爛はのんびりと席に腰をかける。拳銃型のライターで煙草に火をつけると、身体に毒を溜め込んで外に撒き散らす。
黒い霧の人こと黒霧は、素早く義爛に灰皿を渡した。しかし、常に穏やかである彼だが、今回は少し納得がいっていないようだった。

「個性は恐らくある。だが、彼女の持つ個性は厄介かつ扱いが難しい」
「だが、本人は無個性だと言っているが?」
「気づいていないんだ。この子、馬鹿だから」
「……それは、まあ分かります」

この短い期間で名前の頭の弱さを察した黒霧は妙に納得したように頷く。ある意味1番失礼だ。いや、棚に飾っていたお酒が全部おじゃんになったことで、少し腹を立てているのかもしれない。

「彼女の個性は"運(ラック)"だ。溜め込んだ不運を幸運に転換させる能力だと考えられる」
「…それはただの偶然じゃないのか」
「俺は彼女からこれまでの人生を聞いた。それに、何度もこの目で彼女の奇跡とも思えるくらいの不運っぷりも幸運も見てきた。それらを経て、そういった個性だと納得出来たんだよ」

そこまでで言葉を区切り義爛は苦い煙を吐き出す。
女子高生ことトガヒミコは気を失っている名前をじいっと飽きもせずに眺めている。なんとも微笑ましい光景ではあるが、その恍惚とした欲に濡れた視線は血に濡れた白いシャツに向けられている。

「いくら実力のあるあんたらでも、不運を溜め込んだ名前ちゃんを倒すことは出来ないよ。さっきも見ただろ。あの奇跡的な回避ぶり。名前ちゃんは無意識的に防衛本能が働き、死ぬことを拒んだ。彼女が望めば、幸運は働き彼女を守る」

ぐしゃりと煙草は灰皿に押しつぶされ、火と共に煙も消える。死柄木弔は苦々しく舌打ちを繰り出した。

「つまり、彼女の運をうまく利用しろとのことですね」
「そういうことだ。運良く彼女は一般的感性を持ち得ている。情も頭も弱い。手懐ければ、幸運の女神様は微笑んでくれるだろうさ!」
「バカバカしい…」
「しかし、死柄木、利用できるものは利用したがいいでしょう」

黒霧の言葉に死柄木は苦々しく舌打ちを繰り出す。苛立ちを抑えきれず、首をガリガリと掻き始める。それに追い打ちをかけるように、義爛が畳み掛けた。

「運も実力のうちって言うだろ?そうだ、無駄になったお酒も名前ちゃんに責任を負わせるといい。宝くじかなにかで大金を得て、返してくれるさ」
「そんな都合よくいくものですか?」
「いくんだ、この子なら。そう望ませればいい。しばらく置いて様子を見てみな。言っている意味が分かる」
「……貴方がそこまで言うのも珍しいですね」
「贔屓目で見ていることは否めないけどね。今回の手数料は半分にまけよう。それでどうだ?」

死柄木は体を固まらせた、暫く熟考した後深くため息をつく。

「使えなかったら消す」
「まいど」

死柄木はようやくするべきことを明確にしたばかりなのだ。それを達成するために、仲間も集まりだしている。利用できる駒はとことん利用する。いや、しなくてはならない。平和の象徴であるオールマイトを倒すために。

「それと、荼毘」
「あ?」
「そいつの世話頼んだ」
「なんで俺が」

面倒にも程がある突然の押しつけに荼毘は渋った顔を隠すことなく、素直に出す。細い眉がピクリと小さく動いた。

「そこの餓鬼に頼めるのか?次の日血塗れになった姿をテレビで流されるのがオチだろうな」

死柄木が餓鬼と指すトガヒミコを、荼毘は無感情のまま視界に写す。最近共に敵連合に所属した仲間であるはずだ。しかし、そのぶっ飛んだイカレ具合に荼毘は理解し難いと辟易していた。そんな彼女は今、何が楽しいのかわからないが、名前をじいっと見つめながらニヤニヤと笑っていた。名前の流した鼻血を見ているのだろう。確かに彼女に名前を任せでもしたら、余計な仕事まで増えそうだ。
死柄木の言葉の意味が分かるからこそ、荼毘は反発することは出来なかった。納得するのとはまた話は別だが。

「こいつを引き入れる気か?」
「使えるものは使う」
「……」

この組織のボスは死柄木だ。そして、その死柄木が引き入れると決めた以上荼毘1人の意見でそれを反故にすることは難しい。口を閉ざすことは了承の意と捉えた死柄木は、そのまま慰めるかのように言葉を続ける。

「だからな、お前が判断したらいつだってそいつを消してもいいんだぜ」

名前の知らぬ間に、本人の意識が無い間、面接は行われていた。そして、何も分からぬうちに彼女は敵連合に仮加入することとなったのだ。ここが敵連合であることも、どのような活動している集団なのかも分からぬまま。
それが、名前にとって不運であるか、幸運であるのか。今の時点では誰もわかりはしない。神のみぞ知ることである。