「あ……」
ぱたん、とひー君が出てったドアが閉じた。
ひな先輩の手を引いてったひー君を、止めたかったのに、言葉が出てこなかった。
「水無瀬ちゃん、」
いつの間にか、金ちゃんや他の先輩らも外に出とって、部室に残されたんは、ウチと白石先輩の2人だけ。
「そないな顔せんでも、大丈夫や」
「大丈夫て何がです?ちゅうか、なして白石先輩は、ひー君にひな先輩と2人きりになるん許したんです?」
いっつもひな先輩にべったりな白石先輩なら、ひー君の行動を止めてくれるかと思うてたのに。
「普段飄々としとる財前が、あれだけ決心した目でおったんや。止めたら可哀想やろ」
「先輩は人がええですね。万が一、ひー君がひな先輩に手出したら、とか考えへんのです?」
「財前がそんなやつやないってことは水無瀬ちゃんが1番良う知っとるはずやろ?」
「……せやったら、逆は?告白したひー君にひな先輩が靡くかもっちゅう心配はされませんの?」
「それはない」
「……自信家」
即座に自信たっぷりな笑顔で断言した白石先輩に憎まれ口を叩くウチ。
ひな先輩が白石先輩しか見てへんのも、ひー君が万が一なんて気を起こさんことも全部知っとる。
ウチの憎まれ口は単なる八つ当たり。
他の男に黙って彼女を預けられるほど、ひな先輩と想いが通じ合っとる白石先輩が羨ましくて、ちょっと意地悪を言うてみたくなっただけや。
「やからそないな顔せんでもええっちゅうに」
「せやけど、」
好きな相手が自分やない人に告白するんや。
どうしてももやもやする。
「それにな、水無瀬ちゃん。ちょお考えてみ?財前にはこの2年間、いつでもひなに告白するチャンスはあった。けど、アイツはひなに想いを告げてへん。それを今更言うんや。何や特別な理由があるんやないか?」
今更告白する、特別な理由。
「そんなん、今日が最後やからやないですか?白石先輩からひな先輩を奪えるかもしれへん最後のチャンス」
頭では八つ当たりやってわかってても、捻くれた態度は直せへん。
「しゃーないなぁ、そんなに気になるなら2人のトコ行ってみる?」
「え?」
苦笑を浮かべた白石先輩が、まさかの発言。
「い、いいんです?そないデバガメみたいな、」
そういう姑息なマネ、白石先輩は嫌いそうなのに。
「ま、少しだけや。ちゅうか、水無瀬ちゃんにああまで言われると流石の俺もちょお不安になってきたし」
困ったように笑う白石先輩やけど、その表情に2人を疑う様子なんて微塵もない。
ウチなんかに気ぃ遣わんでもええのに。
こういうトコが先輩の人気の理由なんやろな、と改めて思いながら、彼の後をついていった。
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