「いやー、ホンマ酷い目に会うたわ〜」

それから暫くして、復活を果たした監督は、某コンビニの高級デザートラインのシュークリームやらエクレアやらを俺らに大盤振る舞いした。

「なして先に言うてくれへんのや、水無瀬?」
「白石部長の制止を聞かずに口に入れたんは先生やないですか」
「……そういうこと言うんやったら、今さっきやったエクレア返しや」
「もうウチの胃の中ですもん。返したくても返せませーん」

監督を失神させた張本人、日和とのやり取りを聞いとると、この監督ホンマ大人かっちゅう疑問が沸いてくる。

「ちゅうかウチだってまさかアタリが最後まで残るとは思うてませんでしたもん。てっきり謙也先輩あたりが真っ先に引き当ててくれるんやないかと」
「せやから水無瀬、何で俺やねんっ!」

日和と監督の会話にツッコミ入れた謙也さん。

やけど、まぁしゃーないッスわ。

「やって、」
「「謙也(先輩)(さん)が、1番おもろいリアクションするんやもん」」
「全員でハモるなやっ!」

部室にいる全員の声が、ぴったり揃ったところに、謙也さんが絶妙なタイミングでツッコミを返す。

♪〜♪〜♪〜!

その瞬間、謙也さんのポケットからなんかの映画のテーマソングが流れた。

「もしもし、あ、なずな?」

電話の相手はどうやら彼女の紅林先輩らしい。

「おん、あ、そうなん?ほな、俺も行くわ。え?ええってええって。もう十分楽しんだしな。ちょっと待っとって」

ピ、と音をたてて通話を切ると謙也さんは顔の前に、両手を合わせた。

「すまん、俺、ちょお先に失礼するわ」
「なんや、吹奏楽部、もう歓送会終わったん?」
「らしいわ」

隣にいた白石部長と話しながら、帰り支度を整える。

「ほんなら俺らもそろそろお開きにしよか」

謙也さんが立ったのを合図に監督が解散宣言。

「もうじき最終下校時刻やしな」

その一言で、部室の壁にかかっとる時計を見上げると、短針が5に近づきつつあった。

「おわ、いつの間に」
「楽しい時間はいつもあっという間やなぁ」
「ほんとにね」

上から、謙也先輩、白石先輩、ひな先輩。

「なんや名残惜しいわぁ」
「こ、小春ぅ〜」
「あーはいはい。ユウ君泣かないの」

溜息ついた金色先輩に、縋り付く一氏先輩。

……ほんま、どこのバカップルやねん。

せやけどこのやり取りも、もう見納めなんやなぁと思うと少し寂しいような気もする。

「あ、あの」

なんとなくセンチメンタルな空気漂う中、俺自身も身支度しながら、隣におったひな先輩に声をかける。

「何?」
「今から、ほんの少しだけ時間、ええです?」

ひな先輩と会えるんも、今日が最後。
せやから、決めていた。
ずっとずっと、秘めとった俺の気持ちを今日伝えて、ちゃんとケリをつけようと。

「いいけど、どうしたの、急に改まって?」
「ついて来ればわかります」

きょとんとして首を傾げるひな先輩の腕を掴む。

「部長、すんませんけど少しだけひな先輩、お借りします」
「……おん」

ひな先輩を片時も手放さん勢いで溺愛しとる部長のことやから、てっきり断られるかと思うてたけど、俺の願いはあっさりと了承された。

頷いてくれた時の白石部長は、複雑な色を瞳に浮かべとって。
恐らく俺のひな先輩に対する気持ちにも気づいとる。
それでも、何も言わずにひな先輩と2人きりにさせてくれるんは、自信があるんか、俺を信用しきっとるんか。

この人にはホンマ敵わんわ。

こっそり自嘲を浮かべながら、ひな先輩を外へ連れ出した。




- 6 -

[ | ]

back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -