「……ちゅうわけで、もう出てきてもええで、日和」
先ほどから気になってしゃあなかった、人の気配。
部室棟の陰へ視線を寄越せば、ばつの悪そうな顔をして現れる日和と、まさかの白石部長。
「部長まで覗き見なんて、趣味悪いっスね」
「すまんな。どしてもひなが心配で」
片手で詫びる白石部長やけど、恐らく日和に付き合うとっただけやろう。
なんやかんやでこの人は、俺に甘いし、何よりひな先輩んことは信頼しきっとるし。
「ほんなら、早よひな先輩追いかけたって下さいや。部長らが待っとるはずの部室に戻りはったんで」
「おん。おおきに」
ひらりと手を振って、白石部長も部室へと引き返す。
「部長」
「なん?」
その背に呼びかければ、ぴたりと止まってこちらを振り返る。
「ひな先輩と幸せになって下さいや」
「……おん。言われなくても」
苦笑を浮かべると、白石部長は今度は振り返らずに去って行った。
***
「で?」
白石部長の姿が見えんくなったところで、残った日和を振り返る。
「なしてお前はここにおんねん」
「……………………」
項垂れる日和が返すんは、無言だけ。
これは、小さい時からのこいつのクセ。
怒られるようなことをしたりすると、必ずだんまりを決め込むんや。
「……ま、ええわ。そん代わり、ちょお俺に付き合えや」
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