ali / だって、 | ナノ

03

"お前は俺の娘だ。"

夢の中で、オヤジがそう言った。
昔の記憶だ。
奴隷だった私を助けてくれたマルコ。
そして私のことを、家族だといってくれたオヤジ。
こんな夢を見る日は、

「……熱ある時なんだよね。」

目が覚めると、頭は痛いわ寒気はするわ、完全に風邪だった。

「やばいよ、今何時?」

よいしょ、と言いながら体を起こして着替える。
何度も休憩しながらやっと着替え、部屋を出てから人の声がする方へ向かう。
何も考えていないが、とりあえず誰かに会いたい寂しがりである。

「お、エリナおはよー!」

バシッ、っと背中を叩かれて、振り返る前にフラフラっと前に倒れこんでしまった。

「えええええ俺そんな力強かった!?」

そこにはボリュームたっぷりのリーゼントを掲げ、心配そうに眉を下げて、おろおろする4番隊隊長のサッチがいた。

「おいおい、なんか顔色悪くないか?」

「サッチ……」

「え……?」

私がサッチの首元に巻かれた黄色いスカーフを掴み、縋るように手を伸ばすと、彼は戸惑いながら体を支えてくれる。

「エリナ……何かあ「うぇぇぇえええええ」ええええええゲロおおおおおお!」

なんだなんだ、と背後から野次馬の気配がするが、すぐに「うわ!」とか聞こえて去っていく。
見事に、サッチの体にゲロをぶっ掛けてしまった。
えぇい、見るな見るな!

「サッチ……ごめ……っう!」

「わあああああストップストップ!我慢しろぉぉおお!」

ゲロまみれのサッチが、ゲロまみれの私を抱き抱えて船内を走り回る。
通りすがりに、船員達が「くさっ!」とか「汚ねぇ!」とか言っているのが聞こえて、流石の私も心にグサグサきてる。

「……39.5」

「はぁ……寝てろ。」

体温計の数字を読み上げると、サッチがため息をつきながら、タオルで服をガシガシ拭いている。
流石に着替えたら?と言うと、洗濯出す前に拭いてるだけだ!と怒られた。

「……サッチ」

「あー?」

「ごめんなさい。」

きょとん、という効果音の相応しいサッチ表情。
しばらくぼんやり見つめていると、サッチの頬が徐々に緩んで、大きな右手が私の頭を優しく撫でる。

「おいおいー、可愛いとこあるじゃんエリナちゃん。」

「……うるさい。吐くぞ。」

「知らねぇフリして逃げるっての。」

「酷い。」

汗で顔に張り付いた私の髪を、笑いながら避けてくれる。
何かあったら呼べよ、と背中越しに手を振り、部屋を出て行った。

「さみしー。」

ぽつりと呟いても誰もいない。
それでも体は疲れているようで、自然と瞼が閉じていく。
眠気に身を任せて、私はまた夢の中へと落ちて行った。



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