26
停泊四日目。
いよいよ出航の目処が立ち、三日後ぐらいにはという予定になった。
明日には、マルコの誕生日会(と称した宴会)をやるという。
野菜や酒など、大型注文した店に出航日や注文の確認のためエースと街に繰り出し、ついでにマルコへの個人的な誕生日プレゼントも見にきた。
「男の人って、何もらったら嬉しい?」
「俺は新しい靴が欲しい!」
「いやエースのプレゼントじゃないんだけど。」
これだ!という明るい笑顔。
いつのまにか、彼の欲しいものに話題は変わっていたらしい。
ダメだ、やっぱりエースは当てにならない。
「今失礼なこと考えなかったか?」
「全然。」
さて、と市場を見渡す。
男物のオシャレなアイテムはもちろん沢山並んでいるが、マルコに限らず、クルー達は自分の馴染みの服しか着ない。
戦闘の時に邪魔になっては困るし、かといってオフの日にオシャレなんてしない。
もっというなら、完全なるオフの日なんてない。
いつだって戦闘になる覚悟をしとかなければいけない。
アクセサリーだって好みがあるだろうし……
「こうなりゃネタに走ろう。」
「ネタ?」
不思議そうにするエースに、ニヤッと笑いかける。
「そうだね、例えば猫耳と猫の尻尾セットとか……」
人差し指を立てて、ニヤリと笑ったまま声をひそめると、エースが険しい顔で私の人差し指を見つめ、ごくりと唾を飲む。
「それって……誰が見たいんだ……?」
「さ、さあ……」
背中に悪寒が走る。
同じように、エースもぶるっと肩を震わせる。
きっとお互い、猫耳に猫の尻尾をつけたマルコを想像してしまったんだろう。
しかも何故か、私の妄想の中のマルコは、ご丁寧に猫らしいポーズをとってのけたもので、鳥肌が倍増である。
「な、なんかもっと別のものにしねぇか?」
「う、うん。そだね。」
お互い引きつった顔で頷きまくる。
これがハルタとかだったら、可愛いって笑えたんだろうか……
市場をうろうろしながら、うんうん頭を捻る。
付き合わせているお礼にと、エースに屋台で買い食いさせたが、どうやら食べきってしまったようで、もっと食べたいとごね始めた。
子供か。
「ほら、これあげるから買ってきなよ。」
「おー!エリナは太っ腹だなー!」
ちょっとだけお小遣いを渡すと、すぐ追いつく!と言いながら、あっという間に元来た道を戻っていくエース。
きっと、さっきの屋台が集まってる場所だ。
あんまり先に進まないよう、ゆっくりペースでを落として市場を見て回る。
「あ!ちょっと、君!ねぇ、君だよ!」
「……私?」
後ろから声をかけられているのに気付く。
振り返ると、どこかで見たことある顔。
誰だっけ?という謎は、すぐに解けた。
「あ!こないだの!」
「覚えててくれたんだ。」
この前はありがとう、と柔らかく笑う青年は、数日前に道を尋ねてきたお兄さんだった。
そして、私はあることに気付く。
「あれ、お兄さんこのお店の店員さん?」
彼は市場に並んだ屋台の内側でエプロンをつけており、店員として働いているように見える。
だとしたらこの島に住んでいるはずで、何故この前道を聞かれたのか?というのが疑問だ。
「道を聞いたあの日に、この島に来たばかりだったんだ。今はこの店で職人をしてる。」
お兄さんがにこりと笑って両手を広げ、売り場を示す。
そこにはたくさんの万年筆が並んでいる。
「万年筆の、職人さん?」
「そう!働いてる店は文房具屋だけど、市場では俺の作った万年筆を専門に出させてもらってるんだ。」
「あ、じゃあもしかしてこないだ探してた……」
「そうそう。この前道を聞いた、あれが本店兼工房なんだ。」
そういえば、あの大きなお店は文房具や雑貨なんかを取り扱ってる人気店だったなあ、と道のりを聞かれたあの店を思い出しながら、並んでいる万年筆の一つを手に取る。
私は一切書き物をしないが、光を浴びてツヤツヤと光るそれは十分魅力的だった。
「かっこいい……」
「でしょう?お姉さんも一本どう?プレゼントなんかにもいいよ。」
"プレゼント"
その言葉でハッとした。
マルコのプレゼントに万年筆はどうだろう、と思ったのだ。
マルコは航海士もしているし、よく書類に囲まれているのを見るので、とてもいいプレゼントになると思う。
「決めた!お兄さん、これプレゼントにください!」
「え、本当に!?」
「うん、本当にプレゼント探してたの!」
その時、売り場に"お好きな文字入れます"という札が立っているのを見つけ、彼に声をかける。
「これって名前とか入れてくれるの?」
「あぁ、名前とか記念日とかが多いね。ただこれ工房に持って帰ってから入れるから、早くて明日になっちゃうよ。」
明日か……
明日はマルコの誕生日会と称した宴会をするみたいで、工房に取りに行けるかは怪しい。
うーん、と悩んでいると、お兄さんが首をかしげる。
「今日必要なの?」
「いえ、明日でいいんですけど、明日取りに行く暇があるかどうか……」
「あぁ、それならお届けにあがりますよ!」
顔を上げると、笑顔のお兄さん。
メモを取り出して、こちらに手渡される。
「入れる文字と、お姉さんの名前、届ける時間帯と場所を書いてくれる?」
「え、本当にいいんですか?」
「いいのいいの!こないだのお礼だよ。」
まぁこないだ道を教えたのは、結局私ではなくマルコだったけど……
そのマルコの誕生日プレゼントだからいいか、なんて思って、メモを受け取って書いていく。
「ふぉ、ふれへんふぉひふふぁっふぁのふぁ?」
耳元で聞こえるもごついた声と、咀嚼音。
「なんて?」
もごもごと聞き取れない声に、ツッコミながら横を見ると、案の定エースがいて、私の手元を覗き込んでいた。
両手いっぱいに食べ物を持っていて、渡したお小遣いだけじゃ足りずに自腹切ったな、と思う。
食い逃げしてないことを願おう。
「お兄さん、これでお願いします。」
「了解。代金はその時でいいから!」
「分かりました!それじゃあ私はこれで。」
私が頭を下げると、エースもお兄さんに空いてる手をひらひら振っている。
相変わらず愛想のいい笑顔で見送ってくれる。
名前が入って、手元に届くのが楽しみだ。
いよいよ出航の目処が立ち、三日後ぐらいにはという予定になった。
明日には、マルコの誕生日会(と称した宴会)をやるという。
野菜や酒など、大型注文した店に出航日や注文の確認のためエースと街に繰り出し、ついでにマルコへの個人的な誕生日プレゼントも見にきた。
「男の人って、何もらったら嬉しい?」
「俺は新しい靴が欲しい!」
「いやエースのプレゼントじゃないんだけど。」
これだ!という明るい笑顔。
いつのまにか、彼の欲しいものに話題は変わっていたらしい。
ダメだ、やっぱりエースは当てにならない。
「今失礼なこと考えなかったか?」
「全然。」
さて、と市場を見渡す。
男物のオシャレなアイテムはもちろん沢山並んでいるが、マルコに限らず、クルー達は自分の馴染みの服しか着ない。
戦闘の時に邪魔になっては困るし、かといってオフの日にオシャレなんてしない。
もっというなら、完全なるオフの日なんてない。
いつだって戦闘になる覚悟をしとかなければいけない。
アクセサリーだって好みがあるだろうし……
「こうなりゃネタに走ろう。」
「ネタ?」
不思議そうにするエースに、ニヤッと笑いかける。
「そうだね、例えば猫耳と猫の尻尾セットとか……」
人差し指を立てて、ニヤリと笑ったまま声をひそめると、エースが険しい顔で私の人差し指を見つめ、ごくりと唾を飲む。
「それって……誰が見たいんだ……?」
「さ、さあ……」
背中に悪寒が走る。
同じように、エースもぶるっと肩を震わせる。
きっとお互い、猫耳に猫の尻尾をつけたマルコを想像してしまったんだろう。
しかも何故か、私の妄想の中のマルコは、ご丁寧に猫らしいポーズをとってのけたもので、鳥肌が倍増である。
「な、なんかもっと別のものにしねぇか?」
「う、うん。そだね。」
お互い引きつった顔で頷きまくる。
これがハルタとかだったら、可愛いって笑えたんだろうか……
市場をうろうろしながら、うんうん頭を捻る。
付き合わせているお礼にと、エースに屋台で買い食いさせたが、どうやら食べきってしまったようで、もっと食べたいとごね始めた。
子供か。
「ほら、これあげるから買ってきなよ。」
「おー!エリナは太っ腹だなー!」
ちょっとだけお小遣いを渡すと、すぐ追いつく!と言いながら、あっという間に元来た道を戻っていくエース。
きっと、さっきの屋台が集まってる場所だ。
あんまり先に進まないよう、ゆっくりペースでを落として市場を見て回る。
「あ!ちょっと、君!ねぇ、君だよ!」
「……私?」
後ろから声をかけられているのに気付く。
振り返ると、どこかで見たことある顔。
誰だっけ?という謎は、すぐに解けた。
「あ!こないだの!」
「覚えててくれたんだ。」
この前はありがとう、と柔らかく笑う青年は、数日前に道を尋ねてきたお兄さんだった。
そして、私はあることに気付く。
「あれ、お兄さんこのお店の店員さん?」
彼は市場に並んだ屋台の内側でエプロンをつけており、店員として働いているように見える。
だとしたらこの島に住んでいるはずで、何故この前道を聞かれたのか?というのが疑問だ。
「道を聞いたあの日に、この島に来たばかりだったんだ。今はこの店で職人をしてる。」
お兄さんがにこりと笑って両手を広げ、売り場を示す。
そこにはたくさんの万年筆が並んでいる。
「万年筆の、職人さん?」
「そう!働いてる店は文房具屋だけど、市場では俺の作った万年筆を専門に出させてもらってるんだ。」
「あ、じゃあもしかしてこないだ探してた……」
「そうそう。この前道を聞いた、あれが本店兼工房なんだ。」
そういえば、あの大きなお店は文房具や雑貨なんかを取り扱ってる人気店だったなあ、と道のりを聞かれたあの店を思い出しながら、並んでいる万年筆の一つを手に取る。
私は一切書き物をしないが、光を浴びてツヤツヤと光るそれは十分魅力的だった。
「かっこいい……」
「でしょう?お姉さんも一本どう?プレゼントなんかにもいいよ。」
"プレゼント"
その言葉でハッとした。
マルコのプレゼントに万年筆はどうだろう、と思ったのだ。
マルコは航海士もしているし、よく書類に囲まれているのを見るので、とてもいいプレゼントになると思う。
「決めた!お兄さん、これプレゼントにください!」
「え、本当に!?」
「うん、本当にプレゼント探してたの!」
その時、売り場に"お好きな文字入れます"という札が立っているのを見つけ、彼に声をかける。
「これって名前とか入れてくれるの?」
「あぁ、名前とか記念日とかが多いね。ただこれ工房に持って帰ってから入れるから、早くて明日になっちゃうよ。」
明日か……
明日はマルコの誕生日会と称した宴会をするみたいで、工房に取りに行けるかは怪しい。
うーん、と悩んでいると、お兄さんが首をかしげる。
「今日必要なの?」
「いえ、明日でいいんですけど、明日取りに行く暇があるかどうか……」
「あぁ、それならお届けにあがりますよ!」
顔を上げると、笑顔のお兄さん。
メモを取り出して、こちらに手渡される。
「入れる文字と、お姉さんの名前、届ける時間帯と場所を書いてくれる?」
「え、本当にいいんですか?」
「いいのいいの!こないだのお礼だよ。」
まぁこないだ道を教えたのは、結局私ではなくマルコだったけど……
そのマルコの誕生日プレゼントだからいいか、なんて思って、メモを受け取って書いていく。
「ふぉ、ふれへんふぉひふふぁっふぁのふぁ?」
耳元で聞こえるもごついた声と、咀嚼音。
「なんて?」
もごもごと聞き取れない声に、ツッコミながら横を見ると、案の定エースがいて、私の手元を覗き込んでいた。
両手いっぱいに食べ物を持っていて、渡したお小遣いだけじゃ足りずに自腹切ったな、と思う。
食い逃げしてないことを願おう。
「お兄さん、これでお願いします。」
「了解。代金はその時でいいから!」
「分かりました!それじゃあ私はこれで。」
私が頭を下げると、エースもお兄さんに空いてる手をひらひら振っている。
相変わらず愛想のいい笑顔で見送ってくれる。
名前が入って、手元に届くのが楽しみだ。