ali / だって、 | ナノ

25

エリナに走って逃げられ、俺はとてつもなく後悔していた。
自分でも一人になってから冷静になり、いい大人が何言ってるんだと思うと物凄く恥ずかしくなり、一人廊下にしばらく立ち尽くしていた。

「マルコ?」

声をかけられて振り返ると、ナース服のミラがいた。
明らかに違う声なのに、一瞬エリナかと期待した自分が情けない。

「こないだ話したの、大丈夫そう?」

「あぁ、大丈夫だよい。」

「マルコも誕生日なのに、お願いしちゃってごめんなさいね。」

「この歳なって、誕生日祝われたいなんてねぇよい。」

以前、朝食の時に持ちかけられた話のことだった。
よろしく、とだけ言われて、ミラは右手に持っていた書類に目を通しながら、そのまま去って行った。

「ま、マルコ!」

ミラの背中を見送っていると、また声をかけられ、今度こそエリナがいた。
心臓が跳ねる。
エリナが戻ってくることを期待したが、いざ目の前に来られると、少し動悸がするのが正直なところだった。

「ごめん、逃げたりして。」

俯くエリナ。
謝られると、余計に情けなくなる。

「マルコがなんで怒ってたのか分かった。」

「え?」

「私も同じだったの。」

同じ、とはどういうことなのか。
走り去って行って数分で戻ってきたが、一体何があったというのだろうか。

「ミラと話してるのを見て、何話してるのかなって。何となく入っていけなくて、モヤモヤしたの。」

俯き気味だったエリナが、俺の顔色を伺うように視線をこちらに向ける。

「今のだって、そうだよ。」

そんな風に気にしてただなんて、全く知らなかった。
元よりこいつは、俺が誰かと話してると無理矢理にでも割り込んできた。
それが無くなってからは大人になって落ち着いてきたもんだと思っていたが、こいつなりに悩んでいたなんて微塵も気づかなかった。

「ヤキモチだよね?」

呼吸の仕方を忘れたかのように、吐きそびれた息が詰まる。
今日は柄にもなく焦っている自分に、始終頭がついていかない。
同時に、同じくヤキモチを妬いた。と言われたことに対して、嬉しいと感じている自分がいた。

「だってあの人かっこよかったし、マルコより全然若かったしね。」

「……」

前言撤回。
がっくり項垂れる。
やっぱりこいつは、まだまだガキだ。

「じ、じゃあ!そういうことで!」

「……はぁ。」

そう言って右手を元気よく挙げるので、溜息をついた。
が、

(おい、)

ふと視線を向けると、真っ赤な顔で俯き気味なエリナがいた。
唇はきつく結んでいるが、ぷるぷると震えている。
俺が見ているのを分かっているのか、全く視線が合わない。
あぁ、前言撤回を、更に撤回しよう。
最後に叩いた憎まれ口は、どうやら必死の照れ隠しらしい。

(エリナらしいっちゃー、らしいかよい。)

そのままエリナは、エース釣れたかなあ!?なんて下手な独り言を叫んで、足早に去っていった。
何だか自分もホッとして、笑いがこみ上げる。
エリナの真っ赤な顔、気まずそうに泳ぐ視線。
いつもからかってくる、まだまだ悪戯好きなガキのようなあいつからは、想像もできない。
俺は自分の中にある、エリナを愛しいと思う気持ちをひっそり噛み締めた。



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