ali / だって、 | ナノ

15

島の外れの集落が襲われたことで、騒がしくなっていた島も、夜には落ち着きを取り戻していた。
島民達が助け合い、家屋を修繕したり、声を掛け合ったりと、相変わらず暖かい島であることにホッとする。

僅かに流した涙を拭って、直ぐ悪戯っ子のように「照れてんの?」とエリナは笑った。
エリナの村が襲われた時は、もっと酷かったと聞いた。
エリナはそのあと何年も、海賊達の奴隷となって生かされ続けてきたのだ。
話だけで何があったのかは聞いたが、自分がその痛みをどれだけ想像しても、完璧に共感してやることは出来ない。

(子供に戻っていい、って、そーゆー意味かよい。)

しがみつかれて、その時言葉の意味を理解した。
幼い頃はよく、泣きじゃくって自分から離れないこともあった。
エリナが船に乗った頃は、泣きながら夜中に起こされることもあった。
流石にここ数年はそんなことはなくなったが、今思えばそんな可愛い頃があったなあ、なんて思い出してしまう。

「マルコ何笑ってんだ?」

「あ?なんでもねぇよい。」

「いやいや、にやついてたっての。」

サッチに気持ち悪い、と言われる。
こいつに限っては、未だにエリナを可愛い可愛いと甘やかす。
ここ数年で変わったのは、エリナが恥ずかしがったり、照れ隠しで反発するようになったことだろうか。

「さっきエリナに抱きつかれてたの思い出してたのか?」

「だっ……!抱きつかれてなんかねぇよい!」

ニヤニヤこっちを見ていたサッチだったが、急に真顔に戻って前を向いた。

「エリナにはちょっと酷な事件だったろうな。」

「あぁ……」

「泣いてたのか?」

「ちょっとだけねい。」

「そうか……」

今回の事件で、クルー達はエリナのことを少なからず気遣っている。
その証拠に、今は滅多にない大人数で、夜飯へとエリナを誘ったみたいだ。

「いつから泣きついてこなくなったんだろうねい。」

「ん?」

「いつからあんなハイヒールに興味持つようになったのかねい。」

子供に戻っていい?と言われて、後から思った。
子供に戻っていいかと聞いたのは、泣くのを我慢してたからだ。
いつから我慢するようになっただろう。
いつからナースが履くような、大人びたハイヒールに目を輝かせるようになっただろう。
ずっと一緒にいると、ちょっとした変化に気付かない。
少しずつ、あいつが大人になっていることに、今更気付かされている。

「エリナはもう子供じゃねぇよ。」

「そうだねい。」

「なあ、お前エリナのことどう思ってる?」

「どうって……」

質問の意図がよくわからない

「大人になりつつある娘か、妹か?」

「……何が言いてぇんだよい。」

何となくサッチの口調が説教じみていて、イラッとする。
いつも明るいサッチだけに、真剣に話してくる時の回りくどさには頭を悩まされる。
意味深な言葉を投げかけてきて、肝心なことははっきり言ってこない。

「さっき抱きつかれて焦ってたみたいだけどよぉ、」

「抱きつかれてねぇ!」

「何で焦ってたんだ?」

俺のツッコミなんて聞いてねぇ。

「そりゃ"もう子供じゃねぇ"女に近づかれたら、普通の神経してりゃ焦るだろうよい。」

少し嫌味っぽく返す。
エリナはもう子供じゃない。
そんなこと、自分でも分かっている。
「家族だと思ってるなら、焦るか?」

「はあ?」

「俺は抱きつかれても別になんとも思わねぇよ。」

「お前と一緒にすんなよい。」

そうじゃねぇんだよなー、マルコちゃんよぉ。とサッチ。
何だこいつ、本当に腹立つよい……

「こないだジョズにおんぶしてもらってたし、ハルタに抱きついてたし、エースに肩車されてたし、ラクヨウの誕生日にはキスしてたし……」

「キス!?」

「あぁ。頬にな?家族だぜ?"妹"ならいいんじゃねぇの?」

こいつは何が言いたい。
何だかモヤモヤして、黙り込んでしまう。
もうすぐ、エリナやクルー達が飯を食ってる酒場に着く。
サッチに言われたことを考えて、俺はモヤモヤしていた。



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