14
楽しみにしていた寄港が、少し不安なものとなった。
あの賑やかな街が荒らされていないといいけれど……
私は自分の幼い頃の、あの荒れた町を思い出していた。
「エース!」
「おうエリナ!町は大丈夫だ!」
少々荒らされているが、被害は大きくなかった。
目立たない島の裏側の集落が狙われたようだ。
怪我人はいるが、不幸中の幸いで死人も出ていないとのことだった。
「パパ!」
「あぁよかった……!」
私が抱き上げていた小さな女の子が、1人の男性を見つけて、嬉しそうに声をあげた。
駆け寄ってくる男性に女の子が手を伸ばし、少女は彼の腕の中へ。
「本当に良かった……!あの、ありがとうございます!」
「いえ、そんな……皆さん無事で何よりです。」
泣きながら抱き合う親子を見ていると、何故か頭がぼんやりして、お礼を言われているのに他人事のようにそれを客観視している自分がいた。
「ママは?」
「ママは足をくじいてしまってね、あっちで座っているよ。でも軽い怪我だけだから心配ない。」
よかった、と女の子が笑う。
あの船がもし、自分達モビーの船と出会わなければ……
そう思うとぞっとした。
この子はどうなってしまっただろうか。
「お姉ちゃん、あの……ありがとう!」
「ううん、よかったね!早くママにも会いに行こっか!」
女の子が恥ずかしそうにお礼を言ってくれたので、怪我の手当てを受けている母親の方へと、二人の背中を押した。
何度も振り返って頭を下げる彼らに、手を振って笑顔で見送る。
(お父さん……)
顔も思い出せない彼のことを思い出した。
覚えているのは私を見下し、手をあげる男性であり、あんな風に微笑んだり抱き上げてくれることはなかった。
「エリナ!ちょっと手伝ってくれない?」
「はぁい!」
ナースのアンリに呼ばれる。
オヤジの指示で、船医やナースも下船して、村人達の手当てに回っていた。
傷の深い者は、クルー達が中心街の大きな病院へと運ぶ。
「中心街の被害は?」
ひと段落したところで、中央街から戻ったエースに声をかけた。
「全くないみてぇだ。目立たねぇように、ここだけ狙って子供を攫ったんだろうな。白ひげの縄張りと知ってのことだろう。」
「まあこれも不幸中の幸いかな……白ひげの縄張りでなければもっと被害は大きかったかもね。」
「胸糞わりぃ奴等だぜ。」
私が幼い頃住んでいた村も、島の目立たない場所にあった。
今思えば、貧困層の住む集落だったのだろう。
私もオヤジやマルコ、モビーの皆に助けられなかったら、今もあの海賊達の奴隷だったんだろうか。
それとも、
「エリナ。」
「!マルコ、」
村は大丈夫そう?と続けようとしたが、マルコが苦い顔をしているのに気づく。
でもそれは、親しいからこそ気付く程度の微かなものだ。
「村は大丈夫?」
「あぁ、家屋にちょっと修繕が必要なところがある。それぐらいかねい。」
よかった、と笑ってみせる。
すると、マルコの表情も僅かながら柔らかくなる。
恐らく、マルコは私を心配している。
幼い頃はよく、つらくなるとマルコに抱きついたりしてたなあ、と思い出す。
いつからだろう、そうしなくなったのは。
それでもマルコは、今でも私の気持ちを察して側にいてくれる。
「ねぇマルコ、」
「ん?」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ子供に戻っていいかな。」
マルコがよくわからない、という顔をする。
それでも彼の羽織っているシャツを掴んで、彼の胸元に自分の顔を埋める。
「な、なにして……!」
マルコが慌ててるのが分かる。
それでも、引き離されるようなことはなかった。
我慢できずに少しだけ溢れた涙が、サンダルを履いたマルコの足の上に落ちる。
昔みたいに抱きしめてくれることはなかったけど、察してくれたのか、背中をポンポンと優しくゆっくり叩いてくれた。
あの賑やかな街が荒らされていないといいけれど……
私は自分の幼い頃の、あの荒れた町を思い出していた。
「エース!」
「おうエリナ!町は大丈夫だ!」
少々荒らされているが、被害は大きくなかった。
目立たない島の裏側の集落が狙われたようだ。
怪我人はいるが、不幸中の幸いで死人も出ていないとのことだった。
「パパ!」
「あぁよかった……!」
私が抱き上げていた小さな女の子が、1人の男性を見つけて、嬉しそうに声をあげた。
駆け寄ってくる男性に女の子が手を伸ばし、少女は彼の腕の中へ。
「本当に良かった……!あの、ありがとうございます!」
「いえ、そんな……皆さん無事で何よりです。」
泣きながら抱き合う親子を見ていると、何故か頭がぼんやりして、お礼を言われているのに他人事のようにそれを客観視している自分がいた。
「ママは?」
「ママは足をくじいてしまってね、あっちで座っているよ。でも軽い怪我だけだから心配ない。」
よかった、と女の子が笑う。
あの船がもし、自分達モビーの船と出会わなければ……
そう思うとぞっとした。
この子はどうなってしまっただろうか。
「お姉ちゃん、あの……ありがとう!」
「ううん、よかったね!早くママにも会いに行こっか!」
女の子が恥ずかしそうにお礼を言ってくれたので、怪我の手当てを受けている母親の方へと、二人の背中を押した。
何度も振り返って頭を下げる彼らに、手を振って笑顔で見送る。
(お父さん……)
顔も思い出せない彼のことを思い出した。
覚えているのは私を見下し、手をあげる男性であり、あんな風に微笑んだり抱き上げてくれることはなかった。
「エリナ!ちょっと手伝ってくれない?」
「はぁい!」
ナースのアンリに呼ばれる。
オヤジの指示で、船医やナースも下船して、村人達の手当てに回っていた。
傷の深い者は、クルー達が中心街の大きな病院へと運ぶ。
「中心街の被害は?」
ひと段落したところで、中央街から戻ったエースに声をかけた。
「全くないみてぇだ。目立たねぇように、ここだけ狙って子供を攫ったんだろうな。白ひげの縄張りと知ってのことだろう。」
「まあこれも不幸中の幸いかな……白ひげの縄張りでなければもっと被害は大きかったかもね。」
「胸糞わりぃ奴等だぜ。」
私が幼い頃住んでいた村も、島の目立たない場所にあった。
今思えば、貧困層の住む集落だったのだろう。
私もオヤジやマルコ、モビーの皆に助けられなかったら、今もあの海賊達の奴隷だったんだろうか。
それとも、
「エリナ。」
「!マルコ、」
村は大丈夫そう?と続けようとしたが、マルコが苦い顔をしているのに気づく。
でもそれは、親しいからこそ気付く程度の微かなものだ。
「村は大丈夫?」
「あぁ、家屋にちょっと修繕が必要なところがある。それぐらいかねい。」
よかった、と笑ってみせる。
すると、マルコの表情も僅かながら柔らかくなる。
恐らく、マルコは私を心配している。
幼い頃はよく、つらくなるとマルコに抱きついたりしてたなあ、と思い出す。
いつからだろう、そうしなくなったのは。
それでもマルコは、今でも私の気持ちを察して側にいてくれる。
「ねぇマルコ、」
「ん?」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ子供に戻っていいかな。」
マルコがよくわからない、という顔をする。
それでも彼の羽織っているシャツを掴んで、彼の胸元に自分の顔を埋める。
「な、なにして……!」
マルコが慌ててるのが分かる。
それでも、引き離されるようなことはなかった。
我慢できずに少しだけ溢れた涙が、サンダルを履いたマルコの足の上に落ちる。
昔みたいに抱きしめてくれることはなかったけど、察してくれたのか、背中をポンポンと優しくゆっくり叩いてくれた。