苗字名前は平たくくたびれた布団の上で目を覚ました。寝返りを打とうと身じろぐ度自分の身体のそこかしこから聴こえてくるパキパキといった音に、彼女は「前は平気だったのに……」と一つ文句を零した。最近お世辞にもふかふかだとは言えなくともちゃんとしたある程度厚みのある寝具で眠っていたから、久しぶりにこんなに固い布団で眠ったせいで体がびっくりしているのかもしれない。QOLが下がっちゃったなあ、と彼女は内心一人苦笑した。
「……今、何時」
 掠れた声で独り言を言い、霞んだ目を擦る。
 この部屋唯一の小さな窓から少しだけ光が射し込んでいるが、元々日当たりの悪い場所なのでそれだけでは今何時頃なのかがわからず名前は結局時計に手を伸ばした。
 ドアノブが回った音がしてはっと名前は一気に覚醒した。この部屋は外からしか鍵がかけられない仕様になっているため、部屋の解錠施錠に彼女の了解は関係ない。そのせいか、彼らは名前の部屋にノックもなしで入ってくる。そういうときだけ部屋が古いことに感謝する。もしもここが比較的新しい部屋であったならドアノブが回った音にも気がつかなかっただろう。
「おはようございます」
 今さっき起きたばかりといった様子で布団の上に正座した名前の挨拶を無視して帽子を深々と被った役人が机の上に食事と紙の束を置いた。
「ありがとうございます。いつもお疲れ様です」
 男か女かもわからないその人間はやっぱり返事をすることなくすたすたと去っていった。扉に鍵がかかった音を聞き名前はつれないものだと溜め息をついて机の上の新聞を手に取る。時の政府によって招集された精鋭が時間遡行軍の支部を叩いたという内容の見出しが目に飛び込んできた。
「壊滅、か……」
 彼らは逃げられたのだろうか、とそんなことを考えて彼女はすぐにその考えを打ち消した。彼らが逃げられるわけがない。駐屯地でなく支部ということで此度の制圧部隊は上級の審神者が特別多く配属されたらしい。きっとひとたまりもない。
「……私たちは、正しい。だから、これでよかった」
 ……本当に?本当に正しかったのだろうか。これで本当によかったのだろうか。彼らは彼らで苦しんでいたはずなのに。
 名前はもう何も考えたくなくてもう一度布団に倒れ込んだ。
「使命を、忘れたらだめだ。そうだよね」
 机の上から白いものが落っこちてきた。紙でできた小さな折り鶴だった。彼女の無事を願い、贈られた物だった。
 それを胸元に掴まえて、名前は丸くなった。そうして、再度眠りに落ちるまで彼女は少しだけ泣いた。
 頭を撫でて涙を止めてくれる者はいない。仕方ないと笑って許してくれる者もいない。だってもうどう足掻いても苗字名前は審神者ではない。
 くしゃりと握りしめた手の内から音がしても彼女は一人きりの牢獄の中でただすすり泣くだけだった。

なによりも確実に死に至らしめる病

2021/07/20

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -