12

「アンタの気持ちがよく分からない。」

それが正直な気持ちだった。確かにあの時お互いが楽しいという気持ちを共有できていると思っていた。

百目鬼は表情をぐちゃぐちゃに歪める。
それに何故だか腹が立つ。

「俺は一ノ瀬に嘘を付いたことはない。」
「手を抜いたことはあるけど?」

我ながら嫌味な返しだった。
事実、百目鬼はぐっと詰まってそれきり何も言わない。

「まあいいや。
ランニング付き合えよ。」

これ以上問答をしていてどうにかなるとは思えない。
道場に入れない以上、基礎トレーニングをするしかないのだ。

「……は?」

百目鬼の声は訝し気というよりも、ただひたすら驚いている様に聞こえた。

「いやいやいや、お前何言ってるんだ?」

襲いたいって言っただろうと百目鬼が言う。
ただ、気持ち悪いと思っていた言葉に今は腹が立つ。

「腕力でてめえが俺に勝てなきゃ、成立しない話だろ。」

勝てる前提なのだ。少なくとも、こいつの脳内では。
それが気に入らない。

「俺が合意しなきゃ絶対に無理なことなんだから気にするこたないだろ?」

俺が聞くと、百目鬼は今度は表情を歪ませなかった。
その代わり、声をたてて面白そうに笑う。

「……今すぐ犯してしまいたい。」
「お前、まだそれやるつもりなのか。」

それでも、まるで死にそうみたいに顔を歪められるよりはマシなのかもしれないと、少しだけ思ってしまった。

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