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その表情からは、真意が読み取れなかった。

俺の事が好きだったとして、なんであんな方法を取るのかが分からない。

考えることのできない人間は強くはなれない。
昔父に教わった言葉が蘇る。

百目鬼は弱くはない。それは俺が一番分かっているのかもしれない。
何も考えない愚か者ができる事ではない。

罰ゲームでは無かったとしたら、考えた上でのアレだったのだろうか。

ありえない。と思いたかった。

けれど、百目鬼は少なくとも嘘を付いてる様には見えなかった。

「……じゃあ、なんで態と負けた?」

俺が一番腹を立てているのはそこだ。
それ以外のすべてが、どうでもよくなる位そこが許せない。

「なんでって、だって迷惑だっただろ?」

それが、この一連の馬鹿げた騒ぎの事を言っていることはすぐに分かった。

迷惑だと思っていたし、早く終わらないかと思っていた。
だけどそれよりも――。

「知っていて、負けたのが気に入らねーんだよ。」

それに尽きる。
素人じゃないって知ったのが手合わせをする前だったのかもしれないし、今日は偶然だったのかもしれない。
けれど、百目鬼は気が付いていた。それなのに手加減をした。自分が勝つことを諦めた。
それが許せなかったし、俺が何に怒っているのか多分百目鬼も分かっている。


「犬に噛まれたと思って忘れてくれ。」
「忘れられるか、クソボケ。」

忘れられる訳がない。
何故、こんな苛烈な思いを忘れられると思えるのだろうか。

「今ここで、再戦を申し込む!」
「……それは無理だ。」

百目鬼は静かに言う。俺は柔道選手だから。そう当たり前の様に言った。

理屈は分かる。事実俺だって道場への立ち入りを禁止されたのだ。
ルールに従った試合であってもそうなのだ。
そうじゃない、単なる殴り合いをさせてくれと言っても、はいそうですかと認められないのも分かる。

だけど、じゃあ俺の気持ちはどうなるのだろう。

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