13
◆
別に二人で並んで走って。家に帰って。学校に行って。
あまりにも普通だった。
だから、無言で人より大きめの弁当箱を見せられた時には意味が分からなかった。
いや、今は昼休みでこれから昼飯を食べる予定で、だから何となく状況は理解できる。
けれど理解できないのは、百目鬼がわざわざ昼を誘いに来たことだ。
しかも何故か無言で。
「なに?」
思わず聞いた。
そもそも昨日のあれで、もう俺のところには来ないものだと思っていた。
百目鬼は何も答えない。
仕方が無い。あと、ここだと周りの視線を浴びすぎる。
「仕方が無いから、穴場を教えてやろう。」
昼休みはどこに行っても誰かと鉢合わせる。
だけど、ほとんど人のいない場所がこの学校にはいくつかある。
「……おい、いいのか?」
友人に声をかけられる。
「悪い。今日だけだと思うから。」
俺が言うと、友人はため息を付いた。
体育館の3段ほどの階段みたいになっているところは、夏は暑すぎて、冬は寒すぎる。
だから、年中あまり人がいない。
案の定今日も誰もいなかった。
そこに腰を下ろして隣を軽くたたく。
「座れば?」
「……ああ。」
何を驚いているのだろう。
誘ったのは百目鬼なのに、何故そんなに驚くのだろうか。
おずおずといった様子で座る百目鬼は朝の様子とそれほど変わらない。
少なくとも今までのアホみたいな言葉とは無縁の男に見える。
実際、柔道部の活動も華々しいもので、あんなもの罰ゲームでもやる訳ないということにようやく気が付く。
短めに整えてある髪の毛も、体幹が鍛えられているのだろう綺麗に伸びている背筋からも、あんな言葉が出てくるとは思えない。
「どうした? まるでキスして欲しそうな顔をしてるぞ。」
俺の顎をとらえて百目鬼がまた、意味の分からない事を言った。
手が伸びてきたときに叩き落とすべきだった。
百目鬼だって俺がそれをできることを、ちゃんと知っている筈だ。
意味不明過ぎてイライラする。
だからだろう。馬鹿みたいな言葉に馬鹿みたいな返事をしてしまったのは。
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