×××ゲーム
5
駅の向こう側には少し大きな公園がある。
そこのベンチに並んで座る。
これも、もし恋人ができたら密かにしたいと思っていたことだ。
スポーツドリンクを渡されて飲む。
「なんで、罰ゲームなんかしてるんだ?」
元々友人でもないし、大して話したこともない。
自分の話なんか何もできやしないのだ。
共通の話題なんて、今やっているこの馬鹿げた罰ゲームの話しかない。
「ああ、賭けをしてるんだよ。」
ミルクたっぷりタイプの缶コーヒーを飲みながら松尾が言う。
「何を賭けてるか知らないけど、一週間もこんな馬鹿げたことするのと釣りあうとは思わないけどな。」
昼飯を奢るとか奢らないとかととてもじゃないけど釣りあう内容じゃない。
そもそも、罰ゲームでもない限り自分からこんなことしないだろ普通と思ってしまう。
「へ? そうかな。」
不思議そうな顔をして松尾が言う。
「面白いと思ったことしてた方が、よくない?」
「……他人を巻き込まなければな。」
主に俺とか、俺とかを巻き込まなければ面白い方がいいのかもしれない。
「えー、別に男同士で付き合った位、なんでもなくね?」
賭けにするくらいの事の筈なのに、そんな風に言う。
「この先、思い出して悶絶しそうなこと、普通にしないだろ?」
誰かの黒歴史になってるとか、考えるだけで嫌だ。
それに、自分が同性愛者であることを誰かに蔑まれるのも嫌なのだ。
だから、なるべく誰とも関わらず過ごしてきた。
「えー、別に、そんなことないだろ。」
松尾がケラケラと笑う。
根本的に考え方が違いすぎる。
それは松尾も気が付いているのだろう。
こちらを見て面白そうに笑う。
「なんなら、将来彼女が出来たら笑い話にしてやればいい。」
あり得ない可能性に、思わず笑ってしまう。
「……そうだね、そうするよ。」
彼女ができる事はこの先多分無いけれど、そう答える。
別に悲しい気持ちにはならなかった。
別に彼にとって俺がゲイでもそうでなくても別に関係ない。
だったら、俺がこの一週間をどういう風に思って過ごそうが変わらない気がした。
すごく仲のいい友達もいないし、高校を卒業した後誰かと連絡をとり合うなんて多分しない。
なら、笑い話にもならない思い出を作ってもいい気がしてしまった。
「折角なので、本気で恋人ごっこしてみてみようかな。」
俺の言葉に松尾は、一瞬不思議そうな顔をした後、告白をした日の様なニヤリとした笑みを浮かべた。
多分、面白そうな方と思ったのだろう。
「何? 手でも繋ぐ?」
とニヤニヤと松尾に言われ、さすがに悩む。
「いや――」
いいですという言葉は、松尾に手の甲を撫でられた所為で止まる。
ふざけてでも、握手でも無い触り方。
まるで本当に恋人同士で触れ合うみたいな撫で方を突然される。
別に松尾が俺の事は何とも思っていない事を知っている。
それでも、まるで大切な恋人にする様なしぐさを心が全くこもっていなくても本当にできるのかって位、甘くてじれったい感じで撫でられる。
思わずドキリとしてしまう。
顔が熱い。
何だこれ……。
「あはは、これ結構楽しいかもね。」
一人でゲラゲラと笑う松尾を見て、すでに先ほどの自分の言動を後悔してしまった。
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