×××ゲーム

6



恋愛経験が碌にない人間が、人と係わると勘違いしやすい。
知識としてはちゃんと知っていた。

だから、あの時の失言はよくなかったと直ぐに気が付いた。

松尾とはその後、二人でダラダラと話をして家の場所を聞いて途中まで一緒に帰った。

LINEのIDを交換したけれど、多分使う事は無いだろう。

二人で話す松尾は思ったより喋りやすかった。
俺の事を馬鹿にするような態度も無かったし、時々面白そうに口角を上げて笑う以外は、罰ゲームで俺と付き合っているなんて思えない感じだった。

それもいけなかった。
家に帰って就寝前、スマホを確認するとメッセージが入っていた。

早く会いたいとか、今どうしてるとか、まるで恋人に送るメッセージだ。
恋人ごっごを本気でやると話は松尾もなのか、それで初めて気が付く。

もしも、俺と松尾が恋人ならどんな返事をするだろう。
一瞬考えてすぐにやめる。

もし恋人ができたとき送りたいと思っていたメッセージは松尾に送るのは憚られる。


俺も、早く会いたい
……気がしないでもない

という、微妙にノリの悪いメッセージを送っただけになってしまった。
そんなメッセージなのに、返事がポコポコと送られてくる。

ぽつぽつと返事をしていく。

恋人同士ってこんな感じなのかな? と思ったけれど、友人でも普通はこんなものなのかもしれない。
あまり人と係わりあいになりたくない自分にはよく分からなかった。


翌日、朝の挨拶と一緒に、肩をぽんされてその距離感に驚く。
別に松尾にとっては普通の事なのかもしれないけれど、昨日までとあまりに違う。

「おはよう。」

まるで長年の友達みたいに笑いかけられて、挙動がぎこちなくなる。
そもそも、距離が近すぎて、頭が誤動作しそうだ。

石鹸のいい匂いがする。
肩に触れた手の体温を感じる気がする。

こういうのが嫌だから、一人でいた筈だった。
距離感が近いというだけで勘違いしそうになるから。

「英語の予習した?」

松尾に聞かれて頷く。

「やった! 今日あたりそうだから、見せてくれる?」

そういう事か。と妙に安心して、カバンからノートを渡す。
アイスティを買ってきた時と一緒だ。
別に実際に仲がいいからする行為じゃないのだ。

ノートを受け取った松尾は「写すから、ちょっと待ってて。」と言ってなぜか俺の席の前に後ろ向きに座って俺の机を使って、自分のノートに写し始めた。

自分の席でやりゃあいいのにという言葉は上手く出てこない。

やっぱり、距離感が滅茶苦茶におかしい。

[ 8/250 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
[main]