明けの明星、宵の明星

8

都竹さんのはもはや、会話も無理そうなくらい荒い息だ。
自分のことながらオメガは哀れな生き物だと思っていたが、アルファも同じくらい哀れに思えた。

いくら事実上世界を支配しているのがアルファだったとしても、それが、こんなことの為だというのはアルファもそしてそれに支配されて生きるオメガも滑稽だ。

だけど、それでも今までそれを全て押さえつけてくれていたこの人が今は愛おしい。
相変わらず都竹さんが運命の番であることの実感は無い。誰にでも分かると教わったので自分はオメガとしてどこか欠陥があるのだろう。そもそも、既に首を噛まれて番になったのにそれすらよくわからない。

けれど、そんな事よりも今切実に自分が一般的なオメガと違うと思い知らされているのがこの状況になってまだ、意識を手放せない点だ。
正確には意識では無く自我に近いのかもしれない。オメガは発情すると体が変化する。それに合わせてその時の記憶は碌すっぽ無いと聞かされてきた。
だから、淫乱になれると思っていた。逆にそれが嫌だったのだが、今は自分の体の変化に気が付いたら何も覚えていない状態になりたくて仕方が無い。

都竹さんは相変わらず俺の首筋を舐めながら、胸元をまさぐる。
ただ、手がせわしなく動くだけなのに、触られた場所からぐずぐずに溶けていくような気さえする。
どうしようもなく、自分がオメガなんだと感じる。

体をひねって仰向けになる。

「キスしてもいいですか?」

俺の言葉が都竹さんにちゃんと意味のある言葉として聞こえるかは分からない。
そもそもアルファの発情について知識が無さすぎる。

「お前、トんで無いのか……。」

都竹さんの瞳に理性が少しだけ戻る。

「体は、開いてきてるから大丈夫ですよ。」

俺が笑うと、都竹さんは長い溜息をついた後、唇を重ねた。
それは生まれて初めてのキスだったけれど、余韻にひたる暇も無く、舌が口内に入ってくる。
息ができない位奥まで舌が入ってきて自分のそれに絡められる。

都竹さんの唾液が甘い。
息が上手くできなくて、頭がぼーっとしてきた。

都竹さんのシャツを掴んだのは完全に無意識で、縋るみたいに握り締めた。
ブワリ、とさらに都竹さんの匂いが強くなった気がした。

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