明けの明星、宵の明星

4

その後も、都竹さんとの関係は何も変わらなかった。
当たり前だ。都竹さんは女の人が好きなのだ。
時々、家ですれ違う時、偶然食事の時間が重なった時、近くで都竹さんの匂いがすると俺がどうしようも無くなることがあるというだけだった。

抑制剤が効きづらいのかもしれないと医者に相談したら、困った顔をして曖昧に笑われるだけだった。
彼の匂いを嗅がなければ平気だった。

他のどんなアルファにあっても何もおきない。
正に誤作動だと思った。

それだけだ。
相変わらず自分がオメガに見られることは無かったし、それ以外は普通に生活ができた。

* * *

大学生になった。
早ければもうオメガは誰かと正式に番う時期に入っていた。
けれど、自分と都竹さんは相変わらず婚約者のままだ。

そろそろ婚約を解消されるころかと思うのだがそんな話は何もなかった。
結婚をしたくない主義なのだろうか。

特定の相手がいるのかどうかすら俺は知らない。

「えー、それは違うよ。」

大学で知り合った、安藤が言う。
アルファである安藤だが、俺と違って婚約者はいないらしい。

なんとなく、知り合って、仲良くなってからオメガだと知らせるとえらく驚かれた。
やはり自分はオメガらしくは無いらしい。

そこかしこでオメガですなんていいまわるほど馬鹿ではない為、第二性別の話を出来る人間は少ない。
もののはずみで、アルファなのに婚約を破棄しない都竹さんは番を欲しくないタイプじゃないかと話したら、即座に否定されてしまった。

「アルファっていうのは、そんな生き物じゃないよ。」

安藤は続けて言った。
意味が分からなかった。

「それは、社会的立場の話だろ。」

アルファは能力の高いものが多い。
必然的に社会的地位も高くなる。

「んー、それは卵が先か鶏が先かって話だよ。」

安藤は笑みを深める。

「アルファはね、君たちオメガが居ないと生きていけないんだ。」
「は?なんだそれ。」

むしろ逆だと思った。
オメガはアルファの庇護の元でなければまともに生きていくことでさえ難しい。
抑制剤だって高額だ。
生きていけないのはどう考えてもオメガの方だと思った。

「もしかして、誰からもきいてないのか?」
「だから何を。」
「ふーん。都竹さんて人案外過保護なんだな。」

訳知り顔で安藤に言われて、苛立つ。

「ホント、何なんだよ。」
「都竹さんに聞いてみたら?婚約者があえて伝えて無い事、俺からは伝えられないよ。」

安藤は笑った。

「じゃあ、安藤もオメガがいなければ生きていけないのか?」
「んー、俺はオメガが居なくていつか死ぬ人間だろうから。」
「そんなの、探せばいいだろう。」
「俺だけの大事な人(オメガ)はもう見つけてるよ。」
「なら――」

言葉は最後まで紡げなかった。

「兄貴の番なんだよ、その人。」

安藤は相変わらず笑みを浮かべていた。

「だから、俺には番を選べないし、俺のオメガが居ないからジワジワと駄目になるだろうね。」

まるで何でもない事の様に言うのに瞳だけは真剣な表情で、少なくとも安藤にとってはそれが事実だと思っていることが分かる。

「都竹さんときちんと話した方がいいよ。
婚約者なんだろ。」

安藤は念を押すように言った。

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