あれから前田は頑張って起きようとしていたみたいだが、結局睡魔には勝てずにソファーの上に倒れ込むなり泥のように眠り始めてしまった。いびきを立てながら、ソファーとその丸っこい身体が一体化してしまうのではないかというくらいにその身を沈めながら爆睡していた。

 新条も腕を組んで何やら考え事をしていたみたいだったけど、うとうとしているうちに眠りに誘われたようにそのまま静かになった。今度こそは本当に寝ているようだ、と七瀬は失礼と思いつつそれを確認したのち顔を上げた。
 眠っている二人に刺激されたのかは知らないけど、反射的にあくびが出てきたのでそれを噛みしめると涙が視界に浮かんだ。

「あなたは、いいの?」
「えっ!?」

 そんな彼の様子を見ていたのか、正面側に立っていた那岐の問いかけに七瀬がびくっと肩を震わせた。大袈裟なくらいに身を反らせながら、はずみでずり落ちた眼鏡を直した。

 何も女の子相手に、そんな反応しなくとも。恥ずかしさで顔から火が出るかと思った。

「眠らなくて平気?」
「え、あ、ああ……うん……」

 やや顔を俯けてから、もう一度彼女を見上げた。が、彼女の目を覗き込むとまたすぐ目を伏せてしまった。いつもの内気さ以上に、更に相手が話し慣れていない異性で、また美人なのだからそれはひとしおだった。

「大丈夫だよ、ありがとう」

 ぎこちなく答えてから、このやり場のない気持ちをどこへ向けるべきなのか迷い、七瀬は結局ぼさぼさになった自分の髪の毛を神経質に撫でまわすのがやっとだった。

 改めて、神代那岐はとても綺麗な顔立ちをしていると感じずにはいられなくなった。
 白人のような色素の薄さもそうだったし、少し骨ばって見えるくらいにスラッとした華奢な身体つきもそうだったし、落ち着いた態度も、全てが浮世離れしすぎていて同じ高校生とは思えないくらいだった。

「そう。……けど、眠れるうちに眠っておいた方がいいわよ。この先、きっとキリがないくらい体力を使うから」

 偏見かもしれないが、七瀬にとって女子高生というのは常に群れて行動し、一人ではトイレにさえ行かない子が多いような気がした。特に学校などという空間では、そうしていないと不安なんだと聞いた事もある。移動教室で一人、昼食で一人、休み時間も一人――そんな事は、彼女達の間では断じて有り得ない事のようだった。にも関わらず、この神代那岐という生徒は常に一人でいる事の方が多かった気がする。
 今更のように思い起こせばの話ではあるが、休み時間や放課後を、誰かのグループにも加わらずに過ごしていた筈だ。寂しそうでもなく、かと言って楽しそうにもせずに。そんな彼女の姿は、七瀬ら少年少女の群れの中に間違って飛び込んできた大人でしかなかった。

「ご、ごめん、那岐さんこそ疲れてるでしょ。俺、の代わりに、こ、ここ……す、座っていいよ」

 慌てて立ち上がり、自分の席を譲ろうとする七瀬だったが、那岐は軽く首を横に振った。

「いいえ。……隣、いい?」
「えっ、と、隣に!?」
「――そうよ?」

 不思議そうに言ってから、那岐はこちらの返事を聞くまでは立ちっぱなしになりそうだった。テーブルを挟んだ向こうのソファーでは、前田と新条が寝ていて、彼らを動かすわけにもいかないのだけど。

「う、うん、そうだよね、普通そうなるよね……何言ってんだ、俺ったら」

 テンパるあまりに繰り出してしまった七瀬のよく分からない一人芝居は無視し、那岐が隣にまで構わずにやってくる。慌てて横にずれて、スペースが許せる限りに離れてしまった。
 何度も繰り返すように、女の子が傍に来るのなんて小学生以来の事かもしれないし、それが美少女なんだから尚更心臓がやかましく血を送り出すのも頷けた。

「あ、あのぅ……」
「何?」

 とりあえずこの気まずい沈黙(そう思っているのは七瀬だけなんだろうけど)を埋めたくて、七瀬は会話をする事にした。

「さっき、那岐さんと行動し始めた時に言ってたよね」
「……何を?」
「世界がいくつもあって、同時進行しているって可能性の話」

 それは、『とりあえず』で話した内容にしては随分と核心に迫る話だと思うが、しかし事実気になっていた。答えてくれるかどうかは別にして、七瀬は諮問を続けた。

「その……これは個人的な興味みたいなものだけどさ……那岐さんは、他の世界も見ているの?」
「――どうかしらね。答えにくい話だわ」

 表情を崩さぬままに呟く彼女に、七瀬がまたもや慌てた調子になって返した。

「あっ、い、言えない事ならいいんだよ、無理して言わなくて、別に……!」
「違うの。……私自身、分からない事が多くあるから、自信を持って答えにくい……という事。どう説明するのが正解なのかが分からなくて」

 その様子からして、『話したくないわけではなく、答えが分からないから何とも言えない』……と、いった具合なんだろうか。

「そうなんだ。……ごめん、変な事聞いたね」
「いいえ」
「興味あったんだ、違う世界での俺ってどんな形してるのかなぁって。だって同じ姿とも限らないわけだよね」

 少しだけ笑顔を浮かべて話してみたら、那岐は意外そうに肩を竦めてこちらを見た。その様子が珍しく、本当に少しだけだが、彼女の感情的な姿に見えてこちらまで焦ってしまった。何かまずい事を口走ったのかも、と。

「え、い、いやゴメン!? その、ほんと、単なる興味本位……っ、あ、あ〜っ、えと、知らないよ!? 俺は別に何も知らないんだよ!?」
「――いいえ。違うわ、そんな風に解釈する人が珍しくて……少し驚いただけなの」

 良かった。別に怒らせたりしたわけじゃないんだ。七瀬は内心で胸を撫で下ろす。探り合いだ、もうほとんどこれは。

「……そうなんだ。俺は昔見たアニメでそういう話をたまたま目にして、そうなんじゃないかなって感じて。今いる世界では、勉強も運動もできない劣等生が、違う世界では何でも出来る優等生で、おまけに性別まで違ってるっていう」

 七瀬がもう一度顔を上げて、隣の那岐を見た。少し慣れたのか、今度は少し長い時間顔を上げていた。

「俺、ここではこんなにも情けない奴だけど。……違う場所ではもっとヒーローみたいにかっこよくさ、動いたり、戦ったり、色々と出来るんじゃないかな? とか、思ったりするんだ。やっぱりさ、憧れるんだよね、どうしたって自分にはないものには――惹かれちゃうよね」

 そんな子どもっぽい願望交じりの言葉を述べているうちに、不意にキルビリー達の姿が思い浮かんだ。あんな風になれたら、自分だって那岐や友人達を守ったりできるのかもしれないのに。

「――だったら、貴方にしかないものだってある筈よ」

 思いがけず、ぽつりと那岐の方から言葉があった。

「同じように、貴方に惹かれている人だっているんだから悲観的になる必要はどこにもないわ」

 七瀬は誘われるように、彼女を仰ぎ見た。表情こそ変わらないままであったけど、間近に捉えるその目は、宝石を集めたように綺麗に輝いていた。こんな時だというのに見とれてしまった。むしろ、こんな事態にならなくては、傍で見る事も叶わなかったかもしれないけど。

 那岐の言葉はその瞳と同様にどこまでも澄んでいて、穢しようのない尊さに溢れている気がした。自分には勿体ないくらいの、言葉だった。そしてそれは彼女から言われる事にこそ、意味があると思った。

「……、そうだね」

 だけど同時に、とても悲しくもあった。

「でも、それが……、そう思ってくれるのが君じゃなきゃ、俺にとっては何の意味もないよ」
「え?」
「ゴメン、何でもない!」

 慌ててその思いをかき消すようにし、七瀬は強いたように笑って見せた。それから話を変えるべく、糸口がないかと辺りを見渡した。けれど何も見つからなかったので、どうしようかと思い悩んでいた。

「え、えーと、那岐さんっ」
「なに?」
「その……那岐さんはさ、映画とか本とかそういうのは好きなの?」

 結局のところ自分の語れる分野と来たらそのくらいしかなく、まあ個人的に気にもなったので思い切って尋ねかけてみる。はぐらかされるかと思いきや、那岐は意外にも考え込むようなそぶりを見せた。

「……そうね……、あまり詳しくはないわ。彼らはそういう文化に興味津々みたいなのだけど私はどうも疎くて」

 彼ら、というのはキルビリーとロッキンロビンの二人の事を指すのだろう。その言い方に、改めて那岐含め彼女らが異質な存在なのだと知らされてしまう。

「貴方は?」

 期せずして、那岐の方から質問があって七瀬は一瞬ばかり戸惑った。

「貴方は、どういったのを好むの? 私にも教えてくれる?」

 少しだけ微笑む那岐に二重に驚かされてしまい、返答にやや間が空いたけれど七瀬は眼鏡を掛け直しながら何とかして答えを引っ張り出す。……不思議だ、ネット上でのやり取りならすらすらと文面が組み立てられるのにどうして実際に声に出すのは難しいんだろう。

「あ、あっと……映画だったら、その、ホラーとかパニック系をよく見るかな」

 こんな状況でそれを言うのはいささか躊躇われたしいかがなものかと思ったけど、そこまで考えられる余裕もなかった。

「古典だったらやっぱりロメロとかフルチとか、クローネンバーグの作品は全部チェックしてるんじゃないかってくらいに見てるかな。……あ、あ、そうだ、ねえ知ってる!? 今メジャーな大作映画を撮っている監督のほとんどは、マニアックなB級映画出身の監督とかポルノ映画の出身がほとんどなんだよ。『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンもそうだし、『スパイダーマン』のサム・ライミだって……」

 映画通の間では常識を通り越して手垢のついた知識ではあるが、嬉々としてそれを口にすると、那岐はやはり肩を竦めたままだ。そんな七瀬にも、静かに黙って耳を傾けているみたいだったが。

「逆に俺が苦手なのは恋愛モノかなあ、最近そういうの多いけど何かもう予告から直視できないの多すぎるよね――イケメンとアイドルに頼りすぎてるんだよ。顔と話題性だけでキャスティングしてさ〜、演技が本職じゃないアイドルを連れてきたって無理に決まってるよ!……あっ、あと漫画の実写もモノによるんだけど無理してハリウッドの背中を追っかけてるようなやつはダメだね。予算も足りない上に更に原作も完結していないうちから二時間の尺度に無理やり収めようとしてる時点でおかしい、うん! 邦画にはさ、もっと邦画に出来ない事があるんだからテレビ局にばかり頼らないでさ、『面白いものを作りたい』っていうそういう気骨のある……」

 オタク特有の『好きなものについて語らせると周りが見えなくなる』を地で行く七瀬だったが、変に早口で饒舌な彼の姿にも引く事さえせずに那岐は只じっと見つめていた。いつもは途中で止めに入るブレーキ役の前田がいるのに、彼が不在のせいかついついペラペラと語り続けてしまい気付くのが遅くなってしまった。

「……って。俺、何を長々と……ごめん、夢中になるとつい……」
「ううん。好きなのね、すごく」
「あ、ああ……うん……お、俺ばかり話してもアレだしさ、那岐さんは何か好きなものとかさ……前、休み時間に本を読んでいた気がするけど、読書するんだね? ど、どういうのが好き?」
「――何でも読むわ、知識を増やしたいから。貴方は?」

 またもや逆に質問し返されてしまい、七瀬は考え込んでから自分のリュックを手繰り寄せた。中を開くと、移動中に酔わない程度に読んでいたカバーのかかった文庫本を取り出した。既に皺くちゃになっていたが、それを那岐に差し出した。

「い、今読んでるのは夢野久作のドグラ・マグラっていうんだけど……もう何回か読んじゃったし那岐さんが好きか知らないけど読む? ていうかあげるよ、何かそれをプレゼントするのもどうかと思うけど……」
「どういう内容?」
「読み終えたら頭がおかしくなる本らしいけど、俺はもう十回くらい見ても平気だから那岐さんも平気だよ」

 よりにもよって持っている本がそれだけってのも――と、思いながらも、彼女と『何か』を共有してみたくてつい差し出してしまった。内容が難解で簡単に解釈できないから、つい何度も読み返してしまうせいで長旅の空き時間には適していると思って持ってきたのがそれだった。こんな事になるならもっと女子受けのいい本とか選べばよかっただろうか。

「でもいいの? 読んだら返すわよ」
「い、いや、いい! それ絶対読むの時間かかると思うし! そろそろ本は全部電子にしようと思ってたところだからさ!」
「――そう。ありがとう」

 再び肩を竦めながら、那岐はパラパラと手元の本を眺め始めた。

「本当ね。少し難しそう」
「う、うん、是非君の解釈を聞かせて欲しいな」

 その為には、まずここを生きて出る必要があると思うけれど。そういう意味を含めて、言ったつもりだった。それから那岐は、一度その本を閉じた。

「ねえ」
 
 視線はこちらを見てはいなかったが、那岐はそのまま話し続けた。

「私がもし……違う世界に行ってしまっても、『私はこの世界にいた』って事にしてもいいと思う?」
「え……? それは――、それは勿論、そうだよ。当たり前じゃないか、そんなの」

 それから那岐はやはりこちらを見ないまま、視線を下げたのちに言った。

「……不思議ね」

 俯いたままの那岐の声がほんの少しだけ、寂し気に思えた。

「こんな事、彼らにも言わなかったのに貴方にはこうやって話してる」
「……」

 恐らく彼女の言う『彼ら』とは例の二人の事を指しているのだろうけれど。彼女にとっては、あの二人が唯一の家族のようなものなのかもしれない。
 それで、七瀬は幾分かはにかんだ様子だった。緊張した口元が何度かもごつき、視線を忙しなくさまよわせたのちに結局はまた元の位置に落ち着いた。

 こうして七瀬は、絶好のチャンスを逃してしまうわけである。……まあ、告げたところで上手くいく可能性があるとも言い切れないけど。



 海沿いの廃ホテル。夜明けが近づいてきたのを見計らうようにし、梶原は極力コンパクトになるよう荷物をまとめてから立ち上がった。先程からずっと不安そうに俯きがちな森田だったが、そうなってしまうのはこの状況でならば当然だろうと言えた。

「大丈夫? 森田さん。ホラ、行こう」

 やはり、依然として青ざめたままでいる彼女の手を引いた。驚いてその手を放してしまいそうな程、体温が低かった。しかし、それに構っている余裕すら今は惜しく、梶原は部屋を後にしたのだった。

「あの、か、梶原さん、ちょっとごめん……」
「? どうかしたの、早くしないと――」
「ちょっとだけトイレに寄らせてほしいの。さっきからずっと気持ち悪くて、少しだけ吐いてくる。……そしたら楽になると思う」

 彼女が強い心労をずっと我慢していたんだろう事は伝わってきた。道中で具合が悪くなり進行が中断するともっと危険だろうし――、梶原はやや迷ったのちに、しかし頷いてそれを了承した。

「分かった。……でも出来るだけ急いでね、先に外で待ってるから」

 やはり森田は優れないのだろう、あまり快調とは言えない具合に何度か頷いた。それから、フラフラとおぼつかない足取りで廊下を歩いて行った。まるで酔っ払いのような歩き方だったが、介助なしに何とかして辿り着けそうではある。

 一先ずそれを見送り、梶原は再び歩き始めた。猶予はもうない。歩くしかない、少しでも。
 ホールへと続く螺旋階段を降り、一階をひたすら歩き調理室を抜けて裏口へ。表の玄関ではバカ騒ぎする同級生らの声が聞こえてきた。吊るされたゾンビで遊んでいる姿が容易に思い浮かんで、余計に気分が悪くなった。

(ゾンビだからって何をしたっていいのかしら。……彼らも元は人間よ?)

 だけど、そう思う自分が異常で、本当は彼らの方が正しいのかもしれなかった。――考えるのは後にして、今は先を急ごう。
 あらかじめ開けておいた裏口の扉へと手をやる。猶予を挟まず、一気にその扉を引く。少し肌寒い空気が流れ込んだのち、開かれたその扉のすぐ向こうに――人が立っていた。

「っ……!」

 息を飲み戦慄し、思わず手にしていた工具用のハンマーを持つ手に力が籠ったけれど、その手はすぐに止められた。非常に見覚えのある姿かたち。違う、ゾンビではない……彼女は……、

「!?……森田さん……」

 他でもない、先程トイレに向かった筈の森田のようだった。その両手に荷物が見当たらない事に不思議を覚えたのだが、彼女の汗と震えが尋常でない事に気付き、強烈な寒気が自らを打ちのめした。
 森田は震えながらその声を絞り出していた。

「か、梶原さん……私――、私……」
「?――ど、どうしたの……?」

 彼女は怪我をしていただろうか? 分からない。思い出せない。見える部分でどこか負傷していたようには見えなかったが、フェリーの中でもし何かあったのだとしたら……噛まれていたのだとしたら……梶原は降ろしたはずのハンマーへと再び意識を集中させた。
 後ずさり、どうか、お願いだからこの手を振り上げさせないでくれと祈りを捧げた。

「……っ!」

 そのまま背後にいた、別の人物とぶつかったらしい。どこまで間抜けなんだと慌てて振り返ると、そこにいたのはここに来るまでの間行動を共にしていた女子生徒のうちの一人。……実に不機嫌そうな顔をした木戸だった。

「梶原ァー。全部聞いたよ、森田から。随分とろくでもない事企むね〜?」

 嫌悪感いっぱいのそんな彼女の表情とぶつかり、梶原はまたもや後退させられる事となった。使うつもりはなかったけれど、ハンマーを持つ手を微妙な角度で持ちつつ後ずさると、すかさず木戸の後ろから出てきた進藤が梶原の手からハンマーを奪いあげた。
 
「これ、武器? へ〜、しょぼいねー」

 あざけるように言うと、進藤は若干錆の目立つそのハンマーをしげしげと見つめた。 梶原は、森田を振り返り強い調子で言った。

「森田さん、一体これ……、これはどういう事なの!?」
「ごめん……ごめん、梶原さん……私、怖くて……もう誰も信じられなかった……」

 震えながら話す彼女は、両目に涙をいっぱい溜め込んでいた。知りたいのはそんな事ではない、彼女が何をしてこうなったのかという過程と結果だ。

「弁解よりも何をしたのか教えてよ!」
「凄まない凄まない、大声出したらゾンビが集まってきちゃうでしょー」

 森田を囲むようにして続々と姿を見せ始めたのは他の男子生徒らだった。舌足らずに話すにやついたその男は、整った顔立ちなんであろうが、瞼の上と右耳の軟骨に至るまでピアスが光っていた。ここまで来るとかっこいい・悪いの問題ではなくて、主張しすぎていてどこかの民族みたいである。

「ま、その大声を活かしてちょっと一働きしてもらおうや」
「ね、ねえ……さっきの話だったら、もうお終いでしょ? このまま帰るんでしょう?」

 酷く怯えたように、森田がそのピアスで武装した中心核の男に問いかけた。男は笑ったが、歪んだ笑顔だと思った。

「このままこうしてたってなーんにも始まらないどころか、むしろ終わりもしないよ。君達も助かりたいんでしょ? なら、もうちょっと行動ってものを起こそうよ。な?」
「……」

 一向に話が見えてこずに、進藤と木戸に両端から抱え込まれたまま梶原は只呆然としていた。

「――あ。ま、簡潔に説明すっとね。君がさ、俺達に黙って何かしようとしてるって話をこの子が俺達に教えてくれたわけね」

 理解した? と、男はぺろっと舌を覗かせた。その舌がまるで蛇のように二股に分かれているのがこの距離からでもはっきりと見えた。妙に舌足らずな話し方をするのは、そのせいなのか。

「俺達も協力してあげるよ、その子に用があるのは同じだから」
「で、でも……」

 とてもじゃないが彼らが好意的な人種には見えないのは初めからで、梶原は眉間に皺を寄せるばかりだった。

「ちょ〜っとさ、あそこまでついてきてくれる? 行動は何でも早め早めだ」

 そう言って蛇男が、集落の先――ここよりも少し北の方角を指差した。道路を挟み、少し上がった先。蛇男が指しているのは、恐らく、その高台に位置している、展望台のような建物。きっとあれだ。あの場所なら、この島全体が見渡せるかもしれない。

――あんなところで一体何を……、

「さ、ちゃっちゃと行こうぜ」

 歩くつもりはなかったが、両端の二人がそれを許さなかった。罪人のようにほとんど無理やり引っ張り出され、梶原は結局足を進めざるを得なくなったのだ。

「……なあ、この絶望的な状況であってもさぁ、希望を捨てずに『可能性に賭けてみる』ってさぁ――スゲーいいと思わねえか? 何があっても諦めないっていうその誇らしい気持ち、俺そういうの好きなんだよねぇ。高校球児ばりのチャレンジ精神、泣けちゃうんだよなぁ」

 似つかわしくない台詞を吐きながら、蛇男は足を進め続けていた。この容姿でそんな事を言うからおかしいのか、この状況で言うからおかしいのか。判断はつかなかったが、事態は思わぬ方向に流れているのには違いなかった。




あああああ〜〜〜〜
この二人(那岐さんと七瀬)いいなあああああ。
書いてて心が洗われたぞよ……眼鏡カップルだ。
このくっつかない距離がいいんだろうな。
しかしドグラ・マグラ渡すとかそんなんだから
七瀬君は可愛い顔しててもモテないんだよw
しかし何度見てもヤフー知恵袋にある
「息子が「ドグラ・マグラ」という本を持ってます」って
質問の回答に涙出るくらい爆笑する。最高。
さて、ここでお気づきの方もいるかもしれないが
エルさん、インテグラルの登場時に
電車の中で読んでいるんだよね。本を。
ああああああ〜〜〜〜〜!!!!!
ああああああああああああ〜〜〜〜!!!

30、彼女の世界にある救い

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