ちょうどいい手頃な休憩室も見つけられたので、そこで一同は落ち着く事となった。喫煙組とそうじゃない組の二手に分かれたのち、結局のところは『高校生グループ』と『そうじゃない者グループ』に分かれたような形に収まったらしい。
 高校生組である七瀬と前田はこれからの事について何か決めようと思い、お互い話し合ったのだけど、結局大した結論も出ないままに終わってしまった。

「……あーあ、『ラブプリ』の続き今夜ニコ動で配信予定だったのに。もうやってんのかなぁ、今頃実況盛り上がってるんだろうなあ」

 傍から見れば空気の読めない発言だったかもしれないが、七瀬から見ればそれは前田なりに自分に気を遣った結果なんだろうなと分かっていた。いつも自分達が日頃していた、日常的な会話だった。彼は精一杯に、『普通』でいようと振る舞っているんだろう。

「前やん、少し寝たら? 俺が見てるからさ、平気だよ」
「バッカおめぇ、夜更かしはオタクの得意技よ」
「……そんな事言って、目の下クマ凄いよ。大丈夫だからさ。新条なんか早々に寝ちゃったよ?」
「――起きてるっつーの、横になってるだけだよクソども」

 それで、ソファーの上で毛布に包まっていた新条がもぞもぞと動いたのが分かった。

「あ……」
「大体てめーらはさっきから呑気な会話ばっかり繰り返しやがって。ゲームだの漫画だのアニメだのとよぉ、そんなもんばっか見てるからいつまでたっても彼女の一人や二人も出来ねえんだよ童貞どもが」

 ぶつくさ言いながら起き上がり、新条はテーブルの上にあったミネラルウォーターをおざなりに手に取った。言い草はアレだったけど、さっきよりもトゲトゲしさやら冷たさやら、他者を徹底的に排除しよう、みたいな感じはなくなった……ように思えるのだけど、どうなのだろうか。実際のところは。

「チッ――この馬鹿げた事態をとっとと終わらせるにはやっぱり神代に問い詰めるしかねえかな。あいつ、口堅そうだから何も言ってくれないっぽいけどよ……お、噂をすれば来やがったな?」

 実にタイミング良く、扉を開き室内に入ってきた那岐を三人が視界の端に留めた。彼女がやってくるなり、新条がちょうどいいと言わんばかりにすっくとその場から立ち上がった。

「おい、神代。そろそろ話してくれてもいいだろ、これが結局何なのか」
「……私達もそれが知りたいから行動してるのよ」

 手慣れた那岐の返しに、新条が言葉に詰まる。表情一つとして変えない為に、余計に心理戦やらが通用しない困った相手だと思った。……詰まるところ、話術やら交渉術やらそういう回りくどいやり方では、時間だけが無駄に消費される。そういうわけだ。

「まーたそうやってうまい事ごまかす。――ホンット無表情作るのが上手だよねー、お前さん?」
「――って、新条!?」

 彼が何をする気なのかオタク二人は見守るしかできなかったが、流石にそれは止めるしかなかった。新条は先程得た武器のうちの一つ、オートマ式の拳銃を手にしていた。かちゃり、と金属部分を響かせて、那岐にしっかりと向けていた。

「ばばば、お前、ばかっ!」
「お前らよりは賢いってんだよ、間抜け共」

 躊躇する様子なんぞはまるでなく、新条はやめるどころかむしろ殊更に銃口を突きつけた。自分を誇示するかのようにして、無機質なその金属の塊を那岐のこめかみ辺りに沿うようにして掲げていた。

「今はお前を守るあの変な連中もいないみたいだし、な。……格好のチャンスじゃねーの、何も知らないとは言わせないぜ?」
「し、しん、新条ッ! やめろッてば!」

 七瀬が慌てふためいてそれを止めさせようとするものの、彼がそれを聞き入れる気配は微塵にもない。どこまでが本気であるのかが掴めず、七瀬はどう出るべきなのか考えあぐねていた。その矢先に、那岐はやはり静かな調子で口を開いた。

「……貴方は――、貴方は一体、何をそんなに怖がっているの?」
「ハァ?」

 そして突きつけられた拳銃には頓着しないままに、那岐は落ち着き払ったままの様子で返したのだった。いつものままの、彼女だった。

「死ぬ事以外にも、何かに対して酷く怯えているのが分かるわ。傷つけられる前に誰かを傷つければ、自分の身が守れる……それが最大の防衛手段だと、そんな風に思っている?」
「何言ってんだこの女。お前さ、今の自分の状態分かってるのか?」
「撃ってもいいわよ。別に」

 そのまま煙にでもまかれるのかと思ったが、彼女の『答え』はしっかりと言葉になって返ってきたのだった。

「けど、よく考えてみて」
「……あぁん? 何だよ?」
「あまりこういう事は言いたくないのだけれど、時間もかけていられないからあえて言わせて頂くわ。……貴方、これから先、自分で自分の身が守れる? ここまで五体無事に来れたのは誰のお陰だった?」
「それは――」
「ここで私を殺したっていいけど、そうすれば“彼ら”も従う理由がなくなる。それどころか二人は貴方を殺しにかかるかもしれないわね」

 そう告げた那岐の顔がどこか冷たく、人ならざる何かを感じさせて新条だけじゃなく見つめていた七瀬と前田をも圧倒したのだった。彼女は――那岐は――、そうだ、彼女もきっと目的を果たす為とあらば遠慮なく誰かを『殺せる』人間だ。

 そして新条は今、拳銃を彼女の額に向けた事で『あとは引き金を引くだけ』だと、勝利を確信し切っているのだろうが……違う。大間違いだ。きっとそれよりも早く、那岐の抜刀が彼の指先を、或いは腕を、いやいや或いは首をばっさりと持ってゆくのが先だ。この短い数秒間のうちに新条もそれを理解したのだろう。
 舌打ちと共に、彼女を怒らせてしまわないうちにそれを下げた。

「ちぇっ……」

 ままならなくなったよう、拳銃を投げ捨てて、新条は負けを認めたように自身もソファーの上に崩れ込んだ。

「こうでもしなきゃ無理かなと思ったけど、それも駄目だったかよ。クソ」
「……ごめんなさいね、貴方が本気じゃない事は分かっていたのよ。その銃にも弾が入っていないの事も知ってたわ。でも、ここで容赦してしまったら今後にも響くかと思って」
「そこまで見抜いてたのかよ。食えねー女だな、ホント」

 一応、新条なりに覚悟を持って挑んだつもりではあったのだろう。形はまあ、置いといて。が、それもあっさりと、那岐は看破してしまったわけである。新条が愚かだったわけではない。那岐が一枚も二枚も上手だった――きっと、只それだけの話だった。

 一方で別室は、喫煙者の溜まり場になっているようだった。その部屋にはパソコンが置いてあり、柏木が一縷の望みを託して立ち上げてみるもやはりネットには繋がっていない事を知り落胆していた。

「一体何なの、その妙な箱は?」
「え……パソコン……、ですけど……」
「ぱそ、こん。……ねぇキルビリー、聞いた事ある?」
「あー、あるよあるある、あの丸くて顔から毛の生えた猫みたいな奴でしょ」

 見向きもせずにキルビリーはスパスパと煙草を吹かしており、しかもその煙草から地獄のように甘ったるいニオイが拡散されるのを柏木は妙な心地で受け止めていた。果実系のこの香りは、初め香水でもつけているのかと思っていたが、そうじゃなくてフレーバー系の煙草を吸っているとの事であった。

「その匂い嫌いなのよ、ちょっと控えて」
「じゃあ出てけばいいじゃん、隣に行けば?」
「……人の気も知らないで」

 チッ、と舌打ちをさせてから、ロッキンロビンが苛立った様子で部屋から出て行ってしまった。

「おー、怖ッ」
「い、いいのかよ……怒らせてんじゃん」
「そのうち直るよ、後で何か甘いものあげときゃ忘れてくれる」
「――いや、そうじゃなくてさ……こんな危ない状況で一人にするなって。一緒にいてやれよ。恋人だろ?」

 何となく気になっていた疑問を上手い事消化させてみると、キルビリーはその甘ったるい煙草を灰皿に置いてから、鼻先で笑った。

「冗談きついわ、家族だし」
「え……あ、そ、そうなんだ。姉さんか? それともまさか、妹?」
「いや。母親」
「…………」
「ん? 下手したらばーちゃんかも」

 いや。冗談はどっちだよ。そんな顔をさせながら、柏木は事務用の回転椅子に腰かけたままキルビリーを振り返った。いや、百歩譲って母親ならまだ納得がいった、今時綺麗で年齢より若く見える母親は大勢いる。美魔女とか何だとか呼ばれる方々が存在しているのも知っているし、――しかしばあさんってのはないだろう、ばあさんってのは。

「信じられないって顔してんな。まあ、当然だろうな。お前達の繁殖の仕方とはわけが違うからね」
「……そうだった。俺、今お前と普通の人間と同じ感覚で話してたよ」

 常識の通じない相手だという事をすっかり失念していた。そうだった、彼らは――人間ではないのだった。ここにいるとどうも正常という文字も霞んでゆく、普通とは何だったのか麻痺していきそうだ。

「人間みたいに単純だったらいいのにな、俺達も。そうはいかないんだよなぁ」
「……人間も結構複雑で面倒くさいけどな、色々と」

 独り言のようにぼやくと、キルビリーはまた鼻先で笑い飛ばした。その笑い方が、やはり少し木崎と被って思わず目を逸らしてしまった。何となく失礼な事をしてしまった、と申し訳ない気持ちにさせられてからすぐにハっと思い出す事があった。

「あ、そうだ!――ごめん、さっきから聞かなきゃって思ってたけど」
「何?」
「怪我……その、俺のせいで……しただろ」
「ああ」

 それでようやく思い出したかのようにキルビリーが眉根を持ち上げて頷いた。それから煙草を灰皿に押し付けると、背広を脱いでから、首元のネクタイへと手をやった。緩めたのちにそれも外し、ついでにシャツのボタンを外してくつろげ始めた。

「傷跡、見てみろよ」
「……」

 言われて目をやると、背中から脇腹にかけての切り傷がほとんど塞がっているのが分かった。それなりに出血はしたのか、シャツに変色した血液痕は付着しているようだったが深く切られた筈のその傷はほとんど目立たなくなっている。

「――この通り。ほとんど完治してるから、お気になさらず」
「……、すげえな」
「だろ? でも、ま、不死身ってわけじゃないから、こう、一気にガッ! とされて、グサッ! と、されれば死ぬ時は案外呆気なく死ぬんだけどな」

 あっさりと認めたように呟く姿が、あんまりにも投げやりな気がして脱力してしまう。先程彼があのロッキンロビンに叱られた理由も少し理解できた、もう少し命――というのか、こいつらの場合は――何だろうな? 生命? 魂? を、大事にした方がいいんじゃないのか。
 やはり彼らと親しくするにはどうにも常識のネジを緩める必要があった。超人・変人は木崎で慣れっこの筈が、更にその上を行く存在に出会うとは。……いや、どうだろう、と思い直した。

 木崎も、正直まだ深い仲かと言われたら、そうじゃなかったのかもしれない。キスもしたしセックスと呼べる行為もしたし同棲までしたけど本当の意味での『距離』っていうのは全くと言っていいほど近づかなかった。じゃあ――、だとしたら、あの日々には何の意味もなかったんだろうか。
 自分は彼に『殺してほしい』だとかそんなよく分からない感情と言葉で、本当はずっとずっと、逃げ続けていたのかもしれない。心を開いて、もっとお互い近づきたかったのに、今思うと木崎にも全てを見せて欲しかったし自分も全部を見せたかったのだ。それでいて愛してほしい、だとか傲慢すぎる事を考えていたから、彼は自分の元からいなくなってしまったのかもしれなかった。繋ぎ止める事ができなかった。の。かも。しれなかった。

――結局何も知らない。彼の事を。そうか、そうだったのか……、

 自分で導き出した考えに一人で勝手に打ちひしがれていると、キルビリーはそれを察したのか――いや。多分、何も考えていないのだろうとは思う。

「眠気覚ましに一本、どう?」

 その、異常とも言うべき甘さを放つ煙草を差し出してきた。眠気覚まし、と彼はいたずらっぽくニンマリと笑ったが本当に目が覚めるくらいに甘々とした香りがしていた。洋物っぽい銘柄は、紙巻き煙草のようであった。果物のような煙草らしからぬフレーバーにはやっぱりどうしても顔をしかめてしまい、それでも一本、何となく拝借した。

 柏木自身、決してそこまで吸うわけでもなかった。が、夜通しでの勤務の時はよくロッカーに忍ばせた煙草を吸ってはひと時の休息を楽しんでいた。頻度こそ少なかったものの夜明けの疲れ切った時に口にするニコチンの一服はひと際美味しいもののように感じられた。片時も煙草を手放さない喫煙者がよく言う「美味しい」とはああいう事を言うのだろうな、と何となく通ぶった事を考えながら吹かしこんでいた。

「……しかしまた、女みたいなの吸うんだな」
「甘くて美味しいからね。苦いのと辛いのは苦手なんだよ」

 だったら別に煙草じゃなくとも、とも思わなくもないが何か「これじゃなきゃ」というものがあるんだろう。多分。無邪気に微笑むキルビリーは当初抱いていた時のイメージよりもずっと幼く見えた。

――しつこく比べちゃって申し訳ないけど、木崎よりは多分すれてないな。こいつ

 こんなになってもまだ彼の事を考えている自分に、いい加減反吐が出そうにもなる。どれだけ未練たらたらなんだよ。

「なあ」
「……何?」
「帰れたら、会いたい奴とかいないの」

 ちょうどそんな事を考えていた時に、キルビリーの方からそう聞かれたので、一瞬心を読まれたんではないかと身構えた。相手は人間じゃないんだから、どんな能力を持っていてもおかしくないぞ。
 そんな事を考えているうちに、自然と警戒したのかやけに口ごもってしまい曖昧でぎこちない答え方になってしまう。

「……難しいな――いると言えばいるし、いないといえばいない」
「何だよそれ。恋人とか、奥さんとかさ? 何かそういう面白い話もないわけ?」

 深く突っ込んでくるキルビリーに、何やら途端にあれこれ考えながら彼と接するのが面倒くさくなった。まどろこしいのは性に合わない、もう何でもいいか、どうせこの状況で生き残る保証もない。開き直りに近い心境で、柏木は煙草を口から放した。

「別れたんだ。悪いかよ」
「あ、そうなんだ。それはごめんちゃい」

 謝る気ないだろ、といった具合の謝罪だったが柏木はそれに反射的に笑ってしまった。絆されたようについ、話す気のなかった事まで口走ってしまっていた。

「そいつ、何かお前にちょっと似てるって思ったけどよく見りゃあ似てなかったな」
「……俺に? いや、勝手に決めといてそりゃないわ。ま、俺の方が魅力的だったと気付いたわけね」

 同じ性別であるという部分はあまり拾わずに、キルビリーはあっさりと返してきた。

「いや。顔云々じゃなくて……雰囲気とかの話だよ、何ていうかその妙に達観した感じとか。似てるかなって思ったけど、そんな事もなかったなーって。あとめちゃくちゃ強かった、腕っぷしが」
「は? 俺も強いし」
「どうかな。それは認めるけど、きっとあいつの方が強いぞ。多分」
「えぇえええ……? 絶対そんな事ねえから。俺の方が格上に決まってるよ」
「武器なしの素手同士だったら絶対にアイツが勝つな。お前が人間じゃなかろうとあいつが勝つ」
「何ッだ、それ。そこまで喧嘩売られて見過ごすわけにもいかなくなったなー、ちょっと連れて来いよそいつ」

 互いに引っ込みがつかなくなったようにムキになっているうちに、それもおかしくなっていき気付くと吹き出してしまっていた。柏木は慣れてきたそのクソ甘い味を再び口に運び、肺に吸い込んでから一度吐き出した。

「……お前の方こそいないのかよ、会いたい人」
「いる」

 何気なくかけたこちらからの質問だったが、キルビリーはほとんど即答と言っていい早さで答えた――「いるよ、会いたい奴」。ああ、恋人がいるのか。そうだろうな、いてもおかしくないわな、と妙に納得しながら何も言えないままにキルビリーを見ると、彼の顔からは笑顔がかき消えていた。

「会って殺さなくちゃいけない奴がいる。そいつを殺るまでは死ねない」
 
 今までの楽し気な様子から一変して、実に殺気立った気配に緊張が走った。気を緩めすぎたんじゃないか、と自戒の念に晒される程に冷たげな姿だった。

「……」
「ま、会えるかどうかは知らないけどね」

 こちらが緊張した事を悟ったのか、キルビリーはまた固く張り詰めたその顔を解いて少し肩を竦めた。

「――ん〜、だからここでは死ねないんだよなあ。生憎」

 しばしの無言の間、柏木は吸い忘れたまま燃えていく煙草の煙を見送っていた。そして思い出したように、立ち込める紫煙を見つめたままぼやいた。

「……そうだな。俺も――、死ねない」
「そいつとまたやり直す為、か?」
「……ああ」
「はー……無理無理。元に戻っても続かないよ〜、そんなの。惰性でだらっだらと関係続けるだけになるって」

 途端に砕けた調子に立ち戻るキルビリーに柏木も苦笑を浮かべて応じる。何でそういうところは妙に人間臭くなるのか、不思議でならない。同族なのであろう女性陣二人がクールだから、余計にそう感じてしまう。

「かもな、でも情が沸いてるのもあるから、そう簡単に終わらせられないんだ。――今更やめるのも無理だなって」
「ううっわー。腹立つなぁ、その笑顔。……本当にそいつの事、好きなんだ?」
「? そりゃまあ、そうだけど」

 ピンと来ないような顔つきでいる柏木に、キルビリーは更にイラついたようにこれ見よがしな舌打ちを響かせた。やはり分からないとばかりに腑に落ちないような顔をしていると、焦れたようにキルビリーがソファーから立ち上がった。

「な、何だよ……一体……」
「借り、返せ。今すぐ返せよ。身体だ、身体で支払えよ、こんちきしょーめ」
「!? ちょ、っ……どういう事だよおいっ!」
「男と付き合ってたんなら話早くて助かるけどな。ロッキンロビンが戻ってこないうちにちゃっちゃと済ませるぞ」

 彼が何をしようとしているのかようやく思惑が読めて、柏木は今度こそは思い切り動揺していた。いや、もう、いい大人なので別に責任が発生しない間柄でのそういう事なら、いいんだよ。別に。いーんだけどさ。別にいいんだよ。あんたとヤるのは構わないけどもしそれが木崎にばれたら嫌なんだよ。俺としては最悪な問題なんだよ。知れたところで木崎は何も思わないのかもしれないが、俺はとっても嫌なんだよ。だって木崎の事が好きなんだから。

「なっ、何、何何!? なに急に盛ってるんだよ、お前!?」
「何万だ? あ? じゃあ何万詰めばヤッてくれるんだ? 言ってみ、早く?」

 何度もひっぱたいてみたが、その攻撃はほとんど無意味だった。……そりゃそうだけども。

「怖いから叫んでどうにかしようとするとか、お前可愛いな」
「俺に欲情してるわけじゃないくせに、離せよ!」
「してるよ。してるからこうしてるんでしょ。――何か凄い腹立つんだよ、そいつに負けた気になって。さっきからそいつの話ばっかりだし、屈辱だろうが、こっちとしちゃあよぉ」
「……」

 そういえば、だけど、木崎と初めて寝たあの日、何故か嬉しかったのにその事実が異様に悲しくもあった。どうしてだろうかその理由について、今もまだ分からない。
 またいつか、彼と出会える日は来るのだろうか。彼にきちんと思いを伝えられる日は来るのだろうか。言ったところで、あいつは何も答えないし笑ってやり過ごすのかもしれないが。

「……してもいいけど、貧乳相手に正常位でしててもつまんないからケツ向けてくれないか?」
「うっわ、遂に本性出したなこの野郎。その顔で今まで何人掃いて捨ててきたんだよ、色男め」

 柏木の言葉にキルビリーが半笑いで答えた。こうなってしまった以上はもう、やっぱりやめた、とか、そういうのは無理だろう。いや無理だ。どう考えても。無理。見た目どう見ても人間でしかないのだが、そうじゃない相手とヤる事になろうとは、何が起きるか分からないものだと思う。

「どう、どう? うまくないですか、俺の舌技。元彼と比べてどうよ」

 あほか、答えてやるもんか、と柏木は木崎と同じ口の端だけを持ち上げた笑い方を自分自身がしている事に気が付いた。すると、扉の開く音がして同時にその方向を見た。あ、と似たような声が漏れた。

「……」

 そこに立っていたロッキンロビンはやはり動じないままであったのだが、流石の彼女であっても全てを見なかった事にし、その扉を再び閉めた。絶妙な加減の『見て見ぬふり』であったのは言うまでもない。

「うわ、やっべえ。バッチリ見られちゃった」
「……どーすんだよコレ」
「――ま、大丈夫だよ。ホラ、ああやって気を遣っていなくなってくれたし? 息子のオナニー警戒して二階に上がる時わざと足音大きくする親いるじゃん、あの優しさと同じやつだよ」

 何故、そういうところばかり妙に人間臭いんだろう、と突っ込まずにはいられない自分は少し細かすぎるのだろうか……。 



エロイとこは想像に任せるわ。
ロッキンロビンちゃんが訴訟社会の欧米人だったら
オマエ、マジデ、訴エル、って数億円の賠償であっただろう。
皆さん、きっとそれぞれに『●●マニア』と言える
得意分野が何かがありますよね。
皆さんは何マニアですか? 
私はうんこです。うんこ・マニア

29、ファック・ザ・恋愛体質

prev | next

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -