11.Special situation


隣で丸くなって寝ているトラを見ながらうとうとしていたとき、携帯電話が赤い光を放ちながらぶるぶると震えた。今日は飲み会に行くことになったって聞いていたけど、どうしたんだろう?まさか、と思いつつ携帯を耳に当てると、居酒屋特有のがやがやとした雑音が響いた。

「もしもし?」
「あ、もしもし?はたけカカシです」
「え?」

聞こえてきたのは携帯電話の持ち主ではない人の声。でも、この名前は聞いたことがある。確かあのときの合コンで私を押し潰したイタチさんの先輩、いつぞやのご結婚祝いの飲み会の幹事さんだ。

彼の話を聞いてみれば、どうやらイタチさんは結構酔っ払ってしまったようで、迎えに来てくれないかと私に言った。イタチさんが自力で帰れなくなるほど酔うなんて珍しい。そう思いながら私はそれを快諾し、お財布片手にマンションを飛び出した。
タクシーを掴まえ、行き先に駅前の飲み屋街を告げる。到着3分前に電話をすれば再びカカシさんが出て、ありがとう、待ってるからとの返事。実際に到着した頃にはカカシさんとイタチさんが店の外のベンチに座って待っていた。

「遅くなってすみません!」
「こちらこそ、夜中にごめんね。寝てたかな?」
「や、大丈夫です、それより、イタチさん…」
「火芽…悪い」
「あ、いえ、体調は大丈夫ですか?早く帰りましょう」

私の言葉を受けてふらふらと立ち上がる彼は本当に酔っ払っているらしい。
肩を支えてタクシーに乗せ、カカシさんに深々とお辞儀をした。

「夜中に悪かったね」
「いえ、…珍しいですね、こんなに酔ってるのを見たのはあの飲み会ぶりです。」
「ちょっと飲ませ過ぎちゃったみたいね。ま、でも火芽ちゃんみたいな人がイタチと一緒にいてくれるとすごい安心するよ」
「えっ」
「やー、今までのはイタチの顔とか収入とか、そんなんに飛び付いてきた女ばっかだったからさ」
「…そうだったんですか…」
「うん、だからイタチがこんなに女の子好きになるのも、大事にしてるのも初めて見たよ」
「……」
「焦る必要はないけど、…ま、イタチは早く火芽ちゃんを手に入れたいんだと思うなぁ」

これは長年一緒にいる俺の推測だけどね、なんて付け加えて、カカシさんは私の肩をポンポンと優しく叩いた。それに返事をする直前、タクシーの窓がコンコンと鳴る音で振り返る。酔っ払ったイタチさんが虚ろな目で私を見上げた。カカシさんにまたお辞儀をして、タクシーに乗り込む。カカシさんに手を振ってタクシーが発進してもまだぐるぐると頭を巡るさっきの台詞。
肩にかかる彼の頭の重力を感じながら、いつも冷静な彼がそんなことを思ってくれていたんだと微笑んだ、瞬間、太ももにぞわぞわと嫌な感触が這い上る。イタチさん、起きてるの?そう聞いても答えない彼の左手はつう、と太ももを撫で上げて遂には両足の付け根の中心をぐりぐりと指先で押し撫でた。

「ひっ」
「お客さん、次の角は?」
「あ、左で、その次は右で…2つ目のマンションです」
「はいよ」

タクシーの運転手と話している間も止まらない手の動きに自然と息が上がる。腕を掴んでも、これでもかとばかりに睨んでも彼の指は衣服の上からその一点だけを執拗に攻め立てて、そんな中タイミングよく踏まれた急ブレーキに食い込む指。思わず飛び出た小さな叫び声に口を押さえた。

「すいません、通り過ぎちゃうとこだった!こっちのマンションだよね?」
「あ、はい、そうです」
「えー、2,890円です」
「はい」
「はい、ちょうどいただきます」

マンションに着いた瞬間大人しく手を引っ込めるイタチさんにホッと胸を撫で下ろしつつ、お勘定を済ませて彼を支えながらエントランスに入る。若干千鳥足なところを見ると確かに相当酔っているようだ。やっとこさドアの前まで辿り着き、扉を開けると肩に強い衝撃が走る。
閉められたドア、押し付けられた肩、息が荒いままの彼の熱い唇が私の唇と重なった。
途端にさっきまで触れられていたそこがじんじんと疼き出す。彼から吐き出される息はアルコールの香り。力が抜け、かくんと折れた膝。どちらからともなくゆっくりと靴を脱ぎ、また唇を重ね合わせる。大きなソファーに身体を沈めたときにはお互いにもう充分出来上がっていた。
彼の熱い舌が私の陰核をねっとりと舐める度に跳ねる腰。両足を開いた状態でソファーに座らされ、そんなことをされてはただ喘ぎ声を上げることしかできず、ああ、と切なく啼けば太ももの内側に紅い華が咲く。

「火芽…愛してる」
「ん…っ私も、」

今度は彼をソファーに座らせて、その昂りを根本から舐め上げ、口に含む。先端を吸えば籠るような声が口端から漏れ、男根は質量と硬度を増した。咄嗟に大きな手のひらが私の頭を撫でる。

「挿れたい…」
「、っん、」

掴んでいたものから口を離し、腕を引かれるがまま彼を跨ぎ両肩に手を置いた。押さえられた腰をゆっくりと下ろせば蜜口にあたる彼の先端。舌を絡ませ合いながらさらに腰を沈めればずぷっと奥へ侵入する男根に身体が震える。自身の体重がかかり最奥まであたる男根に目眩を覚えながらもゆるゆると腰を前後に揺らせば抱き締められる身体。呻き声を漏らしながら首筋に噛み付く彼が愛しい。ずっとこうしていたい。

「ああ…っ、」
「気持ち良い?」
「良い…凄く良い、もっと激しく、…っあ」
「気持ち、い…っ」

少し冷房の効いた部屋で熱く火照った身体を重ね合わせて、繋がり合って、無我夢中に腰を振って。奥底から沸き上がる快感が渦を巻いてじわじわと体内を侵食していく感覚に思考回路が飛んだ。
彼が突然唇に噛み付き腰を打ち付けた瞬間、頭が真っ白になる。ああ、彼の絶頂が近いんだと察して腰を振る速度を上げた。響く粘着音が耳を犯す、その音が大胆さを煽る。
いつもならこんな風にいやらしく腰を揺らすことなんてしないのに、彼が酔っていると言うことと、このシチュエーションだけでこんなにも化ける自分。
彼が耳許に口を近づけ苦しそうに息を吐いた。

「イく…っ」

びくん、私の膣が達するのと
どくん、彼の先から白濁が出たのは数秒の差で。
彼の腰は暫くの間全てを吐き出すかの如くゆらりと動く。私は彼の胸に凭れ息を整えることで精一杯。そんな私を抱き締めたまま、彼が微笑みながらゆっくりと目を閉じる。まだ後処理もなにもしていないけれど、こんなのもたまには悪くない、か。
そう思い直して、突然襲いかかる睡魔に抗うことなく瞼を下ろした。



(20130817)


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