![](//static.nanos.jp/upload/a/akaime/mtr/0/0/20130722012605.gif) 10.Is embattled me.
「イタチ、手ェ出すの早くない?」 「カカシさんに言われる筋合いはありません」 「え、俺別に手出すの早くないし」 「そういう意味じゃありません」
やっと仕事もある程度片付いた金曜日、真っ直ぐ家に帰ろうとしたところを駅でカカシさんに捕まってそのままずるずると居酒屋に引きずり込まれてしまった。乾杯もまだだと言うのに、この間の美女とはどうなの、と興味津々に身を乗り出す彼が先輩だと言うことも忘れて大きな溜め息を吐く。彼の言うところの「この間の美女」とは恐らく、いや、間違いなく火芽のことだろう。 正直に付き合っていますと言ってみれば手出しが早いとたしなめられて。若干腹が立ったので乾杯もせずいただきますと呟いてアルコールを胃に流し込んだ。カカシさんは楽しそうに笑っている。全く、この人といると本当に調子が狂うから嫌なんだ。
「いやいや、別に俺も悪い意味で言っている訳じゃなくてさ」 「…変なフォロー入れると余計こじれますよ」 「だから違うって。今まで言い寄ってきてた女の子達とは全然付き合ったりしなかったのに、あの子とはトントン拍子に話が進んでるなぁって」 「…」 「嬉しいんだよ、俺は」 「…」 「やっぱりあの合コンに連れてって正解だったみたいね」 「…まぁ…火芽と会えたことには感謝してます」 「わ、素直」
あの子火芽ちゃんって言うんだー、なんてニヤニヤ笑うカカシさんに少し染まった頬を悟られないようにまた酒を煽る。だし巻き玉子をつつきながら、あ、そう言えばさ、と彼の話は続いた。
「結婚とかは考えてんの?」 「え」 「いや、だってあんなに彼女作らなかったイタチが選んだ女の子だし、お前ももう良い歳でしょ、」 「…」 「あ、カカシさん居たってばよ!」 「やっぱ兄さんも居たか」 「あーやっと来た、ご苦労さん」
カカシさんからの問いに応答する前に聞こえた元気の良い声に開きかけた口を塞ぐ。呼ばれていたらしいカカシさんの会社の後輩のナルトと、俺の会社の子会社に勤める弟のサスケが隣に座った。ここ最近の忙しさもあり、このメンバーで飲むのは久しぶりだ。
「で、今なんの話してたんだってばよ?」 「んー?イタチに彼女が出来たって話」 「ちょっ、」 「あー、火芽さんの話か?」 「え!サスケお前知ってんの!?」 「前に1回だけ兄さんの家に行ったらでくわしたことがある」 「詳しく!」 「サスケ、それ以上はナンセンスだ」 「…だとよ」
いよいよ赤く火照ってきた顔もそのままにサスケをたしなめれば向かい側に座る2人から即座に繰り出されたブーイング。そんなん知るかとばかりに睨み付ければ、次はサスケに質問を投げ掛ける始末。どんなだった?どんな人?可愛い?などとあまりにも2人がしつこいせいで、サスケはとうとううんざりしながら口を開いた。
「綺麗で料理も美味いし、優しいし、いい人だと思う」 「お前火芽さんの手料理食べたのか!?」 「なんだそれ!」 「…愚弟…」 「わ、わりぃ、てか、それよりそう言えば兄さん猫飼い始めたんだな」 「猫ォ?」 「本当にお前は愚かなる弟だ」 「ペットなんて飼いそうもないのに!」 「イタチ兄ちゃん、なんでいきなり猫なんて飼い始めたんだってばよ!?」 「なんか火芽さんが拾ったとか」 「サスケェ!」
しん、と静まり返る個室。
気まずい。気まずすぎる空気。 暫くしてサスケがおもむろにスーツのポケットから携帯を取り出していじり始めた。 ま、まさかそれは、
「ほら、まだ子猫だったから可愛くて撮った」 「……」 「小さい!」 「可愛い!」 「…で、これを火芽ちゃんが拾った、と?」 「どこで拾ったんだってばよ?」 「…マンションの近くで」 「で?イタチが飼ってんの?」 「……」 「…もう観念しろよ兄さん、今夜は多分ずっとこんなんだぜ。」 「はぁ…」 「兄さんが言わないなら俺が、」 「や、いい。」
運ばれてきたばかりの酒を口に含みながら、どうしようかと思考回路を張り巡らせる。今の状態は言うなれば四面楚歌、サスケの言う通り、確かにいつまでもだんまりを決め込んでいるわけにはいかないらしい。 長い沈黙の末、よし、と心を決め口を開いたのと、カカシさんが言葉を発したのは同じタイミングだった。
「まぁ、俺は火芽ちゃんの写メ持ってるけどね」 「はぁっ!?」 「カカシさん知ってたのかってばよ!」 「いやぁ、ほら、あの合コンの幹事って火芽ちゃんの友達だったじゃん?事前に合コンメンバーの写メもらってたんだよね」 「うわあ」 「大手の貿易事務なんて、立派なお仕事だよねぇ」 「…だからなんなんですか」 「ん?あぁ大丈夫、ちゃんと解ってるよ、そんなんで好きになったんじゃなくて、イタチの一目惚れってことは」 「…」 「で、火芽ちゃんとはどうなの?ってハナシ。」
カカシさんが手にした箸の先をそのままこちらに向けて軽く振る。行儀が悪いとかそんなことを指摘している余裕なんかなくて、ただ押し黙った俺に容赦なく迫る彼は酔いも手伝ってかとんでもない一言を繰り出した。
「身体の相性とかさ」 「かはっ」 「カカシ、それは流石に聞きすぎだ」 「そうだってばよ!それに相性悪かったら続いてねぇだろ?」 「ナルト、お前は傷口抉ってる」 「え?」 「実際どうなのよ」 「…良いか悪いかと聞かれたら」
良い。
長い長い沈黙の末、これでもかとばかりに顔を真っ赤に染め上げて発した二文字の言葉に狂喜乱舞する馬鹿野郎が3人。 1回箍が外れたら面白いように話は弾み、それからはもう下ネタのオンパレード。どんな体位が良いだとか、入れてるときになにを考えてるんだとか、舐められるのはどうだとか、個室なのを良いことにえげつない単語を飛ばし合って、弟の意外な初さに少し安心したりして。気付いたら酒もハイペースで消費していて空いたグラスの数に自分でも驚いたほど。くらくらと揺れてきた俺に、カカシさんはまた質問を投げ掛けた。
「幸せにする気、あんの」
いつもより低い声。 目が、本気だった。
「あります、けど」 「けど?」 「火芽、2年前に婚約者を事故で亡くしてて」
だから、時期とかタイミングとかは正直まだよくわからないです。
項垂れてやっと呟いた言葉。 ナルトとサスケは聞いてはいけない台詞を聞いてしまった、そんな顔をして黙り込んだ。 半ば無理矢理同棲に持ち込んだまではいいが、結局2人が顔を合わすのなんて朝と深夜のほんの少しの間だけで、俺はそれでだいぶ心満たされてはいるけれど、彼女の気持ちを考えたらこの状況は実際どうなんだろうと首を傾げたことは何度かある。直接聞く勇気がない俺も悪いのだが、流石に怖くて聞けない。
「でも、火芽ちゃんもイタチが好きだから一緒に居るんでしょ」 「そうだと思いたいですけど」 「だったらなにも心配要らないよ、お前はお前の思うように動けば良いさ」 「…はい」 「ほら、じゃあ愛しの火芽ちゃんに迎えに来てもらおうか」 「…はい…、…っは!?」 「おお、良い反応」 「いつの間に俺の携帯を!」 「あ、もしもし?はたけカカシです」 「…!!!」 「うん、イタチが潰れちゃってね、迎えに来れるかな?あー、駅前の一楽の隣の、うん、そこの右奥の個室。ごめんね、よろしくね。」
あっという間に火芽に連絡を取り付けるカカシさんはまるで天使と悪魔のハーフだ。感謝とも怒りとも言えない複雑な気持ちに満たされたまま、携帯電話を手渡しで返される。通話履歴を見れば明らか、本当に火芽と通話していたようだ。いよいよガンガン痛みを訴える頭を押さえながら、カカシさんがやけに優しくぽんぽんと肩を叩いた。
「まっ、明日から土日なんだしさ、今夜は仲良くヤんなさいよ。」
やっぱこの人悪魔だ。
(20130810)
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