08.Let's have sex.


「火芽」
「…」
「…火芽」
「ごめんなさい…」
「別に俺は傷付いたりしてない。」
「…」
「だから泣くな」

そんなこと言われたって、無理だ。



「好きだから、プレゼントしたんです」

あの飲み会で、私の左手の薬指についていたダイヤの指輪のことを、イタチさんはまた嘘をついて庇ってくれた。でも、そうしたら当然「見せて」となるわけで。でも今の私の指にそれは勿論ついていなくて、余計にこじれていく話に我慢できなくて、これ以上イタチさんを巻き添えにしたくなくて、私は本当のことを言ってしまった。皆はちゃんと理解してくれたし、綱手さんも変な勘違いをしてしまってすまんと謝ってくれたけど、でも御目出度い飲み会なのに私のせいでその場が白けたことに変わりはないし、庇ってくれたイタチさんの顔を潰してしまったのも否めない。
気にするなと笑ってくれたけど、そう言われてすぐ笑顔になれるほど私も馬鹿ではなかった。

「いつまでそうして泣いてるんだ、」
「…」
「お前が今好きなのは誰だ」
「…イタチさん」

そう呟いた瞬間に塞がれた唇が物凄く熱い。
あれからイタチさんは上手く歩けないくらいにまでべろんべろんに酔っ払って、私は皆に背を押されるがまま彼をタクシーに乗せてこうして帰ってきたのだけど、結局飲み会での失態を忘れられなくてイタチさんが寝たのを見計らって1人しくしく泣いていた。まぁ、こうして見つかってしまったけど。

「…なら…問題ないだろう、過去は過去だ」
「でも、」
「言い訳するな、俺はそのくらいのことでは傷付かない。守れるなら庇うのも躊躇わない。」

腕を引かれ、組み敷かれて。

「それよりも、火芽の涙を見ることの方が余程辛い。」
「イタチさ、っ」

いつも思うけど、この人はなんて出来た人なんだろう。
舌を挿し込まれ、抱き締められてお酒の匂いと異様に暖かい体温が私を包む。然り気無く外される下着のホック、首元に吸い付く柔らかい舌がくすぐったくて身を捩る。左手がゆるゆると下に降りたかと思えば、突然身体を起こして着ていた服を脱いでベッド脇に放り投げた。さらさらと落ちる黒髪を耳に掛ける仕草がたまらない。あっという間に私の衣服も全て取り払われて、これでもかとばかりに密着する身体。指に指を絡ませ合ってディープキスに没頭するのも悪くない。
暫くして離れた唇をぺろりと舐め上げて、イタチさんは私を思いきり抱き締めた。

「…もう…止まったか?涙」
「あ…はい、」
「俺じゃだめか?」
「え?」
「…やっぱりあいつじゃなきゃ嫌なのか?」
「なんでそんなこと、」
「不安なんだ。火芽を泣かせてるのは俺だ、上手く守ってやれなかった、」
「違う」
「でも、でも。俺は火芽じゃなきゃ嫌だ」

いきなり胸元に吸い付かれて思わず悲鳴が漏れる。息が止まりそうになるくらいぎゅうぎゅう抱き締められて、イタチさん一体どうしちゃったの、と思った矢先に聞こえてきた穏やかな寝息。ま、まさか、酔っ払っている上に寝ぼけてた?名前を呼んでも優しく背を叩いても応答はなく、顔を見ようにも、きつく抱き締められているせいで身動きさえとれない。足すらがんじがらめだ。

でも、たぶんさっきのはイタチさんの本音だと思う。あの言葉を聞いただけで、いつものように現実から逃げようとしていた臆病な私の弱い心は彼にぴたりと縫い付けられた。本当は、これ以上迷惑かけたくなくてイタチさんが寝静まったらこっそり家に帰ってクールダウンしようかなんて思ってたけど、そんな考えは全部吹き飛んだし、なにしろこの状況じゃ無理だ。
私、彼となら上手くやっていけるのかもしれない、いや、こんなへんちくりんのことをここまで包み込んでくれるのは彼しかいないと思う。私ってばほんとめんどくさい女だなぁ。

「心配しなくても…私のほうが、イタチさんにぞっこんですよ。」

目の前の鎖骨にキスを落として、顔をすり寄せる。視界から肺の中に流れ込む空気まで、全部イタチさん一色。明日は起きたらお腹に優しい朝ごはんを作ろうか、なんて考えながら、重い目蓋をゆっくりと閉じた。




「…っ、」

今さら起きていたなんて、とてもじゃないが言えない状況である。

目の前で小さな吐息を立て始めた可愛い彼女を眼下に目は爛々と輝き、下半身の逸物は今までにないほど膨れ上がっていた。
酔った勢いで言ってしまった言葉があまりにも恥ずかしすぎて、酔った勢いで彼女を犯そうとしていた自分があまりにも恥ずかしすぎて、我に返った瞬間狸寝入りを決め込んだまでは良かったが、

「反則だろ…」

まさかのどんでん返しからの完敗。こんなことなら、あのまま事に及んでいれば良かったと後悔するも既に遅すぎた。腕の中で気持ち良さそうに眠る火芽の微かな寝息、そもそも裸で抱き合っているこの状態がなかなかに性欲を煽る。
今までここまで好きになった異性が居なかっただけに、どうしたら良いのか、どこまで好き勝手して良いのか加減が分からない。あれこれしたら嫌われてしまうだろうか、彼女にだけは嫌われたくない、そんなこと今まで一度も考えてこなかった。流石に叩き起こしてセックスしようなんて酷いことは思ってない、けれど、このままでは眠れない。せめてこの昂りをなんとかしなくては。

少し身体を下にずらして火芽の唇にキスをする。…よし、起きない。薄く開いた口の中に舌を入れたら起きてしまうだろうか。でも。入れたい。

「んっ…」

…セーフ。
舌を吸い上げたりなんかしたら完全に起こしてしまうと思うから、これは我慢。彼女の口内に舌を入れたまま、空いている左手で自身の逸物を握る。ゆるゆると扱き上げれば自然と舌の動きも激しくなった。ああ、味わったことのない快感が身体を突き抜けていく。彼女の腹に先端を擦り付ければ、ぬるぬるとした液体が汚していく。言い知れぬ背徳感と優越感にぞくぞくと増す快感は止まらない。
愛してる、愛してる、昔の男にもらった婚約指輪に振り回されるくらいなら、いっそのこと新しいものを買ってやりたいくらいだ。でも流石に付き合って数日でそれは…いや、でも。俺は早く火芽がほしい。

思いきり舌に舌を絡めて左手の中の物を一層早く扱き上げれば絶頂はもうすぐそこだ、白く綺麗な彼女の腹に向かって熱い精液を解き放ち、息を吐きながらゆっくりと口内から舌を、抜、く、

「イ、イタチさ、…」

赤い顔、潤んだ瞳で俺を見つめる火芽に酔ってましたなんて分かりきった言い訳が通用しないことくらい、解ってる。


「…俺にぞっこんと言うのは…本当か?」

全部誤魔化して、更に顔を赤くした彼女の蜜口にゆっくりと指を挿れた。



(20130729)


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