夕飯と恋愛話


「わ、美味しーい」

じゃ、ないだろ、私。

目の前の豚のしょうが焼きを箸でつつきながら、何をやっているんだと我に帰る。夜に人様の家で夕飯をご馳走になってるし、しかも相手は成人男性だし、そもそも副担任の先生だし。だけど目の前のイタチ先生はそんな私を気にもせずにこにこと食事を口に運んでいて、そんな彼の顔を見たらまぁいっか、って思ってしまうあたり結局私もどうしようもない生徒だ。

イタチ先生は大学生時代に1人暮らしをしていたせいか料理が普通に上手だった。手際も良いし、盛り付けだって上手い。キャベツの千切りは思わず見入ってしまうほどの素早さで、同時に自分のこの2年で培った自活力が無意味に思えた。カレーを冷凍ストックしたぐらいで私主婦っぽいじゃんとか思ってた。恥ずかしい。

「そう言ってもらえて良かった、ご飯も味噌汁もおかわりはたくさんあるからな。」
「あ、ありがとうございます」

いやぁ、容姿端麗で頭もよく、料理もできるなんて、イタチ先生は本当によくできた男の人だなぁ。一体今まで何人の女性を虜にしてきたんだろうか。そもそも、彼女はいないんだろうか。
そこまで考えて、ふと思う。

もしイタチ先生に彼女がいたら、今の状況って物凄くヤバイのでは?

いや、そりゃ、私は生徒だし何にもないけど、この状況を見られたらよく思われないのは当然だ。変な誤解を生んでしまうんじゃないんだろうか。

「…ヒメさん?やっぱり美味くなかったか?箸が止まってるぞ、」
「あの、イタチ先生」
「どうした?」
「彼女さんとかは、おうちに来たりしないんですか?か、勘違いとか、されたり…」

私の突然の質問に、彼は少しの間黙った。あ、これ聞いちゃいけないことだったかな、所詮は先生と生徒の関係でこんなプライベートにがつがつ入り込まれたら嫌だよね、って気まずい雰囲気を誤魔化すようにお味噌汁を啜る。そんな私を見て目を見開いていた彼は、突然ふわりと表情を崩して笑い始めた。

「俺に彼女はいないし、もしいたらヒメさんを家に招いたりしないし…気にするな」
「…あ、あぁそうですか、なら良かったです、ははは」
「それより、早く食べないと冷めるぞ」
「あ、はい」

慌てて食事をまた口に運び始めた私を見るイタチ先生の頬が、少し赤い気がする。あ、さっき私の箸の動きが止まってたから、気にしちゃったかな。先生が作ったおかずは美味しいのに、余計な心配をかけてしまった。

「お料理は本当に美味しいですよ、こんなに美味しいご飯久々に食べました!」
「…普段、ちゃんと食べてないのか?」
「あぁ、いえ、そう言う意味じゃなくて、自分で作ったものより、人に作ってもらったご飯の方が何倍も美味しいなぁって思ったんです!」
「はは、そんなに美味しかったなら、また食べに来ると良い。これくらいのものでよければいつでも出せるしな」

さらりと言った彼の言葉に思わずそのまま会話の流れで頷きそうになったのをぐっと堪えて、ん?と考える。また食べに来い、って、え?いやいやいや、そんな変な意味じゃないってのは解ってるよ、だけれども、え?教師ってこんな感じで良いのだろうか。

「俺も1人きりで食事を摂るより、こうして誰かと摂った方が良いしな」

ああ、なんだ、そう言うことか。やっぱりイタチ先生は1人暮らしの私のことを生徒として気にかけてくれてるんだ。それに、たまたま家が近いってだけだし、サスケと仲良しだったから早く顔覚えられたってのもあるだろうしね。うんうん。

1人納得したように首を縦に振りながら、さっきからずっと左手にしたままのお味噌汁をごくごくと飲み干す。キャベツのお味噌汁なんて初めて飲んだけど、これが意外と美味しい。今度家でも作ってみよう。

「それより、サスケとは本当に付き合っていないのか?」
「なっ!かはっ、ごほっごほ、ごほっ」

イタチ先生からの突飛な質問に、少しお味噌汁を逆流しかけて盛大にむせる。学校でも否定したはずなのに、この人はどれだけ用心深いんだ。そもそも私はサスケに恋心なんて一切持ち合わせていないし、同じクラスメイトのサクラがサスケのことを好きなのも知っている。それを分かっていてサスケと恋仲になるなんて有り得ない。
それを必死に力説したら、イタチ先生はなんだか腑に落ちない顔でそうか、と呟いた。なんだそれ。誰に何を言われようが、イタチ先生が納得しなかろうが、私とサスケが付き合ってないのは本当なんだってば。

「…ヒメさんはサスケのこと、本当になんとも思っていないのか?」
「なんとも、って、そりゃ、高校入ってずっと同じクラスだから仲良しだし、好きですけどそれはクラスメイトとしてですし…本当にそれだけですよ!」
「…報われないなぁ」
「え?」
「いや…なんでもない。2人が付き合ってないと言うのはよくわかった」
「分かっていただけて良かったです…」

ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、イタチ先生は容赦なく私に次の質問をぶち込む。

「サスケが恋愛対象ではないとして、好きな人はいないのか?」
「居たらサスケと毎日あんなつるんでないですよ」
「…確かに」

先生は見かけによらず恋愛話がお好きなのだろうか。



(20130714)


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thanx!! :)


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