キャベツ


家に帰って一息こぼす。
高校生になるとき、住み慣れた土地から1人離れてこのニュータウンで暮らし始めた私は近くに身寄りがいない。両親は孤島で働く医者だ。まぁ、1人暮らしももう3年目だし、今更寂しいとかはないけれど、でも、みんなと別れて独りになると少し虚しいと言うか、なんと言うか。

「あー…そう言えばなにもないんだった」

ほとんど空の冷蔵庫を見て、溜め息をつく。また外に出るのは面倒だけど、仕方ないか。ブレザーを脱ぎ捨てて、私服に着替えると財布を持って家を出る。家から歩いて1分くらいのところにあるスーパーの自動ドアを通り抜けると少しひんやりした空気が身体を包んだ。

何を買うかも決めていないけれど、とりあえず買い物カゴを片手にふらふらと店内を徘徊して、気になったものを手当たり次第カゴにぽいぽい投げ入れていく。基本まとめ買い主義な私の買い物は大体いつもこんな感じだ。少しカゴが重くなってきたところで、あぁ、そうだ、野菜も摂らなきゃなぁと青果コーナーに足を運ぶ。何を買おうか迷っていたところで、店頭の方に特売の札が見えた。近寄ってみればそれはキャベツで、1玉78円と結構な安値だ。しかも目の前にあるので最後のひとつ。

「なんにでも使えるし、キャベツでいっかぁ」

おもむろに手を伸ばしたとき、偶然横から伸びてきた手とぶつかった。あ、すみません、と小さな声で謝って、恥ずかしさのあまりすぐに身体の向きを変える。きゃ、キャベツはやめよう、違う野菜なんて他にも山ほどあるじゃないか!と歩き出したところで肩を掴まれた。

「ヒメさん?」
「…え?」

どこかで聞いたことのある声に後ろを振り向けば、

「い、イタチ先生!?」

それはまさかの新・副担任で。彼は目を丸くしたまま言葉を失っている私に笑顔でキャベツを差し出した。あ、さっきぶつかった手はイタチ先生のだったんだ。それにしても、なんでこんなところに?とか聞きたいことは沢山あったけど、とりあえず私は彼が手にしたキャベツを押し戻す。そこまでキャベツに対する執着心はない。

「本当に良いのか?」
「はい、まだ何を作るかも決めてませんでしたから。」
「そうか…ヒメさんは家近いのか?」
「ここから歩いて1分くらいです、先生はご実家ですか?」
「いや、いつまでも迷惑かけるわけにはいかないし、1人暮らしだ」
「え、サスケの家、すぐそこなのに!」
「はは、親にも言われたよ。」

でも、サスケがなんだか俺のことを煙たがっているような気がして。と、イタチ先生はなんだか寂しそうな顔で笑った。でも、私が思うにきっとサスケは照れているだけなんだろうなぁ、いつも素直じゃないし。丸2年見てきたけど、サスケって結構不器用だ。それをイタチ先生は解っているんだろうか。折角実家の近くの高校に勤務することになったのに自分だけ1人暮らしだなんて、寂しいじゃん。だってサスケの実家は私の家から歩いて5分くらいだ。
もったいない、そう呟いた私に、でもしっかり自立した大人になりたいからいいんだ、と笑う先生はやっぱり物凄く大人。

「ヒメさんはおつかいか?偉いなぁ」
「あ、まぁ、そんなところです。」
「…だが、それだけだとバランス悪くないか?」
「どうせ食べるの私だけなんで、良いんです」
「?」

あー、適当に話を合わせていたら余計に話がこじれてしまった。でも1人暮らしだなんて言ったら余計に心配かけてしまうだろうし。悶々と悩んでいる私に、イタチ先生はとんでもないことを言い放った。

「今日は1人なのか?なら晩飯をご馳走してやろう、」
「や、そんなご迷惑なことは!」
「よし、そうと決まったらもう少し肉を買わないとだな」
「ちょ、先生聞いてます?」
「誰かと一緒に飯を食べるなんて久しぶりだ、」

笑顔でそんなこと言われたら、なにも言い返せないよ、イタチ先生。



(20130713)


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thanx!! :)


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