初対面


「はいはい、お前ら席ついてー」

新学期の全校集会と新任式が終わり、その余韻でざわつく教室にカカシ先生が飄々と入ってきたことで空気はガラッと変わった。談笑していた生徒がばらばらと席に戻る中、私は未だ脳内にイタチ先生の美顔を思い浮かべてはにやにやしている。隣のサスケは相変わらず機嫌が悪そうにしているが、そんなことは知ったこっちゃない、私は今年1年の目の保養が保証されただけで充分なんだ。
生徒全員が着席したのを確認して、カカシ先生は口を開いた。

「はい、じゃぁみんな、今年もよろしく。今日は午前で終わるけど、明日からは普通に授業あるし、今月は修学旅行も控えてるから各自 心しなさいね。あ、あと春休みの宿題の提出忘れた奴は1週間教室の掃除当番だからよろしく。」

なんともダルそうにさらっと驚愕するようなことを言い放ち、カカシ先生は新学期の春のおたよりを配り始める。なぁんだ、てっきり副担任の挨拶とかもあるかと思いきや、ないのか、って、絶対私の他にも思ってる人いると思う。特に女子とか。前の席から回ってきたプリントを見もせずに二つ折りにして鞄へ入れようとした瞬間、サスケが突然うっ、と唸って苦虫を噛み潰したような顔をした。なにがあったのか聞いても、「廊下から人の声が…」と呟いたきり、なにも言わない。なによ、はっきり言いなさいよ、と肩を小突いたところで教室のドアがコンコンと鳴った。

「カカシ先生、今入っても良いかな?」
「あぁ、ミナト先生、どうぞ」
「失礼します。新任式でも発表がありましたが、今年3年生の学年主任を務めることになりました、うずまきミナトです。よろしくお願いします。」

ミナト先生は去年の春からこの学校に来た先生で、確か校長の引き抜きだと噂で聞いた。そんでナルトくんのお父さん。年齢の割には見た目が物凄く若くてカッコいい。やっぱり今年の3年生は色々と当たりだな。カカシ先生だって顔はイケメンだし。

「あ、ほら、遠慮しないで入って入って」
「はい、失礼します。」
「こちらが、今年から新しく入ったうちはイタチ先生。」
「ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、今年1年よろしくお願いいたします。」

まさに釘付け。当たり前だが、体育館で見たときよりも距離が近い。再びにやける顔を両手で抑えながら、それでも目線はイタチ先生から離せずにいる私を見て、サスケがわざとらしく盛大に溜め息を吐いたのが横目についたけど、そんなの知らんぷり。むしろこんな素敵なお兄さんがいたことをこの2年間ずっと教えてくれなかったなんて、酷い奴だ。

先生達の挨拶を一通り終えて、学年主任のミナト先生は他のクラスにも挨拶をするため教室を出て行った。じゃ、もう配るもんも配ったし今日は解散しますかー、と欠伸をしたカカシ先生の横で、イタチ先生は生徒名簿と座っている生徒の顔を見比べながら必死にペンで何かを書いている。もう生徒の顔と名前を覚えようとしているんだ、立派な先生だなぁ…

「はい、きりーつ、礼、」

突然、これまた適当な挨拶を済ませたあとすぐさま教室を出ていくカカシ先生になにか言おうとするも、女生徒に足止めをくらい立ち往生しているイタチ先生。あっ、ずるい、私もイタチ先生となにか会話したい!お近づきになりたい!と駆け寄ろうとした瞬間、首根っこをぐいっと掴まれて動きが止まる。

「さっ、サスケ、離して!」
「お前はこれから俺と一緒に飯だろ」
「だからってそんなに急がなくたって」
「混むから早くしろ」

泣く泣く引きずられるがまま教室をあとにする私たちに、サクラたちが続く。いや、そりゃみんなでご飯行こうって約束したけど、ちょっとぐらいイタチ先生と戯れる時間あるでしょ!良いでしょ別に!またぶつくれる私を宥める癒し系ヒナタに顔を緩めたとき、後ろから予想だにしない声がかかった。

「おい、サスケ!」

こ、この声は。ゆっくり後ろを振り返ると、そこには小走りでこちらへ駆けてくるイタチ先生。でもサスケは止まろうとしない。流石にシカトはいかんでしょうと右腕を強く引っ張ってなんとか引き留めると、明らかに怪訝そうな顔で私を睨んだ。わ、私悪くないもん。

「…なんだよ」
「サスケ、今日家の鍵忘れていっただろう、ほら」

目の前に差し出されたそれを奪い取るかのように乱暴に受け取って、サスケはぼそりと「鍵忘れたって、どうせ家には母さんがいるだろ」と呟いた。なんて可愛くない奴!案の定、イタチ先生は困った顔で笑っている。サスケのやつ、人の好意をなんだと思ってるんだ。

「今日は母さん仕事で帰りが遅いって言ってたから…、」
「そーかよ」
「ありがとう、でしょ!」

あまりの無礼さに耐えきれず私が彼の頭をぱしんと叩くと、サスケは舌打ちをしながらもありがとうと礼を言った。そう、それで良いの、と頷きながらイタチ先生を見ると、彼は目をまんまるにして私を見ている。ヤバい。流石に目の前で暴力はいけなかったかな、一応サスケはイタチ先生の弟だし、なにしろ私のイメージがこの1日で悪化しちゃったかも…!

「え、えぇと、あなたは」
「あ、ヒメと言います、よろしくお願いします!」
「ヒメさん、は、もしかしてサスケの彼女」
「いやいやいや違います!断じて!大事な弟さんに手を出してしまい申し訳ございません!」

焦るあまり自分が何を言っているのかよく分かっていなかったけれど、捲し立てたところで頭にぽんぽんと置かれた手に私の動きは止まった。
い、イタチ先生に撫でられてる?

「よくできた生徒だなと思っただけだ、気にするな。」
「は、ははははい!」
「サスケ、気を付けて帰れよ。」
「分かってる。…ほら、ヒメ、行くぞ」
「うん!…イタチ先生、さようなら!」
「また明日。」

イタチ先生の笑顔、プライスレス!!
ほわーんと表情を崩す私の腕を掴んで足早に歩き出すサスケがなぜかいつもより異様に冷たいけれど、まぁそれは今の幸せMAXな私にはどうでも良いことだ、今日は許してしんぜよう。


(20130711)

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thanx!! :)


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