はらりほろり


「う、うわ、うわああああ!!!」
「うるせえよ」

ぺしんと頭を叩かれて前につんのめる。
何をしてくれるんだと膨れ面で見上げたけれど、嘲笑しか返ってこなかった。

「いや、だ、だって、だてつぁ、」
「落ち着いてから話せ」
「私の番号が書いてあるよ!」
「来月からまた同じ学校に通えるな、おめでとう」
「お、お互い様です…!」

私の受験番号、578。
目の前の3桁の数字の羅列の中に、その番号は見事に印刷されていた。
サスケは推薦で決まったので入学手続き諸々は1ヶ月前にもう済んでいるらしいのだが、今日は同じ国立大学を一般受験した私のためにこうして合格発表に付き合ってくれたのだ。これで受かっていなかったら全く笑えなかった。

「よ、よかった…」
「これから入学手続きで忙しくなるな」
「受験の時の胃痛に比べたら、そのくらいのことなんのそのですよ…」
「ほら、資料貰ったら帰るぞ」
「うん」

合格者に配布される資料の入った紙袋を受け取って、駅に向かう。
サスケの言うところによると、ミコトさんがお昼ご飯にご馳走を用意して待ってくれているらしい。いやあ、本当に受かって良かった。これで不合格でした、なんてなったら私以上に落ち込ませてしまいそうだ。

「…母さん、さっきからすごい連絡よこしてくるぜ。」
「心配してくれてるんだよ…もしよかったら結果伝えてあげてよ」
「サプライズの方が喜びも倍増だろ」
「そうかな…」

かわいそうに…とミコトさんに少し同情しながら、やっと着いたうちは家の門をくぐる。何度来ても大きいこの家の玄関の前で、ミコトさんは両手をこすり合わせ白い息を吐きながら待っていた。あああ、サスケ、罪悪感が半端ないよ!

「ヒメちゃん!どうだったの!」
「ミコトさん、無事に合格できました!」
「よかった…!本当におめでとう!」
「ありがとうございます、本当にみなさんのおかげです…」
「いいのよ、ほら、ご飯できてるから入りましょ」
「お邪魔しまーす!」

玄関へ入ると、ふわっと美味しそうな匂いが鼻をかすめる。緊張のあまり今朝から何も食べていなかったせいもあってか、空っぽのお腹がぎゅるると音を鳴らした。
その音を聞いてくすくすと笑うサスケの背中をどつきながら居間にお邪魔する。
と、そこには予想外な人物が鎮座していた。(決して神霊の類ではないけれど、その表現がぴったりだったのだ)

「ふ、がく、さん、お邪魔、します」
「…ああ」
「……」
「大学…受かったそうだな」
「…はい…おかげさまで」
「…」
「…」
「…おめでとう」
「あああありがとうございま、」
「なに固まってんだ、早く座れ」
「ささサスケくん、外から来たから手を洗わせてもらいたいなあ」
「おしぼりなら人数分置いてあるぞ」
「はい」

残念、この場から逃げることは叶わなかった。
イタチ先生とサスケのお父さんであるフガクさんもとてもいい人だってわかっているのだけれど、なんだこの無駄にすばらしい威圧感は。毎回会うたびに身体が固まって動かなくなる。とどのつまり、かなり緊張するのだ。

「ご両親には連絡したのか?」
「はい、電話に出なかったのでメールを入れておきました」
「そうか。入学費用などを振り込むと言っていたから、書類のコピーを速達で送っておきなさい」
「はい、ありがとうございます、そうします」

そうだった。うちの両親と知り合いなのを忘れていた。私の知らぬところで親同士連絡を取っていたのか。なんて恥ずかしい。というか、抜け目がない。

「さ、ご飯が冷めないうちに食べましょ。お父さん、結果が気になって今日は前からお休みを取っていたのよ〜」
「…」
「…父さん…」
「…ほら、遠慮せず食べなさい」
「「いただきます…」」

目の前にご馳走が広がっているのに、食欲が驚く程激減したなと思いながらお刺身に箸を伸ばした瞬間、玄関の方からガツンと大きな音、続いてガラガラと扉が開く音がする。その音を聞いて、ミコトさんが小走りで玄関へ向かっていった。

「あ、随分早かったわね、」
「合格したって聞きまして、」
「ちょうど今ご飯を食べ始めたところなのよ」
「間に合ってよかったです」

開きかけの居間のドアの向こうから顔を見せたのは、おでこを赤く腫らしたイタチ先生だった。

「イタチ先生!」
「ケーキ買ってきたぞ、おめでとう」

私は別にうちは家の娘でもなんでもないのに、ここの家の人たちはなんでこんなに優しくて暖かいんだろう。申し訳なく、そして非常にありがたい。
そう考えていたら、合格発表の時は出てくる気配すら微塵もなかったそれが、私の双眼からぼろりと零れ出た。

「みなさん…っあ、ありがとうございまずうう…」
「なっ、え!?」
「ヒメちゃん、泣かなくていいのよ」
「ははは、お前なんつー顔してんだ」
「…母さん、タオルでも渡してあげなさい」
「そうね、持ってきます」
「ずみまぜんー」
「おま、どうした!?」

この暖かさが、嬉しくてたまらないんだ。


(20170615)

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thanx!! :)


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