Indecision


「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい」

久しぶりのイタチ先生の住む部屋、以前来た時とさほど変わらないその環境に足を踏み入れる。
ああやっぱこの香り大好きだなんて思いながら深呼吸をしたら、なんだか涙がこみ上げてきてしまって慌てて上を向いて誤魔化した。こんなことで泣いていたらどうしようもない。

「せ、先生、」
「ん?」
「これ、今日バレンタインだから作ったの」
「そんな、俺は日曜にもらったが」
「それはうちは家のみなさんの分で、これは、イタチ先生に作ったものだから」
「…なんだか悪いな…ありがとう、夕飯を食べたら一緒に食べよう」
「…はい」

そうだった。そもそもここへは夕飯に誘われてきていたんだった。夕飯食べる前に空気を重くしたらダメだ。口からこぼれそうになった告白のセリフを飲み込んで、私は頷く。一緒に食べようというその言葉に多少もやもやと何かが引っ掛かりはしたけれど、それもこれも突っ込むのは夕飯を食べ終えてからにしよう。

「先生またキャベツのお味噌汁作ってくれたんだ」
「嫌だったか?」
「ううん、私これイタチ先生に作ってもらって初めて食べた時、大好きになったんです」
「そうか、それはよかった」


夕飯を終え、イタチ先生が紅茶を入れてくれた頃、私はもう黙っているのが限界だった。
春から約1年じわじわと暖めてきたこの気持ちを早く言ってしまいたい気持ちと、言ったって無駄だからやめておこうという気持ちが葛藤して、上手く言葉にする自信はない
けれど、でも、やはりやらぬ後悔よりやって後悔だよなあ。

「…先生、」
「ん?」
「私、イタチ先生のこと好きです」
「ありがとう。俺も好きだぞ、ヒメさんのこと」
「…え、と、それは」
「じゃあ、試験に受かったら」
「へ」
「第1希望の大学に受かったら、教えることにしよう」
「…えー!?」
「試験はもう来週だぞ、忘れたなんて言わないよな?」
「うぐ…」

あっけない返り討ち。
そうだ、私、受験生だった。
センター試験を終えたこの時期になってもまだ内部の木ノ葉大学と近くの国立大学で迷っていて、どちらが第1志望なのかハッキリ言えない私には試験日なんて来て欲しくない日ナンバーワンだけど、イタチ先生の気持ちを聞くためにはそれを乗り越える必要があるらしい。

「ううう…」
「この際どちらに進むのか決めるといい。流石にもう時間がないぞ」
「…先生はどっちがいいと思いますか…」
「大学についてちゃんと調べたか?」
「一応…でも、やりたいことまだわからなくて」
「それなら国立じゃないのか?そのほうが幅が広がるし学費も抑えられるだろう」
「確かに、」

サスケがそこに行くから気乗りしない、なんて実の兄に言えるはずもない。
やりたいことはないわけではないけど絶対と言われたらそれも違う。
親には好きな道を行けと言われたけれど、決まらないなら食いっぱぐれのないように資格を取れと言われた。その意見は間違っていないと思う。
頭ではわかっていても、それでも進路が定まらないのはなんでだろう。

入れてもらったホットティーをちびちびと啜りながら、はあと大きなため息を吐いた。


(20170607)


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thanx!! :)


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