バレンタイン


「ねえ、今年もやるでしょ?バレンタイン」

センター試験が終わりみんながひとまず一息着いた頃、サクラの何気ない一言で女子が沸き立つ。
そんなイベントすっかり忘れてたけれど、思い出したら絶対にやらなきゃいけないなって思わされる、私の中でバレンタインはそんなイベントだ。
特に私たちはいつも女子で集まって作るのが恒例だったから尚更、男子たちもきっと少なからず期待していることだろう。
どっちにしろ、私は私で毎年お世話になっているうちは家のみなさんに配っていたし、何かしら作らなきゃいけないことに変わりはない。今年は何にしようかなあ…

「今年は高校生活最後だし、みんなで奮発してフォンダンショコラなんてどう?」
「わあー、成功したらテンション上がる!」
「失敗したら怖いからちょっと練習しようよ」
「たしかにそれがいいかも…」
「あ、それなら私の家使って」
「ヒナタ、いいの?」
「うん、そのかわり…あの…ナルトくんに作るの何にしたらいいか相談聞いてもらえると…助かるなって…」

真っ赤な顔して俯くヒナタに、全員歓喜。
そんなのいくらでも聞く聞く!と大騒ぎするサクラといのに言われるがままスケジュールを埋めたのは先週の話。
今日はチョコ作り本番、バレンタインの週の日曜日だ。

結局、ヒナタはナルトにクッキーを、サクラちゃんといのはサスケにあげるチョコを個々で作ることにしたらしく企業秘密らしい。私はといえば、うちは家に配るのはブラウニー。イタチ先生にあげるのは、迷った挙句に同じでいいかという結論に至った。
作るものの種類が多いのはなんで?って質問が飛んできた時にめんどうくさいから、って、なんとも逃げ腰な理由。
チョコを作りながら恋バナをして、いつも通りサクラといののサスケの取り合いをぼーっと眺めていたところで、2人からとんでもない質問が飛び出した。

「で、あんたは本命いないわけ?」
「は!?」

予想外の展開に、思わず型に入れようとしていた生地がどろっと外にはみ出る。
あからさまに慌てる私を見て、3人ともわかりやすく好奇の視線を向けた。

「その様子だと…いるわね」
「ちょっと、あんたの話聞かせなさいよ」
「いやいやいやいや、いないって」
「「まさかサスケくんなんてことないでしょうね!?」」
「それは断じてない」

間髪入れずにそういえば、2人はひとまず安堵し、胸を撫で下ろす。なんだよ、結局そこが不安だっただけかい。サスケなんて全く興味ない。むしろなんで2人がそこまで惹かれてるのか分からないほどに微塵もない。まあ、はっきりとそう言ったところで「なんであの魅力がわからないのか」と怒り出すから絶対言わないけど。

「よし、これであとは他のグループの女子がポッキーとチョコパイを人数分用意するって言ってたから、それで充分でしょ!」
「そうね、あとは箱に入れてラッピングしたら完璧!」
「ヒメは?そのブラウニー、ラッピングしなくていいの?」
「あ、うん、家にラッピング忘れてきちゃったからさ、持ち帰ってからやるよ」
「そっか。ヒナタも完璧だね、早くナルトの顔が見てみたい〜」
「ふふ、今日はみんなありがとう」

一休みしたあとヒナタの家をおいとまし、すっかり日が暮れた道をひとりで帰る途中、ふとイタチ先生の顔を思い浮かべる。
渡したら、どんな顔するかな。喜んでくれるかな。それとも、困った顔をするだろうか。
というか、いつ渡そうか。
バレンタインでみんなが浮き足立つ日だし、チョコを持っていくこと自体は抵抗ないけど、イタチ先生に渡すとなると話が別だ。かと言って放課後家に行くのも…受験を控えている身だし、こんなことに時間を使って、とか…さすがにそこまでは言われないか。

「難しいなあ」

つぶやきながら、ブラウニーが詰まった大きな紙袋を片手にスーパーに立ち寄る。
どうしても食べたい気分だった明太子をカゴに入れて、青果コーナーでネギを手にしたとき、ふと横のキャベツが目に入った。今日は特売なんてしていないけれど、その代わり半玉が売られている。

「ダメ女、だなあ」

ここに来るたび少し期待して、でも、あんな偶然あるわけないのに。
そりゃ近所だから一緒に買い物に来た時も、見かける時もあったけど、それでも。
自惚れるようなレベルの話じゃない。

バカバカしいとため息を吐きながらも、結局半玉キャベツをカゴに入れてお惣菜コーナーへ向かう。
もう今日はお菓子作りばかりしていたせいでおかずを作る気力がないから、お惣菜でいいや。ぷりぷりの鶏のからあげが食べたいよ。たまにはいいよね。

「あら、ヒメちゃんじゃない!」
「え、あ、ミコトさん、こんばんは」

突然名前を呼ばれて振り向けば、サスケのお母さんのミコトさんで。
そういえばうちは家もこのスーパーを使っていたと思い出す。と同時に遠くにちらつくひとつに括られた黒髪。あれはまさか。まさか。

「夕飯のお買い物?お惣菜買うくらいならうちに食べにいらっしゃいよ、今日は」
「母さん、醤油はこれでいいんだよな」
「あ、イタチ、ありがとう。今日はイタチもうちで夕飯食べるのよ」
「え、えっ、あ、の、」
「ひとり増えたくらい何も変わらないわ、ねえ?イタチ」
「ああ、遠慮せず来るといい」
「何か食べたいものある?」

その問いに悩むフリをしながら、私はそっと紙袋を後ろ手に隠した。


(20170605)

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thanx!! :)


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