Merry Christmas


泣き腫らしたせいで重くなってしまった目蓋を押し上げ、眩しい日差しを拝む。
クリスマスパーティーは、それはそれで、楽しかった。
でも、私の目標は何も叶えられなかった。イタチ先生に折り返し電話することも、プレゼントを渡すことも、会うことですら、叶わなかった。
唯一死守した、プレゼント交換をする前にこっそり抜き取った少し高めのボールペンをころころと手のひらで転がす。綺麗なラッピングもクリスマスのメッセージカードもなくしてしまったそのボールペン。これはこれで思い出として取っておこう。
そして皮肉なことに私が(イタチ先生に)用意した文房具セットはプレゼント交換の末にサスケの手に渡った。「これで受験勉強が捗りそうだ」と嬉しそうに言ったサスケの笑顔が少しだけ憎い。
わざとらしくため息を吐きながら、プレゼント交換で手に入れたチョウジからのマグカップに、沸かしたお湯とセットで付いていたココアとマシュマロを放り込む。

「あっま…」

なんだかんだ、毎年開催場所を提供してくれているナルト(というかミナト先生ありがとう)は昨日のイヴにめでたくヒナタと結ばれた。
その2人の邪魔をしてはいけないからとみんなしてそそくさと退散するように解散したのも、それはそれで、楽しかった。クシナママが振舞ってくれたディナーもとっても美味しかったし、クリスマスパーティー自体は、なにも悪くなかったのだ。
じゃあ何が悪かったのかといえば、私の行動力がないのがいけなかったのか、それとも。
いや、埒があかないからもうこれ以上考えるのはやめよう。今思えば、昨日帰ってきて泣いた理由も自分でもよくわからない。イタチ先生にプレゼントを渡せなかったことに泣いたのか、それがサスケの手に渡ってしまったことが嫌だったのか、…自分の不甲斐なさに、泣いたのか。

「…ご飯、食べよ」

温かい飲み物を飲んで少し落ち着いた私は、「ひとり暮らしは大変でしょう?これ余り物だけど、」と言ってクシナママが持たせてくれたチキンを電子レンジに入れてあたためスタートを押す。温まるまでの合間に携帯電話を見れば、メールが数件と着信が1件。

イタチ先生からの着信が、1件。

「え!?」

かかってきたのは丁度1時間ほど前。なんで気付かなかったんだ私のバカ!と思いながら迷わず折り返す。出てくれるかな、と心配する間もなく、先生はまた2コールで電話に出てくれた。

「先生、ごめんなさい!出れなくて…!」
「いや、ただ、昨日なにか言いたそうだったから悩み事でもあるのかと…気になっていてな」
「すみません、あ、あの、イタチ先生!」
「なんだ?」
「…会いたい、です」

途端、流れる沈黙。
やってしまったかな、と思ったけど、いや、でもそれでもいいからとにかく会いたい。
生徒がこんなこと言って困らせてしまったかなと思い始めたとき、先生は優しく笑いながら夕飯を食べに来いと言ってくれた。

「俺も元気な顔が見たいからな」

そんな殺し文句と共に。


頑張って少し化粧をして、あまり着ないワンピースを着て、昨日買ったばかりのブーツを履く。
あの嬉しいセリフは、もしかしたら涙声だったのがバレてしまったからかもしれないなと後から思ったけれど、でもそれでも飛び上がるほどに嬉しかったから余計なことを考えるのはやめた。約束の18時半に間に合うどころか少し早めに家を出て、浮かれた気分で通り道にあるケーキ屋さんによってカットケーキを2つ買う。夕飯をご馳走してもらうんだから、これくらいしてもいいよね、と自分を納得させながら震える指でインターフォンを押した。

「早かったな、いらっしゃい」
「お邪魔します、イタチ先生、これ、ケーキです!」
「すまない、なんだか気を使わせてしまったな…」
「いえ、イタチ先生にはいつもお世話になってるから、少しでもなにかしたくて。」
「あー、ヒメさんは甘いもの好きだから沢山食べられるよな?」
「はい!…あ、あれ?イタチ先生も甘いもの大丈夫でしたよね?」
「いや、そうじゃなくて…俺も、ここでケーキ用意してたんだ、ほら」

そう言いながら開かれた冷蔵庫のドアの向こうには、私が差し入れしたのと同じパッケージの箱。「せっかくのクリスマスだから、ケーキくらい食べたいなと思ってな」と言って笑った先生に、釣られて私も笑った。
なんでだろう、イタチ先生と居るとどんなことでもいちいち胸が暖かくなる。慣れていることのはずなのに、夕飯の支度をしているだけでも、目があっただけでも、焦がれるように胸が熱いんだ。それはやっぱり、私がイタチ先生に恋をしているからなのかな。

「ローストビーフ!?」
「昨日、あまりにも暇だったから作ってみたんだ、口に合うといいが…」
「美味しいに決まってます!!」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」

出された料理はもちろん予想以上に美味しくて、時間が経つのもあっという間で、気づいたときにはもう21時すぎ。
でもまだもう少し居たいな、と思ったとき、イタチ先生が遠慮がちに口を開いた。

「昨日…なにか悩み事でもあったのか?」
「えっ」
「言いにくそうにしていたから…なにか、言いにくい相談事でもあるのかと、」
「…あ、あー…」
「いや、本当に言いにくいことなら、別に無理して言えとは」
「私、イタチ先生に…渡したいものがあって」

でも、渡せなくなってしまって。
そこまで言ったところで、ぽろりと涙が一粒落ちてワンピースにじわりと染み込んだ。あれ、なんで今更涙が出てきちゃうかな。今日、もうしょうがないことだと割り切ったはずだったのに。
イタチ先生は驚きながらも私の頭を撫でながら、私の次の言葉を待ってくれているようだった。

「…昨日は、渡したいものを…渡しに行ってもいいか聞こうと思ってたんですけど、色々タイミングが悪くて…電話も折り返せなくなってしまっ、って、」
「もういい。もう…いいから。気を使わせてしまって悪かった。俺はその気持ちだけで充分嬉しい。」

イタチ先生は、なにも悪くない。
謝る必要性なんて、どこにもないのに。なのに本当に申し訳なさそうに言うから、私は余計に泣けてきて。ああ、せっかく頑張ったお化粧が台無しだ。声を押し殺して泣く私にふわふわのタオルを手渡して、イタチ先生は私の肩を抱き、あやすように優しくゆっくりと背を叩く。

「…イタチ先生の腕の中、安心します」
「クリスマスだから特別だぞ」

言い様のない安心感に包まれながら、泣き疲れてまた重くなっていく目蓋。
あ、やばい、と思った瞬間、私の意識はすとんと落ちた。


(20141225)


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thanx!! :)


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