タイミング


相変わらず眩しい赤と緑に目を細めながら長く続くショッピングモールを歩く。
冬休みに入ったからと言ってついつい多めに買い物をしてしまったことで悲鳴を上げ始めた左腕にぐっと力を入れて、私はまた歩を進めた。
ちょうど中央の吹き抜けからは大きなクリスマスツリーが見えて、下を覗けばツリーをバックに記念撮影をしている男女が何人もいる。まあ、生まれてから今まで異性と2人きりでクリスマスを過ごしたことなどなかったし、特別な思い入れもないのだけれど、こうして見ていると少し羨ましいなと思ったりもして、なんだか複雑。重い荷物に音を上げて空いているベンチへ腰を下ろし携帯電話を確認すれば、時刻は15時すぎ。外が暗くなる前に帰らなきゃいけないなあと思いながら携帯電話を掴んだ右手をカバンに入れようとした瞬間、それはブルブルと振動した。

「で、電話、…もしもし、」

電話をかけてきたのはサクラで、今夜ナルトの家で催されるクリスマスパーティーに来るよね?と、あたかも私が来る前提の聞き方に思わずどもる。よくよく聞いてみれば、今日はみんなで14時にナルトの家に集まってツリーの飾り付けやらをする予定だったのだが、暫くしてヒメがいつまで経っても来ない、と話題になったらしい。
はて、そんな話ちっとも知らなかったよと正直に返せば、電話の向こうで大声が上がった。

「あー!俺、ヒメに伝え忘れたってばよ!!」
「ナルトォ!あんたバッカじゃないの!!」

と、同時に ごん、と嫌な音がしたけれど今は突っ込まないでおこう。

「なにも言ってないってことは、プレゼント交換のことも知らないってことじゃないの!」
「さ、サクラちゃん、ヒメちゃんはプレゼント持ってなくてもいいんじゃないかな、ナルト君が忘れちゃったのが原因だから…」
「ったく…ほんっとどうしようもない奴ね!」
「俺が伝えとくって自分で言ったくせに、ほんとバカ!」
「おいいの、こっち手伝え、まじでめんどくせーなこれ」
「い、忙しいのにごめんね、私…今年は参加しなくて大丈夫だから」
「え!?何言ってんの、ちょっとヒメ」

サクラの声が飛び出してくる携帯から耳を離し、強引かなと思いながらも通話切断ボタンに触れた。
正直、パーティーに呼ばれなかったことに怒ったり悲しくなったりはあまりしていない。し、別に参加できないからってどうってこともないし、参加したところでプレゼントがないなら結構気まずいと思うし、つまりそういう訳で私は不参加を選んだ。
この寒い中ナルトの家まで行って帰ってくるのも正直だるい。今日はこのまま家に帰ってゆっくり過ごそう。そう思いながら私は重い腰を上げて帰路についた。


「…これ、いつ渡そうかな」

帰宅してから買ってきた荷物を片付けて、最後に残った細長い包みを大事に手に取る。
実は、悩んだ末に買ってしまったのだ。イタチ先生への、クリスマスプレゼント。
あげるかどうかでさえ散々悩んだけれど、今年はテスト勉強でも課題でもお世話になったし、日頃の夕飯のお礼も兼ねて何か贈りたいという結論に至った。プレゼントの中身はボールペンや蛍光ペンなどの文房具。決して値の張るものではないけれど、イタチ先生が「この仕事をしてからインクの減りが早い」とつぶやいていたのを何度か聞いていたから、それなら使えるものをと当たり障りのないチョイスにしたんだ。ちなみに、一番使うであろうボールペンだけは少し奮発していいものを買った。
その包みをそっと胸に当て、深呼吸をする。できれば、今夜渡したい。
でも、そう言えばイタチ先生はクリスマスイヴ、なにか予定があるのだろうか。
少し悩んだ挙句、携帯電話を手に取る。あれからまた何件か着信が入っていたようだけれど、両手に荷物を抱えていたから出れなかったのは不可抗力だよね、と自分を良いように納得させてイタチ先生の連絡先を開く。
3コール、…いや、5コール鳴って出なかったら切ろう。そう思いながら携帯電話を耳に当てたけれど、イタチ先生はなんと2コール目で電話に出てくれた。

「…ヒメさん?どうした、今日はイヴだぞ」
「あ、あの、先生、今夜なにか予定とか…ありますか?」
「はは、残念ながら大した予定は何もない」
「じゃ、じゃあ!今夜、」

ピンポーン

最悪だ。
思わず舌打ちしそうになるほどに悪いタイミングで部屋に鳴り響いたそれは電話の向こうのイタチ先生にまで聞こえてしまっていたらしい。

「来客か?」
「…」
「俺に気にせず出てきたらいい、話ならいつでも聞くぞ」
「…すみません、またかけますね。」
「ああ。」

ありがとうございますと一言添えて電話を切り、そのまま玄関を開ける。
扉の先には、あろうことかサスケの姿。
まさかサクラが、と思ったときには既に遅く、サスケは寒い寒いと急いで中に入り後ろ手でドアを閉めた。

「いたいた、お前、サクラからの電話無視してただろ。」
「…両手に荷物持ってたから…別に無視してたわけじゃないよ。」
「まあ、そんなん俺にはどうでもいいが…ああ、ちゃんとプレゼントも用意してんじゃねえか、やっぱナルトから言われなくたってパーティー知ってたよな、毎年のことだし」
「え、あっ、これは」
「気にするな、ナルトも謝ってたし、今から行けば丁度間に合う。ほら行くぞ、荷物持て」

帰宅したばかりで、まだコートを着ていたのも悪かった。サスケは私がいつも出かけるときに持つショルダーバッグを左手で引っ掴み、右手で私の腕を掴む。無理やり私の首にバッグをかけて、ブーツを履けとせがんだけれど、生憎私に出かける気はない。それをちゃんと伝えようとしたところで、サスケの携帯電話が鳴った。

「あー、もしもし」
「サスケくん、ヒメいた!?」
「いた。今から連れて行く」
「よかったー!ヒメー!あんたプレゼントとか気にしなくていいからちゃんと来なさいよ!全員で集まれるのは今年が最後になるかもしれないんだからね!!」
「…っ、」

サクラの純粋な言葉が、胸を刺す。
そうだ。私たちは今年で卒業、来年からみんなバラバラの進路を歩む事になる。そうなったら、今までどおりこうして気軽に集まったりはできなくなってしまうのだ。
目の前には、まだ私の腕を掴んだまま早くしろと急かすサスケ。
私は、渋々ブーツに足を突っ込んだ。

本当はプレゼントを渡しに来るはずだったイタチ先生の家のマンションの前を通り過ぎ、ナルトの家へ急ぐ。もしかして、とエントランスを覗いたけれど人1人として出てくる気配はなかった。まあ、この状況で鉢合わせても何もいいことなどないのだけれど。

「ね、ねえ、サスケ、私プレゼント買いに行きたいんだけど、」
「あ?それ持ってるだろ、それで充分だ。それより急げ、始まっちまう」
「…」

飲み込んだ言葉は、白い息になって空虚に消えていった。


(20141224)


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thanx!! :)


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