0か100か


どくん、

どくん、

うるさいくらいに胸が鳴る。
顔を寄せられた右耳が熱い。
鼓膜がくすぐったくて思わず目を瞑り下を向いた。

自分で質問を投げたくせに、なにも言い返せない。
有り得る、けど、それは絶対じゃない。ありかなしかなら、あり、ってだけでしょう?
どっちにも転がせる言葉なんて真に受けちゃいけない。
なんでこんなに石橋を叩いているか、って?そんなの、イタチ先生と私が先生と生徒だから。一歩間違えれば私はただの勘違いしちゃってる子になるかもしれない。お互いに間違えたら、学校中に噂されてしまうかもしれない。一歩下手したらイタチ先生が犯罪者になってしまうかもしれない。サスケとの仲だって悪くなってしまうかもしれない。
上手く行こうが上手く行かまいが、私のこの恋がリスクしか抱えていないってのは自分でもよくわかってる。

「とりあえず…上がっていくか?久々に一緒に夕飯でも食べよう」

ああ、でも、もう、だめだ。
少しの可能性でも、"ある"ならすがりたいと思ってしまう自分を止めることなんてもうできそうにないから。

だから、私はそのままこくんと頷いた。
この先どうなるかなんて全然わかんないし予想もつかないけど、多分イタチ先生次第だと思う。
なんだかんだ言って、私はイタチ先生と前みたいに仲良く出来れば、それでいい。それだけで大分幸せだもん。

「食べたいものはあるか?」
「んー…じゃぁ、キャベツのお味噌汁が食べたいです」
「はは、懐かしいな」

きゅうん。

イタチ先生のさりげない笑顔に胸が鳴る。
これだよ。この笑顔がずっと見たかったの。

久々に通された彼の家は今までとちっとも変わってなくて思わず安心してしまったりなんかして。
ソファーに腰をおろしたとき、ふと視界に入った目の前のテーブルの上に女物の髪飾りを見つけた。
少し冷静になってもう1回見てみたけれど、やっぱりあれは女物の髪飾り。
あれ?イタチ先生、やっぱり。

「…い、イタチ先生、」
「ん?」
「これ…、」
「あぁ、それはアンコ先輩の」
「…アンコ先輩、って、体育のアンコ先生のこと?」
「こないだ飲んだとき相当潰れてたからな…忘れてったんだろう」

だめだ、なんか、私の脳はそこまで処理速度早くない。
確かにうちの学校は引き抜きも多いし先生同士も仲が良いのは知ってる。知ってるけど、流石に2人がどういう関係なのかとか、そんなの聞く勇気私にはない。
当たり前のようにさらっと言いのけるけど、それは私なんてどうでもいい存在だから?
それとも、アンコ先生と上手くいってるから?
それとも、それとも…

やっぱり、ゼロなの?

「おかずは何が良いか?今あるもので作るなら、鶏の唐揚げか…あさりの酒蒸しか…」
「先生は…」
「どうした?」
「イタチ先生は女の人とよくお酒飲むの?ここで」
「まぁ…たまに、だが」

ああ、早く帰りたい。
涙が零れてしまいそうで声が震える。
別にさ、先輩後輩だし、そういうのあると思うよ、社会人だし付き合いもあるでしょう、でも。でも。今の余裕がない私にはどうしようもないよ。

「それが、どうかしたか?」

喉の奥が乾ききって、声が上手く出ない。
そりゃ、イタチ先生からしたら、私にそんなこと関係ない、言う義理はないって思うのもわかる。めんどくさい生徒って思われていても仕方ないって言うのも充分承知の上だよ。

前言撤回。
イタチ先生と仲良く出来ていればそれだけでいいなんて、思ってない。
私はもっと、もっとイタチ先生に近づきたいんだ。

「…ちょっと…嫌、です」
「え?」
「イタチ先生がここで女の人と2人っきりでお酒飲んでるの、…嫌です」
「…どうした?なんでいきなりそんなこと、」

ゼロなんだったら、ゼロでいい。
それならきっぱり諦めるし、もうここには来ない。

でも、もし少しでも可能性があるなら。
例えば、1%でも私の気持ちが伝わるなら、可能性があるとしたなら。

「私…イタチ先生が好きなんです。」

意地でも100にしてやる。


(20140119)


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thanx!! :)


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