行き詰まり


「ちょっと、いつまでそんなテンション低いつもりー?あんたも歌いなさいよ!」
「気分じゃないのー!」
「さ、サクラちゃん、ヒメちゃんだってそう言う時くらいあるよ…」
「しょうがないわね…」

一応約束していたサクラたちの打ち上げカラオケに合流してみたものの、恐ろしい程にテンションが上がらない。これは一体どうしたもんか。
あのあと、私は空笑いをして逃げるように教室を飛び出してしまった。
今思えば失礼なことをしたなぁと思うけど、なんていうか、その、あの時はどうしようもなかった。少しひねくれた考え方をすれば、イタチ先生が男だってことは誰が見たって分かることだし、私だってもちろん知ってたし。ただ、その場で冷静に対処できなかったってとこが、なんていうか、もう、負けというか、取り返しがつかないと言うか。
そもそもあのセリフはそんな単純な意味で言ったんじゃないって…解ってるから。

「もう…どうしたら良かったってのよ…!」

目の前のカルピスソーダをぐいっと一気に飲み干す。
目の前でバカ騒ぎしてるサクラたちを見てたら、なんかもうどうでもよくなってきた。今更終わったことはどうしようもないし、今は今!もう知るか!今日は忘れるがごとく騒ぎ倒してやる!

「無理すんなよ」
「…へ、」
「なんかあったんだろ?」
「な、なんで」
「フン、お前はすぐ顔に出るからすぐ分かる」
「ははは、サスケにはなんでもお見通しだね、」
「当たり前だろ」

サスケにわしわしと頭を撫でられるがままになっていると、ぐわんぐわんと視界が揺れた。
そしたらなぜだかまたじわじわと涙が溢れてきて止まらなくなった。

「お、おい、」
「ごめん…今日はもう帰るね」
「なら送って」
「いい、ちょっと…頭冷やしたい。」

恥ずかしさと混乱があいまって、私は半ば飛び出すようにお店を出た。
勿論サクラといの、ヒナタも追いかけてこようとはしてくれたけど、本当にそんな気分じゃなくて。誰にも話せない気持ちを抱えたまま、私は家への道を歩いた。

イタチ先生のマンションの手前で、イタチ先生の部屋の窓をぼんやりと見上げる。
電気が点いていないから、まだ帰っていないのかな。
こんなことが気になるようになったのは、一体いつ頃からだったかな。
イタチ先生の隣が心地いいと思ったのは、いつだったかな。

なんで、あんなこと聞いてしまったんだろう。
あんなこと口走らなければ、今までみたいに普通でいられたかもしれないのに。

「…ヒメさん?」
「…あ、イタチせんせ、」
「また泣いてたのか?痕ついてるぞ」

イタチ先生の右手が私の目の端を拭ったと同時に、私の目からまた涙がぽろりと零れ落ちた。
今泣きたくないのに、どうしてか涙腺が言うことを聞いてくれない。
このイタチ先生の優しさも、よく分からない。

「ごめんなさ…」
「別に謝らなくていい、俺は別に泣かせるためにあの台詞を言ったんじゃない」
「…え、」

もしかして、もしかして、もしかして。

私が今思っていることが、ほんとうだったとしたら。
イタチ先生の言ったことが、そう言う意味なんだと、したら。

私の顔が恐ろしく熱くなっていることも、たぶん真っ赤になっているであろうことも、道理にかなっていることなのかもしれない。

でも、

「そ、そんな、イタチ先生が男だってことくらい、知ってます」

あれだけのフラグを立てた上に回収しておきながら、私にそんなこと聞く度胸はなかった。

"イタチ先生は私のこと好きですか?"だなんて、自信過剰にもほどがあったし、
"私はイタチ先生のことが好きです"なんてのも、勇気がなくて言えなかった。

だけどこのままじゃ、2人きりの晩ご飯も、お勉強会もなくなってしまう。なくなるどころか、その思い出がきっともともとなかったことのように私たちの間から消えていってしまうんだろう。
それだけはどうしても嫌だった。
あの心躍るような思い出たちは私とイタチ先生を結ぶ唯一の繋がりだったから。

「…そうか、そうだな」

乾いたような笑いを付け足して、イタチ先生は短い言葉を吐き出した。
今イタチ先生がどんな気持ちでそんな態度になっているのかは解らないけれど、すごく冷たくて重い空気が私たちを包んで離してくれない。

イタチ先生は少しの間を置いて、私のほうへじりっと1歩にじり寄った。

「だから、」

ぐっと腕を引かれて、ふわっと耳元にイタチ先生の吐息がかかる。

「有り得る。」


(20140107)

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thanx!! :)


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